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【91話】アルテシアンナ王国①

遅れました。

ここから、タイトルが単調になりますが、ご勘弁を。

 ムアミレプ王国とターベール王国の国境の大半は、大きな河で分けられている。


 国と国との往き来は、下流では渡し船、上流では橋を使っている。


 ムアミレプ王国の山側の国境は、切り立つ岩山や生きた遺跡が邪魔をしているから、外敵から守りやすい国だと実感した。


 僕らは橋を渡って、ターベール王国に入った。



 ターベール王国の旅は、怖いくらい順調に進んだ。



 しかし、その順調さが、嫌な出来事を予感させる。

 だって『行きはヨイヨイ、帰りは○○○』だからだ。


 そんなつまらない事を毎日考えていたら、いつの間にか、アルテシアンナ国境まで近づいていた。



 アルテシアンナとターベールの国境は大部分は森林で覆われていた。


 むしろ、長く延びる森林地帯を国境としているみたいだ。


 密入国し放題だな。


 いまは、国境にあるゲートを通過するために順番待ちの状態だ。


 僕以外にも馬車に一杯荷物を載せて、待っている商人、商隊や農民と思われる人もいた。


 だけど、僕の抱える物資は1つの商隊にくらべると、百倍を軽く超える。


 実は支援物資の3分の1は、ターベール王国で購入したんだ。


 ここでは、長期保存の利かない物資を買い集め、アルテシアンナ王国に入るって指示だった気がする。

これについては支持書はなかった。


 しかし、前の順番待ちの商人と思われる夫婦の話が聞こえてしまった。


「あなた、なんか国境警備隊の数が、いつもより多くないですか?」


「そうなんだよ、仲間の話だと、10日くらい前から急に増員されたらしい。ハマーは何か知ってるか?」


「そうですね。なんでも特例で武器の持ち込みが制限されたらしい。 アルテシアンナの一部で飢饉が発生しそうだと、噂を聞いたから、そのせいかもしれませんね」



 兵士10人の上限から更に制限されるのか?

 今ですら、荷物と兵士の割合がおかしい事になってるのに、襲われちゃいますよ。


 ……

 …………


 僕らのゲートをくぐる順番が来た。


 警備隊の中でも、明らかに装備の良い兵が僕の所にやって来た。

 隊長さんかな。



「私は第25警備隊、中隊長のギガン・ドガンだ、この商隊の長は誰だ?」


 やっぱり、そこそこ偉い人みたいだ。

 それじゃ、王様に貰ったマニュアル通りに行きますか。


「はい! 僕、じゃなくて、私がこの商隊をあずかる、ランディ・ライトグラム男爵です。ドル出るガー公爵領に、物資を売りに来ました」


 よし、完璧に言えたぞ……言えたよね?

 発音とか変じゃなかった?


「なんとっ、その年で商隊の頭どころか、男爵だと!?」

(嘘を言ってるようには見えない。ならば、どこかの侯爵か伯爵のボンボンと見てまちがいないだろう。仕方ない、普通に相手をしてやるか)



「はい、この度、商会を任される事になりました。入国許可を願います」



「うむ、わかった。積み荷を調べるので暫し待ってくれないか?」

  (予想通り、ボンボンかよ……まったく爵位や商会は子供の玩具じゃないんだよっ)


 積み荷を、調べ終わると中隊長さんが、変な顔をしながら近寄ってきた。


「ライトグラム男爵殿、積み荷は問題ないのだが、今、我が国は警備強化期間で、武器を持った兵士の入国制限を強化しています。現在は1商隊につき6人までとなっている。男爵殿は10人の護衛兵士がいますね。申し訳ないが武器の没収、または、ターベール側での待機をお願いしたい」

(さて、どう出るかな小僧。ただのボンボンか、それとも……)



 あのう、これが戦時中なら100人いても足りないぐらいの支援物資なんだけど、6人とか無理だわ。

 で、あの夫婦の言っていた、警備隊増員の意味が解ったよ。


「分かりました。多い分の騎士達には、帰ってもらいます。で、そちらの優秀そうな兵はいくらで貸してくれるのでしょうか」


「ほう、気づいておりましたか、さすが若くして男爵殿になっただけはありますな。警備兵一人当たり2日間で大銀貨1枚、1日追加で銀貨2枚だ。ドルデルガー公爵領ならば7日程度だろう。雇いますかな?」

(さて、相場の約2倍だ。吹っ掛けてやったぞ。どう対処する?)



 なんか思ったより高い気がする。

 傭兵と違って、お給料が出てるんでしょ?

 だけど、こんな時は持ち上げて落とす。


 7日なら、大銀貨1枚に、銀貨10枚か。

 この世界の通貨は単純になっていて、知る限りでは世界共通通貨だ。

 解りやすく日本円に変換すると、こうなる。


 鉄貨→100円

 銅貨→1000円

 大銅貨→5000円

 銀貨→1万円

 大銀貨→5万円

 金貨→20万円

 大金貨→100万円

 金の延べ棒(小型)→1000万円

 金の延べ棒(大型)→1億円


 あくまでザックリな計算だから、もちろん誤差はある。



 僕は、ゆっくりと中隊長さんの前に、金貨を3枚並べた。


「金貨3枚? ちょっと待て、計算する」


 ……

 …………


「4人分か、減った分の補充と言うわけか。だが、大銀貨を混ぜないと分けられ」

「これは、あなた1人分です」


「な、なに!?」

(どう言うことだ?)


「僕の目は誤魔化せません。あなたにはそれだけ払う価値がある」

(と、テキトーに褒めてみる)


「…………」

(この小僧、解ってるじゃないか、ただのボンボンじゃないって事か)



「それでですね、他の兵士を10人雇いたいのですが、あなたほどの価値を見いだせません。これくらいで何とかなりませんか?」


 1人頭、大銀貨2枚を用意した。


「か、考えよう……しかし、私がここを離れるのは……」

(け、計算しないと分からないが、殆ど相場通りの金額だ……そして私の取り分は、吹っ掛けたうえに、およそ4人分の報酬……8倍か、ゴクリ)


「あなたほどの方なら、優秀な副官くらい1人2人いるでしょう。その人にここを任せたら? 僕は優秀なあなたを雇いたいです」

(ランディ秘技、褒めちぎり)



「わ、わかった、この私ギガン・ドガンが責任を持って、ドルデルガー公爵領まで案内しよう」

(よしっ! 大きな臨時収入ゲットだ! それに、この小僧、私の価値を解ってる)



「交渉成立ですね。これからよろしくお願いします」

(よし、結果的に安くすませたぞ。まだ割高感が拭えないけど、中隊長さんを手玉に取ったから問題ないかな)



「ふっふっふ」

 つい、笑ってしまった。


「クックックッ」


 中隊長さんも、笑ってる。

 もしかして、これが『Win Win』ってやつ?



 こうして、アルテシアンナ国内も順調に旅が進んだ。



 ◇◆◇◆◇




「ま、負けてしまった……僕はまだ、弱い!」


「あんまり落ち込むな、ランディ。俺様がむなしくなるだろ」


「そうだぞ、2年近く前はほとんど互角だったのに」


「「さすがの大師匠でも、4対1では勝てませんか」」



 ダナムとテスターの2人がかりでも、余裕で勝てるようになったから、4対1の模擬戦をやってみたけど、大負けしてしまった。


 ガックシ……


「ななななな、なんだ!? どいつもこいつも化物みたいに強い」



 中隊長さんがビックリしてるけど、何でかな? たしかにみんな強いですが、化物って印象があるのは、テスターくらいだよな。


 4対1の、訓練を思いついてから、しばらく負けまくった。


 ふと気付くと、作物が実っていない不毛な大地に変化していた。


 中隊長さんに質問しよう。


「男爵殿、事は公にしていませんが、ドルデルガー公爵領だけでなく、代表的な領地ではウォンタマル公爵領、ゼニクルーガー公爵領、そしてユーロガッポ公爵領も、同様の被害にあっているようです。食糧を運ぶ商人の往き来が頻繁になっています」



 最近、中隊長さんの言葉遣いが丁寧なんだよな。


「何故国外からの援助が頻繁なの? 他を見てるとそれほど深刻な状況じゃないような」


「それは、面子にこだわるからでしょう。特に王位継承権が20番以下の大貴族は、なにより国内での評判に気を使いますから、民を飢えさせてでも国に支援を求めるような事はしないかと」


 立場があるとはいえ、ちょっとこの国の貴族が嫌いになりかけた。


「しかし、ドルデルガー公爵様は、民よりの貴族と聞いています。国外のツテもユーロガッポ公爵様と被るらしく、王位継承権の落番覚悟で国に支援を求めると思っていたんですが、こんな隠し球があったとは」


 そう、言って僕らが運んできた支援物資を見る。


 とりあえず、嫌いになるはずだった、ドルデルガー公爵の事は、いったん保留にしよう。

 直に見ないと判断できない。


 それにしても、大地は潤ってる様だし、開墾された農地がダメになってる原因が解らない。


 みんなの休憩中、畑の前で座って考えた。


 アーサーなら、この原因を1発で当てるんだろうな。


 そう、この土を食べて……


 あぁ、アーサーに『この土 美味しい ランディ 食べる』と言われて騙された事があったなぁ。


 気がつくと、右手に1摘まみの土が握られていた。


 そして、口に含む……


 あれ? 前に食べさせられた土より、美味い気がする。


 まさか、転生したせいで、アーサー体質になったのか?


 ま、まさか。


 


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