【92話】アルテシアンナ王国②
もう1摘まみだけ、土を口に運ぶ。
そして、アーサーの気持ちになって喋ってみる。
「この土 美味い 塩味 する」
どお? そっくり?
僕の味覚が、特別なのか解らないけど、この土には塩が混じってる……気がする。
塩が混じってると、ほとんどの作物は育たない。
塩害と言うやつだ。
ネギとかアスパラガスは、ある程度耐性があるだろうが、詳しいことは解らない。
だって、育てるより食べる側ですから。
ここの、ドルデルガー公爵にどれだけの意見が出来るか解らないが、試させて貰おう。
幾つかの村を経由していると、村人達の活気がない。
村人の数人に話を聞くと、元気の原因は不作だった。
税金は半額免除して貰った上に、保存できる食料が配られているらしいが、保存食は不味いし、出来るだけ早く対策を打たないと、そのうち村が滅んでしまうと愚痴っていた。
率直な感想を言うと、この飢饉に僕はこう捉えた。
村単位では、死活問題。
領地単位では、国に頼れば食べられるが、政治的には死活問題で、数年先もこのままなら危険。
国家単位だと、頑張ればカバー出来るが、不作が続くと国力は徐々に落ちていく。
かなり危険なのだが、元々豊かな国だったせいか、人各々で危機的状況の捉え方が違う。
だが、これは好都合だった。
だって今現在、飢饉が始まっていたら、この程度の物資じゃ、町の1つか2つを一時的にしか救えないし、僕の呪文をフル活用しても、1000人程度しか養えないよな?
と、思って久しぶりに、ランデイヤの記憶の引き出しを探る。
ほら、全力で食事に力を傾ければ、カロ○ーメイト3200食分に、その他の食料1000食分。
冒険者用の食事量だから、一般人が飢えを凌ぐなら、一日一食分で足りてしまう。
ヤバイ、チートだった。
忘れよう。
何十日もかけて運んだ食料を、5日もあれば余裕で賄えるなんて……忘れよう。
で、住民が飢える前なら、対策を幾つか立てられるから、やりたい事をやってみよう。
……
…………
ドルデルガー公爵が住居にしている大きな町が見え始めた時、馬にまたがった兵士が数人やって来た。
「突然呼び止めて悪いが、そなたらはアルカディアからの使者、ランディ・ライトグラムで間違いないか?」
おっと、いきなり身バレしてますが。
「はい、僕……じゃなくて私がランディ・ライトグラムです」
お馬さんの上で話し合う兵士たち。
会話の中身は『聞いてはいたが、本当に子供だった』『思った以上に子供だ』『そう、言えば見た目と違って化け物だから気を付けろとか言われたっけ』『化け物とかはハッタリで、弱い男爵を守る狂言じゃないのか?』とか、声が聞こえてるんですが?
そのあと、馬上から下りてキッチリと挨拶をされた。
が、最後の言葉も聞こえていましたよ?
『3対2で、とりあえず無礼のないようにしよう』
ってね。
護衛達とは別れて、やってきた兵士の内、3人の先導で、町の中に入る。
残りは、ダッシュで町の中に消えていった。
今までの町と違い、2重の防壁で守られた巨大な町だった。
まあ、外周は木で出来た柵だったけど。
見た感じ外周の柵は、外敵対策って感じじゃなくて、農作物を獣から守るように作られているっぽい。
水路も引いているし、整備の仕方が、アルカディア王国より近代的だった。
町中を進んでいると、大きな建物が、規則正しく並んでいる施設が見えた。
そして、建物に近づいたら、幾人かの兵と身なりが違う2人の男性が待っていた。
って、1人はアルテリオンじゃないの?
特務隊の幹部で、女性を侍らせて僕を見送っていたアルテリオンが何故……
だが、身バレした原因は解った。
こいつに間違いない。
じゃ隣にいるのは、ドルデルガー公爵本人か、側近だろう。
馬から降りて挨拶をしたら、丁寧に返された。
「ランディ殿、よくぞここまで来てくれた。移動の先々で傭兵を雇い続ける大変さは想像に難くない。本当にご苦労だった。なるほど、アルテリオン殿の『少年とて、刮目して見よ』との言葉、今解った。ランディ殿は、病気のせいで姿は少年のまま歳を重ねたのだな。私がこの辺りを纏める領主の『カールハイツ・ドルデルガー』だ」
あれ? たくさん貰ったお金は傭兵用だったの? 僕、ターベールで食料買っちゃった。
それに、僕の事スゲー方向に勘違いしてる。
でも、説明すんの超面倒なんで、そのままにしておこう。
「しかし、私の想像より早く到着しましたね。もう数日遅いかと思いました。それより出発の時より荷物が増えていますし、私が用意した馬の内、3頭ほど、物凄く逞しくなってるんですが?」
この、食いしん坊を用意したのは、あんたか!
こいつら、ニンジン与えたら食う食う。
しかし、ニンジンはおやつだから、それだけ食べさせる訳にもいかないし、牧草をタップリ食べさせてから、いっぱい運動したら食べていいと伝えたら、言葉を理解しやがって、軍馬みたいに成長したんだよな。
このままニンジンを餌に鍛えたら、赤兎馬クラスまで成長するんじゃないかと思ってしまう。
「では、私は用の済んだ人材を引き連れて、アルカディアに戻ります。ランディさんには、先日話した通り残ってもらいますので、よろしくお願いしますドルデルガー卿」
「ああ、ランディ殿とその従者は任せてくれ」
なんか、僕の知らない所で話が通っているのは、複雑な気分ですね。
あっという間に、荷物と人々が捌けていき、残ったのは荷馬車が1つ、僕、ダナム、テスター、御者が2人の5人だ。
勿論、食いしん坊の馬、3頭もいる。
そうだ、これからこの馬達を『3馬カ』と呼ぼう。
そして、ドルデルガー公爵に連れてこられた、僕たちが滞在するであろう場所は、砦の機能を有した小規模の城だった。
「すごい、うちの王城と王宮騎士の本拠地を足して、小さくした感じだ」
「ランディ、テスター、それより訓練所があるぞ。滞在は長いんだ、出来れば一緒に訓練したいな。ランディと戦ってばかりだと、勝ち方を忘れそうだ」
うんうんと頷くテスター。
そして城門を過ぎると、使用人がズラリと並んで迎えていた。
ぶっちゃけ、食糧を運んだだけなのにこの待遇は、引く。
ダナムとテスターは満更でもない様子だ。
こっちの御者はガチガチに緊張してる。
「ささやかだが、宴を用意している。先ずは部屋に案内させるから、そこで暫くくつろぐがよい。御者の者も普通の部屋に案内させる。申し訳ないが今回は、皆と同じ席で食事をしてもらう。 緊張するだろうが、出来るだけ近い身分の者と、席をかこませよう」
ほう……公爵なのに、威張り散らしていないし、うちの御者にも、普通に話をしている。
好感度、少々アップだ。
案内された部屋は、非常に広く両隣にダナムとテスターの部屋まで用意してくれた。
「ライトグラム様、何か不都合な事がありましたら、なんなりと御申し付け下さい」
「それじゃ遠慮なく、もっと小さい部屋にしてください。ついでに、出来れば荷馬車が近い場所がいいです」
「…………」
わがまま言って、都合のいい部屋を用意して貰った。
隣にはダナムとテスターの2人部屋、さらには御者の部屋も近くにあるらしい。
部屋が決まると、食事会の準備が出来たようで、移動することになった。
でも、メイドさんの視線は言葉遣いとは裏腹に、残念な者を見る目に変わっていった。
まるで『お客様』だけど、しょせん田舎の下級貴族なのよね。
わたくしは、公爵様にお仕えしてるの。
本来なら、田舎のガキを相手にしていい存在じゃないの。
って、言ってるように見えた。
宴は、給仕の人と一部の兵士を除いた、たくさんの人々が参加しているって聞いた。
そして、質素、質素と言っていたメニューに驚いた。
予備知識
アルテシアンナは、貴族の箔を『王位継承権』できめています。
たとえ、王の直系でも、王位継承権上位から始まります。
国への貢献度で上がり、税収不足や不祥事で下がります。




