【97話】アルテシアンナ⑥
アルテシアンナに来て、そろそろ1年経が経つ。
そう、僕は14歳になっていたのだ。
前世の力を70%継承して、今の力をプラスしている。
単純な腕力と速力は、前世の僕を若干超えたと感じる。
毎日真面目に鍛えて良かった。
後は、呪文と体力だな。
14歳になる少し前、大した努力もしていないのに、朝起きたら魔法を覚えた。
その名も『キュアディシーズ』名前からして病気の治療と見ました。
出来れば頑張って、覚えたかったんだけどな。
達成感がないと、喜びがイマイチなんです。
空き時間を有効に活用するため、金稼ぎのネタになることを考えていたけど、思い浮かばない。
ある日、2人いる御者のうち1人が、地面に上手な絵を描いていた。
特長を上手く残したまま、デフォルメされていて面白い。
ふと思い立って、小さな木版にドルデルガーさんの絵を描かせてみた。
その出来映えは、見事と言うしかなかった。
時代が時代なら、同人誌を描かせたい。
こいつは使える。
「たしか、君はテインだっけ?」
個人的にスカウトするため、名前を聞いてみた。
「違います、アーティスです。テインはもう1人の奴ですよ、男爵様」
間違えちゃった。
「君のその技術を生かして、僕のお抱え『絵師』として、雇われる気はないかい? 給料は弾むぞ」
アーティスは数秒考えた様子を見せた後、こう答えた。
「ありがたいお話ですが、親友を捨てて、1人男爵様にお仕えするのは……」
あの御者達はいつも仲が良さそうだ。
親友とはもしかして。
「アーティス、その親友も絵が上手かったりするのか?」
期待を込めて聞いてみる。
「いえ、私のようには描けませんが、私が描いた絵をそっくり真似をするのは上手いです。テイン、ちょっと来てくれ」
ビンゴだった。
それならば2人まとめて雇える。
だが、ここに嬉しい誤算があった。
テインは一から絵を描くのは苦手だが、ま横に置いたアーティスの絵を、そっくりそのまま描き写したのだ。
天才だった。
おい……見てるかビッグ○イトに集まる壁際の絵師達よ……お前等を超える逸材がここにいるのだ! それも……2人も同時にだ。
でも、ここは剣と魔法の世界。
宝の持ち腐れだね。
でも、僕なら君達を上手く使うことが出来るかもしれない。
僕は、2人を正式に雇い入れた。
………………
「どうですか、ドルデルガーさん? これは売れると思いませんか?」
「う……む……確かに面白い、しかし売れるかと言うと、これは……」
「あら、あなた試してみるのも良いじゃないのかしら? 原価はただ同然なのでしょう?」
僕らが作って提案したのは『十大貴族デフォルメカード』
木簡を利用して、今まで見たことがある公爵のデフォルメキャラを描かせてみた。
現在描けたのは以下の通りだ。
王位継承権第一位、ユーロガッポ公爵
王位継承権第三位、ゼニクルーガー公爵
王位継承権第五位、ドルデルガー公爵
王位継承権第六位、ギルダエルダ公爵
王位継承権第七位、ウォンタマル公爵
王位継承権第八位、ペソヤーマ公爵
王位継承権第九位、ポンドフィバー公爵
の七公爵だ。
アイスプラントを広める過程で、繋がりとまでは言わないけど、アーティスも貴族の顔を見る機会があったんだ。
しかし、一度しか見たことがない貴族を、これほど可愛くもカッコイイキャラに仕立て上げるとは。
これについては、近日中に王都に行く予定があるから、確認を取ると言う事だった。
◇◆◇◆◇
ついに、米の栽培マニュアルの一部を、閲覧出来るまでに信頼を得た。
と言っても、半分は翻訳されておらず、絵を頼りに解読したようだ。
これだけ言えば解るだろう。
米の栽培方法は、遺跡から出土されたマニュアルにあったのだ。
僕は、品種改良以外の閲覧が可能になっていた。
玄米を薄い塩水に浸けて、沈んだものを採用する方法から始まって、わざと温度変化を与えて発芽を促したり、水田の作り方、水の抜くタイミング、雑草を抜くタイミングから、収穫まで事細かに記載してあった。
今回は、雑草の処分をするタイミングだったらしく、見学をすることが出来た。
田んぼの雑草を見つけては抜く、と言う行程を繰り返していた。
「あっ!」
「どうしました? ランディ君」
最近だけど、ドルデルガーさんとはだいぶ親しくなって『さん』と『君』で呼び合うようになっている。
僕は、アルテシアンナの大きな欠点に気がついた。
アルテシアンナは見ている範囲内では、かなり裕福な国だ。
今回の飢饉だって、領主が国に助けを申請すれば、餓死者は出ないくらい、国の基板はしっかりしている。
盗賊にしたって、目立つような輩はいない。
ドルデルガーさんの話だと、いるにはいるんだが、食えなくて盗賊になるんじゃないらしく、楽して金を得るために、盗賊をやるらしい。
そのせいか面倒な事に、大半の賊は小規模で存在してるから、発見駆逐に手間がかかるらしい。
話を戻すが、稲作に携わる人々に貧しい者はいない。
だからこれに気づかないんだ。
しかも、マニュアルに頼りすぎている。
だから、ドルデルガーさんにお願いした。
「この雑草を、全部下さい」
……
…………
抜いた雑草には、丸い根っこがあったのだ。
先ずは『塊茎』と呼ぶ部分を洗う。
綺麗にしたら、そのままパクパクと食べる。
シャクシャクとした歯応えに、ココナッツと栗の渋皮を混ぜたような味。
そのままで食べたにしてはかなり美味しい。
アク抜き推奨だけど、ドングリとちがってアク抜きなしでもイケルイケル。
「…………ランディ君、それは食べれるのかい?」
今まで、大人しく見ていたドルデルガーさんが、質問してきた。
アーサーじゃないから、食べただけじゃ判らんよ。
「はい! そこそこ食べたので、明日の体調を見て食べれるか判断しましょう」
「……ランディ君は、君は自分を使って試したのかい?」
その通り! でも大丈夫だとは思うんだよ。
予想通りなら、これは『カヤツリグサ』だから。
もし品種が別物で、これが有毒だったとしても解毒出来るしね。
ただ引っこ抜いた時期が早いから、塊茎が小さかったな。
こいつの生命力は雑草並みだから、プランターを、作って栽培してみよう。
「はい、結果は明日の昼にでも」
……
…………
翌日
「ドルデルガーさん、具合が悪いどころか、気持ち調子が良いです。健康食品ですね。乾燥させれば日保ちもします。大成功です」
「ランディ君……君はいったいいくつの奇蹟を起こすんだい? おや、それは?」
さすがドルデルガーさん、僕の内職にいち早く気付いた様です。
「これは、昨日頂いた雑草を叩いて叩いて叩きまくって、○○を入れて煮込んでみました。アルテシアンナには上質の紙がありましたね。これが原料になるか持ち込んで下さい」
「…………」
ドルデルガーさんは、目眩でも起こしたのかふらついた。
どうしたの? 回復必要ですか?
……
…………
結果は上質とまでいかなかったけど、そこそこ高値で取引出来る原料に認定されました。
分かりやすく言うと、今のわら半紙以下の品質かな。
折り曲げには弱いし、厚みもバラつきがあるしね。
しかし、アルテシアンナに漂泊の技術があるとは思いませんでした。
そのうち、カヤツリグサでももう少し質の良い紙を生み出すかも知れません。
この2つの利権は、ドルデルガーさんのおかげで、殆ど僕の物になってしまった。
僕の帰りの日は近い。
※ランディ 十四歳
※ギフト 暗黒女神の愛
※魔法の種別 回復系
※使用可能魔法『ヒーリング』『エクスヒーリング』『グランヒーリング』『アルテミットヒーリング』『デトックスA~F』『ニュートラライズポイズン』『キュアディシーズ』
※魔力総量 4481
※クレリック呪文 第1レベル 35回
※クレリック呪文 第2レベル 32回
※クレリック呪文 第3レベル 28回
※クレリック呪文 第4レベル 24回
※クレリック呪文 第5レベル 20回
※特技『神速』
新魔法キュアディシーズの解放条件
→魔力総量4444です。
まあ、失われるわけですね。
カヤツリグサは タイガーナッツとパピルスを参考にしました。
ランディ「そろそろ帰ろっかなぁ」
ドルデルガー「残念だがランディ君は帰れなくなった」
トワイライム「もう、あなたの家も建築中なのよ? こちらに永住しなさい」
ランディ「(;゜∀゜)!」




