【96話】ランディ爆走の結果
【兵士Cの場合】
俺は、ドルデルガー様の大切な客人である、ランディ男爵を何度も見ていた。
みんな口々に、頭の良さや戦闘能力を、凄いだの化物など言っているが、みんな解っちゃいねぇ。
あの男爵絡みで、一番不思議なのは、あの『荷馬車』だ。
俺は何度も見ているが、あそこから何万、何十万と言う苗が取り出されている。
どう見ても、苗と荷馬車の容量が合わない。
しかも、苗だけでなくニンジンや他の食材も、大量に出てくる。
不思議だ。
俺は、荷馬車の中身が気になって気になって、ある夜、中を覗く事にした。
ほとんどの者が寝静まったころ、俺は荷馬車の目の前まで来ていた。
そして、荷馬車のホロを開いて覗き見た。
な、中身は、中身は……
「みぃ~たぁ~なぁ~」
驚いて振り返ると、ランディ男爵が物凄い形相で笑っていた。
「ぎゃ……モガモガ」
「くくく、アレを見てしまいましたか、仕方ありません」
ランディ男爵は、俺の両手を掴むと、そのまま振り回し始めた。
100回以上回された後、両足を掴まれて再び回される。
頭と手の先に血が集まって、気持ちが悪くなってきた。
「準備完了! 第1レベル呪文……コーズフィア」
ここから、俺の記憶がない。
ただひとつだけ解る事は、あの荷馬車に近づくと、足がガクガクして、気持ち悪くなる様になってしまった。
そう言えば、俺は何をしたかったのだろう。
今となっては、思い出すことも出来ない。
Fin
【女王Aの場合】
ランディと言う少年に命を助けられ、それどころか、あの『ガーディアン』まで私に授けてくれた運命の日。
彼の話だと、髪と少量の血液があれば、支配できるガーディアンは増やせると聞いたのじゃ。
だが、それより問題だったのは、私の婿だったのじゃ。
あやつは、女性が国王になるのが反対だった者を集めて、暗殺計画を実行したのじゃ。
ガーディアンから身を守る手段の『通行器』に細工して、事故に見せかける第1案。
しかも、計画失敗を念頭に置いて、次の案まで用意しておった……恐れ入ったのじゃ。
暗殺計画の第2案では、ガーディアンに助けられ、婿と協力者の尻尾を掴んだのじゃ。
ガーディアンには、直接助けられた事もあるが、アレを従えさせるだけで、私を真の王と平伏する者も多く、国を動かしやすくなったのじゃ。
髪はあの時より、もう少し短くなってしまったが、私には2体のガーディアンがいるのじゃ。
内政が安定し、直ちにアルカディアに、使者を送ったのじゃ。
もちろん『4種の秘薬』付きでじゃ。
欲を言うなれば、ランディのような素晴らしい家臣が欲しいのじゃ。
ランディは男爵、若いせいだとは思うのじゃが、あの能力には物足りない爵位。
私だったら、宰相か、大臣にしたいくらいじゃ。
私を陥れようとした婿は今、首だけになって国中を旅している頃じゃろう。
それより、信頼のおける新たな婿殿を探さなくてはな。
私は、再びランディの姿を思い浮かべていた。
どうせなら、彼に少しでも似た男が良いな。
Fin
【D公爵夫人の場合】
私はお父様が、何故あんな少年を寄越したのか理解できない。
特務隊の幹部アルテリオンまで、少年を押す始末。
しかし少年が言うに、不作の原因は『塩害』だと指摘して、尚且つ塩害対策の植物まで持参していた。
この時私は、お父様の敷いた道に乗っただけの、ただの優秀な少年だと思っていた。
だけど、その予想は、私でも知らなかった遺跡からの贈り物『4種の秘薬』を所持していた事から、大きな勘違いだと気づいた。
夫に聞くと、友好国の王国に新たな王が即位した時に贈られる、大変貴重な遺物だったらしい。
私は、少年の評価を保留にして監視する事にした。
少年を調べて僅か10日、少年の護衛が2人ともギフト持ちであることが判った。
そのうち1人は『竜神の愛』のレアギフトだと聞いたから、さらに驚きました。
大の大人を小荷物を投げる様に出来る力がある、と証言があった事から、間違いないのでしょう。
しかし、情報を集め過ぎると、間違った情報まで入ってくる。
例えば、少年の護衛2人がかりでも、少年の方が強いとか、少年を気づかって施行された『訓練施設の出入り禁止』の理由が、少年1人にプライドをボロボロに崩されたとか、4種の秘薬をまだ2つも所持しているとか様々でした。
そんなこと、ちょっと考えれば、あるわけないのに。
しばらくすると、アルテリオンの言葉が事実だとわかる。
ソルトリーフ、ジャガイモは不作の著しい土地でも元気に育ち。
ソルトリーフと塩トマトは味も良く、大きな利益を生み出した。
さらにソルトリーフの生命力は凄まじく、一気に国中に広まって行った。
それだけでなく少年は、岩塩鉱山と塩湖を発見し、二種類の塩を生産出来るようになった。
しかも、その土地は狂暴な獣たちが蔓延る場所だったのに、安全地帯を見つけ無血で塩を採取できる。
夫はこの貢献により、度々王都に呼ばれていた。
そして、この飢饉を利用して、チャンスに変えたいと願った通り、夫は王位継承権を上げる事が内定している。
それも、全てお父様が用意してくれた、不思議な少年のお陰です。
願わくば、あの少年ランディを夫の側近に置きたいものです。
ランディが居れば、夫が国王になるのも、夢じゃありませんからね。
Fin
【W王の場合】
子供に長旅させるような思いで、ランディをアルテシアンナに送った。
根拠はないが、彼なら上手くやってくれるだろう。
アルテリオンの報告だと、現地で傭兵を雇うよう多目に渡した金は、ターベールで食糧の購入をしていたらしい。
あの程度の護衛で、盗賊なんぞに襲われたらどうするんだ!
特務隊を2人随伴させたのだが、強く成長して帰ってきた。
ランディは道中、何をしていたんだ?
ムアミレプ王国では、若干のトラブルに巻き込まれたらしいが……心配だ。
さらに月日が経過したある日『ムアミレプ』『ターベール』『アルテシアンナ』から書状を携えた使者が、僅かな期間で立て続けにやって来た。
1番目のターベールは、宰相からの手紙で『アルテシアンナからの帰りに、ライトグラム男爵を招待したい』とあり、半月程の滞在許可を申請してきた。
あやつは、何をやらかしたんだ?
2番目のムアミレプからは、なんとアンジェラ女王直筆の書状だった。
書状を読む前は、女王と王婿のイザコザを、我が国のせいじゃないのかと、難癖を付けられるのかと思っていたが、書状はランディに命を助けられた内容だった。
あやつは、真っ直ぐ目的地に行くことも出来ないのか?
3番目は、娘のトワイライムだった。
中身は、ランディを夫のドルデルガー公爵の側近にしたいから、くれと書いてあった。
ふざけるなっ! いや、その前に何をしたランディィィ!!
「はっはっはっ、オヤジィなんか楽しそうだな?」
「楽しくなんかないわっ! この歳にして髪の毛が抜けるような気分を味わったわ」
バカ息子が、面白そうに笑っている。
次男は王になれないからと言って、甘く育てたのが失敗だったか。
注:三男のロベルト王子の方が、甘く育てられています。
「オヤジィ、もう少しすれば『八武祭』だな」
そうか、もうそんな時期か。
「今回も、サウスコートの優勝だろうな。サンジェルマン」
一昨年はテスター・バスター率いる『イーストコート高等学院』が僅差で優勝して、去年は両手魔法を使いこなす『サウスコート高等学院』が圧勝していた。
「去年の試合は見てねぇが、ウエストコート学院も頑張ったんじゃねぇのか?」
国王は頷くと、思い出すように語る。
「昨年のウエストコート高等学院は、サウスコート高等学院の劣化版のような感じがした。両手魔法を巧みに使い、他の学院を圧倒したが、錬度でサウスコートに2歩及ばなかった」
「今回の王子随伴は、俺の番だから面白くなると良いな」
国王は問題児の参加に、ため息をつく。
「今年はキャリスを連れて行く」
「うへぇ、アイツ俺より強いから苦手なんだよな」
人神の愛と言うレアギフトを持つ、サンジェルマンに自分より強いと言わせるのは、王宮騎士団団長、キャリス・フォン・ナイチェスター。
戦闘狂スクット・リッツより強い、国内最強とされている男だった。
Fin
【E公爵の場合】
最近ドルデルガーの奴が調子に乗っている。
不作の原因を突き止め、新たな作物を開発して、一部は独占することなく、市場に提供した。
それだけならまだしも、我ら海に面していない領主の弱味である塩にまで、恵まれやがった。
調べると、ギリギリドルデルガーの領内だが、ひとの住むことがない山岳地帯だ、あそこなら何とかなるな。
ドルデルガー領には直接通らず、他の領地へと迂回させ、大回りしながら岩塩を横取りするため大部隊を投入させた。
あの場所なら、たとえ見つかってもしらを切れる。
しかし、もたらされた結果は悲惨な物だった。
「が、岩塩採掘隊、は、800人……ぜ、全滅しました」
「昔の言い伝え通り、巨大な獣が現れました」
「い、生き残ったのは、ひゃ、100人足らずです」
ま、不味い。
このままでは、王位継承権第一位の私が、次期国王の私が……
おのれドルデルガー!
決してキサマを王になど、させてなるものかっ!
見ておれ、ドルデルガー!
次の王になるのは、この私だ!!
おまけ、
ロイエンとクラリスの場合
「あなた、先程悪寒を感じました」
「ああ、俺もだ……ま、まさかランディに」
「あの子、また活躍したのかしら?」
「悪寒を感じたのはこれで3度目だ……不味いな」
「あの子が出世しちゃうじゃない」
「ランディが出世しちまう」
「おい、悪寒を感じたなら、ボンの心配をしような? 親だろ?」
「あの子は大丈夫です、信じていますもの。それより……」
「子爵になろうもなら、俺はどうすればいいんだ? 領地経営なぞ出来ないからな」
「ダメだこりゃ」




