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【95話】アルテシアンナ王国⑤

 塩害の原因は高確率で、河の上流にあると見た。


 水路が高水準で機能していたのが、仇になってると思う。


 上流に行きたいと伝えたら、ドルデルガーさんは、眉を寄せた。


「3日ほどかけて上流に向かうと、人間の立ち寄ることがない、ヨウレイ山にぶつかる。人里には来ないが、ヨウレイ山には恐ろしく強力な獣等が生息している。原因がそこにあるのなら、千単位の人員を以て挑まねばならぬだろう」


「そうですね。アルテシアンナの軍隊は特殊で、殆どが国境警備と王都に主力を置いています。ここの領地でかき集めても、1000人を超えるかどうか」


 そうか、ここは入国規制が厳しいし、食料も豊かだから、アルカディアより盗賊など、たちの悪い輩は少ないのか。

 だから、軍隊を中心と国境に偏らせても問題ないのか。



 と言うわけで、猛獣の生息地には、僕とダナム、テスターの少数精鋭で行くことにする。


 猛獣相手に大人数で行くと、それに付随する人員も必要だし、非戦闘員を警護する人員も要る。


 だが、3人で行動を起こした事に、少々後悔した。


 ドルデルガーさん率いる小隊は、山の麓付近に、ある村に待機している。


 そして僕達は既に山の中だ。


「ランディ、贅沢言っちゃ悪いと思うんだが、この肉不味いな」


 ダナムに言われなくても分かっている。


 カバに似た動物に襲われて、返り討ちついでに、食材になってもらった。


 しかし、捌き方や調理に問題があったらしく、美味しくない。


 でもこの獣程度なら、ダナム級の強さを持った兵士2人も居れば処理できると思う。


 1000人必要とか言い過ぎじゃねえのか?



 山を登って暫くたって、ようやく軍隊が必要な理由を理解した。


 2匹の地竜を見つけた。


「で、でかい。こ、これは不味いな」

「ランディ、これはまず勝てない」


 ダナムとテスターの言い分は、とりあえず無視。


 気になるのは、地竜の態度と一部むき出しになっている白い地層だ。


「第4レベル呪文……翻訳」


 すると、グゴーグゴー言っていた地竜の言葉が、理解できるようになった。


『ここのエサ場は、ドランゴ一族の者だ』


『いいや、このエサ場は以前から、ドランガ一族の場所と決まってる』


『今日こそ決着をつける!』

『今回こそ決着をつける!』



 そう言って2頭の地竜は争いを始めた。

 恐らく地竜の代表者と思われる。


 そして気になる地層には白い塊がみえる。


 なにも知らずに見たら、この答えにはたどり着かないが、今ならこの塊は岩塩かもしれないと予想が出来る。


 しかも、地竜達が喧嘩ついでに、岩塩を砕いていやがる。


 それだけが塩害の原因とは決められないが、原因の1つと見て良いかも知れない。



 少し考える…………



「ダナム、ランディのにやけ顔に嫌な予感がするんだが」


「テスターの意見は正しい。しかし、結果はランディの都合の良いものなる……しかし今回だけは不味いきがする」



 あの2人、連れてこない方が良かったかな。


 でも、たしかに良いアイデアは思い付いていた。


「第5レベル呪文……ストライキングス」


 今回、ストライキングスは僕の体を対象にして、使ってみた。


 両腕、両脚、頭部に臀部。


 もちろん臀部を使って戦う予定はない。


 後は地竜の使う言語で話す。


『ちょっと待ったぁ!!』


『ぬ? 』


『人間だと?』



「気のせいか、あの化物と会話してないか?」

「気のせいだろ、いくら化物同士だからって、会話とか非常識だろ?」



『僕はランディ。 ここの縄張り争いに参加しに来た』


『キサマ、我らと言葉が話せるのか』


『話せるからといって、脆弱な人間風情が我らの闘いを邪魔するとは許せん! 闘い前のおやつにしてくれよう』


「第2レベル呪文……オグルパワー、第2レベル呪文……鋼皮LVⅠ」



「ランディ!?」

「危ない!!」


 地竜は僕に突進して攻撃を仕掛けてきた。


 1体は噛みついてきたが、それを巧く避ける。

 もう1体は、尾で叩きつけてきた。


 これをわざと受け止める。


『グゥ、さすが竜、今度はこちらの番だ』


 素手の攻撃など効くものか!と言わんばかりに、僕のパンチを身体で受け止める。


『グォォォォ、これが人間の攻撃だと!?』


 もう1体には、蹴りをお見舞いした。


『道具に頼らねば、なにも出来ぬ脆弱な人間に、これほどの力が』


『さあ、3人で縄張り争いを始めよう』



 ……

 …………


 勢いで始めた素手の戦いには、無理があった。

 特に、僕を一人前の敵と認めてからは、厳しい戦いになった。


 いくら腕力を上げて、追加ダメージ効果を付加しても、地竜にダメージを与えるにはかなり踏ん張る必要がある。


 そうすると、地竜の攻撃を避けるのは難しくなってくる。


 一撃で骨が軋み、凄まじい痛みが襲う。

 こんなの10回も喰らったら、死んでしまう。

(普通の人間は1、2回)


 だが、回復魔法で、ダメージを回復させる。


『バカな、既に本来なら内蔵をぶちまけてるはず』

『我らの体にダメージを与えるとは、お前は人間か?』


 僕より圧倒的に大きい敵は、闘い辛い。

 経験不足を感じると共に楽しさが込み上げてくる。


 回復魔法を20回くらい使ったあたりで、地竜がダメージでやっとよろける様になった。


 もう少しだ、と思った瞬間、頭に回避不可の攻撃が側面に来た。


 首に力を入れ、爪先で身体を浮かせるのが精一杯だった。


 視界が揺れ、音も判別できない状況に陥った。


「くっ、グランヒーリング」


 しかし、回復が始まらない、失敗した!?


 まさか、意識が朦朧としている最中は、回復魔法はうまく発動しないのか?


 ドガァァァァァン!


「ゴハッ」


 地竜の体当たりをモロに喰らってしまった。

 こんなところで、命の危機を迎えるなんて。


 口から吐き出される血の量が多い。

 内蔵にかなりの損傷があるのだろう。



 反省しよう、本気を出したつもりでも、まだ全力を出しきれていない自分の戦いを。

 詫びよう、強敵を相手に、定石とはいえクレリック呪文を温存した事に。


 口内に溜まった血を吐き出し、纏わり付く残りは強引に飲み込む。


「うおおおおおおお! 第5レベル呪文……オールヒール!!」


 一瞬で完全回復した直後、止めと思われる地竜の噛みつき攻撃が目の前にあった。


 上空に避けて、地竜の頭に乗る。



 さあ、ここからが本番だ。


「第4レベル呪文……リバース……クリティカルダメージ」


 パンチの直後に、回復呪文のリバーススペルをつかう。


「ゴアアアアア!? なんだこの威力は?」


「第4レベル呪文……リバース……コーズデス」


 死を与える呪文コーズデス、この生物には通用しないが、代わりに生命力を削る効果がある。


『なんだと!? 力が抜けるぅぅ』


 地竜は2対1の構成をせず、1対1対1で戦ってくれた。




 昼過ぎから始めた縄張り争いは、日が落ちる頃に、僕の勝利で幕を閉じた。


『グゥ……参った。ここの縄張りはドランディの物だ』


『ドランディ、そなたは人間の王か? この半年ドランゴーと、決着がつかなかったのに、たったの数刻で我が負けるとは』


『はぁはぁ、なんとか勝った。でも、僕はドランディじゃなく、ランディです』



 2頭の地竜は残念そうに頭を垂らしていた。

 それほど、ここの場所は魅力的なんだろうな。


『ドランゴー、ドランガー、僕の縄張りのルールは、みんな仲良くエサを食べるって事だ』


『なに?』


『どう言う事だ? ドランディ』



 何故『ドランディ』なんだ?


『ランディです。僕の縄張りを喧嘩禁止のみんなの場所にします。もちろんドランガー、ドランゴーと僕のグループ以外は好きにしちゃって下さい。それに決着したくなったら、他でやってくれれば良いですから』



『理解したぞ、ドランディ』

『ドランディ、お前に従おう』


 こうして、僕は他国に自分の縄張りを作ってしまった。



 ◇◆◇◆◇



 ドルデルガーさんと、多くの兵士、傭兵がビクビクしながら、縄張りを整備している。


「本当に襲われない……客人の少年が言った通りだ」


「紅い布を纏えば、襲われないのは本当だった」


「ランディどの、そのような秘密に、どうやって気がついたのだ?」



 説明が面倒だから、この地区に限り紅い布を纏った者は襲われないと、ごり押しした。


 ここから、すぐ近くに塩湖が存在した。


 まあ、塩害の原因は『塩湖』『岩塩』『地竜の縄張り争い』だろう。


 塩湖や岩塩からは塩が取れるって事で、ドルデルガーさんの領では、塩を高値で買っていたのが、塩で利益を上げられるようになったと、嬉しい悲鳴を上げていた。


 この後、たった数ヶ月でドルデルガーさんの生活が激変し、寝る間も惜しいくらい、忙しくなったらしい。




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