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放浪の軍神  〜現実に絶望していた俺は、異世界で少女に出会った〜  作者: 宵闇香炉
3章 変遷と地龍と猫娘と
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30話 新たな可能性、または二人の少女

数日ぶりの更新です。みなさん、お待たせしました!

ここからの数話の推敲で時間を取られていましたが、今日から再開します。


[簡単なあらすじ]

 なんとか地龍を倒した啓吾たち一行。ところが……?


 地龍を倒した直後、啓吾は己の身体が大きく変質するのを自覚した。

 ゴヴリン戦の時とは比較にならない力の奔流に、啓吾は思わずへたり込むように地面に膝を突いた。視界の端ではクリスタとサンテリもまた、同様に姿勢を崩しているのが見える。


啓吾は震える自らの身体に“鑑定”を発動させた。


−−−−−−−−−−−−−−−――−−−―−−−−−−−−−−−−

橘 啓吾

Lv. 36  クラス:魔法剣士

魔力:151

膂力:161

俊敏:143

器用:154

精神:152


特殊スキル

 鑑定:人・物に対してステータスを閲覧できる力

 インベントリ:無制限に物を亜空間内に出し入れできる力


スキル

 精神異常耐性:鋼のごとき強い心。精神異常に抵抗レジストできる。

 月旦の教え:武芸百般に通じる教え。武術系スキル・技能取得にプラス補正。

 直感:化け物じみた第六感。他人から向けられる悪意や罠の類いに敏感に反応する。

 剣術Lv.8:剣術に通じる証。剣装備時にLvに応じてステータスにプラス補正。

 槍術Lv.6:槍術に通じる証。槍装備時にLvに応じてステータスにプラス補正。

 体術Lv.7:体術に通じる証。装備に関係なくLvに応じてステータスにプラス補正。

 投擲術Lv.6:投擲術に通じる証。投擲武器使用時にLvに応じてステータスにプラス補正。

 天稟:ステータス成長限界の突破が可能、ステータス成長にプラス補正。

 クレドの持ち主:正当たる保持者の証。対象一名に任意で権利を貸与することができる。

 精霊の祝福:魔力・精神値にプラス補正。精霊魔法を使用する際に魔力消費が減少する。

 魔法師Lv.8:精霊魔法を扱える証。Lvに応じて魔力と精神にプラス補正。

 求道者:戦うことに意義を見出した者の証。ステータス成長に若干のプラス補正。

 戦士:実戦を経験し、一定以上の戦果を挙げた証。ステータス値にプラス補正。

 ドラゴンスレイヤー:ドラゴン種を倒した証。ステータス成長に若干のプラス補正

 堅牢:地龍の力を得た証。意識することで自身と装着品を鋼のように堅くすることができる。



称号

 放浪者:エルソスに転生してきた者の証。共通語を習得する。

 前世の力:前世で積み重ねた力によりステータス及びスキルを手に入れた証。

 精霊の寵愛:エレノウリに愛された証。精霊の祝福を習得する。

 戦上手:小規模ながらも戦で知勇を示した証。軍議で意見が通り安くなる。

 シスコン:重度のシスコンの証。特定条件下で精神にプラス補正。

 龍殺し:ドラゴン種を殺した証。ドラゴン種との意思疎通が可能になる。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−―−−−−−−−−−−−−――


 あまりの急速な成長に啓吾は目眩めまいを覚えた。

 あれほど高い壁だと思っていたヨウシアやエミリアに迫るステータス値である。それでいて未だ低いレベルに、これ以上の余地を鑑みると怖気おぞけすら走る。


 同時に、目の前に提示されたどこまでも上り詰める可能性に、身体が震える。

 “天稟”も“求道者”も“ドラゴンスレイヤー”も、まだまだ成長する余地があることを示している。


 絶対的な最強などという言葉に啓吾は興味がない。あるのは相対的な強さだけだと、そう思う。

 だから、自らの剣をどこまで高めることが出来るのか。その思いはむくむくと啓吾の胸に湧き上がって抑えられそうにもない。


 急激なステータスの変化による反動リバウンドと、どうしようもない胸の震えに堪えきれず、啓吾はどしりと地面に胡座を掻いた。

 その直後、小柄な人影が啓吾に襲いかかる。


「……っと!」


 胸元を襲った衝撃に啓吾は瞠目どうもくしながらも、どうにか柔らかく受け止めた。

 胸元に飛び込んできた艶のある青藤あおふじ色の毛並みに苦笑を浮かべながらも、啓吾はそっとその身体を押し戻した


「大丈夫なのにゃあ!?」

「俺は大丈夫だ。とりあえず、落ち着け」


 よほど怖かっただろうに自分の身を案じてくれるルツィエに微笑ましいものを感じながら、その震える両肩を掴んで啓吾は子供に言い聞かせるように穏やかな口調でそう告げた。


 落ち着いて周りを見れば、サンテリも啓吾と同じように地面に座り込んでしまっている。

 ヴィーリとイシリオンも啓吾たちほどではないにせよ、影響があったのか脂汗を浮かべながら立ち竦んでいた。

 クリスタは……、なぜか地面に座り込んだまま恨めしそうに啓吾を睨みつけている。


(……俺が何かしたか?)


 不機嫌な妹の顔色に仄かに冷や汗を流しながら、啓吾はとりあえず目の前の問題を片付けることにした。


「今更だが、あんたがルツィエで間違いないな?」

「そうだにゃあ。そういう貴方あなたが放浪者のケーゴなのにゃ?」

「ああ、そうだ」


 幾分落ち着いたと見えるルツィエは、しかし啓吾から離れる様子も見せずに肯定した。

 なにゆえ会ったばかりの少女に懐かれているのかという疑問を一旦棚上げにしたまま、啓吾は皆に耳を塞ぐように伝えてから角笛を口にすると、なけなしの魔力を振り絞って増幅した轟音を大空に震わせた。

 機転の利くカレルヴォのことだ。これでじきに迎えが来るだろうと啓吾は確信していた。


 正真正銘力を使い果たした実感と共に、啓吾は再び視線をルツィエに戻すとゆっくりと口を開いた。


「……なぁ、そろそろ離してくれないか?」

「嫌だにゃ」


 間断なく断られたことに疲労感を覚えながら、膝下ひざもとを執拗に狙う少女を啓吾は諦めを交えた眼差しで見つめた。


 所謂いわゆる、吊り橋効果が少女の心を昂らせているのは啓吾にも理解できたし、なにより啓吾はこの手の(・・・・)状況下で抵抗することの無為をよく知っている。

 思えば、ほんの数年前まで甘えん坊だった妹もよくこうして啓吾の膝を狙って枕にしたり椅子にしたりと忙しかったものである。もっとも、ここ最近はそういうことも珍しくなってしまったが。


「……はぁ」


 ピクリ、とルツィエの身体が動いた。

 草原小人の成熟速度など啓吾には知る由もないが、つい先だって生命の危機に瀕した少女が小刻みに震えているのである。朴念仁と自認している啓吾とて思うところがあるというものである。


「俺の膝で良いなら好きにしろ」

「うにゃ……!?」


 それでルツィエの不安が取り除けるのならば、それはそれで構わないかと啓吾は思う。

 啓吾の言葉を聞いて落ち着いたのか、膝下に丸まるようにして抱きつく少女を啓吾は苦笑まじりに容認した。こうしてみると、本当に猫がじゃれ付いているようにも見えてなんとも可愛げがある。


 それよりも、このままにしておけないものが啓吾の前にはあった。


 地龍の巨体と眉間に刺さったままのクレドをっと見つめたまま、啓吾は“インベントリ”の発動を意識した。

 直後に、クレドもろとも地龍の姿が掻き消え、ちゃんと収納されたのが啓吾には感覚的に理解できた。ついでに、クレドだけを取り出して懐の布で拭ってからルツィエを傷つけないように慎重に鞘へしまった。


 とにもかくにも、これでようやく全ての懸念事項が片付いたと啓吾は胸を撫で下ろすのであった。




 ルツィエは歓喜していた。


 生き延びたこともそうだが、なによりも放浪者に出会えたこと、そしてその放浪者に助けられたこと、まるで絵物語の中の出来事のようなこの出会いにルツィエは感動と衝撃を受けていた。


 自分の中の好奇心が、抑えられないのだ。

 どうしてそんなにも強いのか。どんな所からやってきたのか。あの魔法はなんだったのか。なぜ目の前で地龍の体躯が消えて、次の瞬間にはあの美しい剣を手にしていたのか。

 尽きせぬ疑問の嵐の中で、しかしルツィエは啓吾に好意を抱いていることだけは明確に理解していた。


 放浪者だから、あるいは地龍をも倒したから、ではない。


『よく持ちこたえた! ルツィエ、もう大丈夫だ!』


『言っただろう。あんたはもう大丈夫だ、そこで待ってろ。こいつは俺が倒す』


 思い出すだけで身体が熱くなるのをルツィエは感じる。

 鋭い、けれど優しい叫声と、濃緑色のコートをはためかせた広い背中。あの瞬間の情景が、ルツィエの頭にこびりついて離れない。


 今も、自分の思いを知って知らずか、啓吾はルツィエが懐に入ることを許してくれている。

 過ぎ去ったばかりの死の恐怖だけでなく、拒否されることを恐れて震えを堪え切れなかったルツィエに膝を貸してくれている。


 啓吾の温かい手が背を撫でるにつれて、ルツィエの身体の震えはゆっくりと収まっていく。


 会って間もない男性の膝で丸くなるなど、はしたないことをしている自覚はルツィエにもある。けれど、今は無性にそうしていたかったのだ。

 ルツィエの父親はまだルツィエが幼い時に死んでしまったが、生きていればきっとそうであったであろう温かさと優しさ、それに確かな安心感をルツィエは啓吾に感じていた。


「……ありがと、にゃあ」


 気恥ずかしさと心地よさがぜになって零れた小さな呟きに、


「どういたしまして」


 啓吾は優しい微笑みと共に答えた。




 一方のクリスタは、複雑な心境でもって啓吾とルツィエの姿を見つめていた。


 地龍を倒して力を得たことなど、彼女にとっては瑣事さじに過ぎない。

 ドラゴン種を倒した者がなるという、“龍酔い”というのをクリスタは昔アネルマに聞いたことがある。今の自分や他の仲間を襲っている力の奔流の正体には当たりがついていた。

 ならば、しばらくすれば治ることは自明のこと、特段気にかける必要もないのだ。


 地龍を倒したことは輪に掛けてどうでもよかった。

 後ろでイシリオンとヴィーリが生き残ったことを讃え合っているのは気付いているが、クリスタに言わせれば、“勇者”である啓吾と自分たちがいるのである。例えお伽噺に出てくるドラゴンが相手でもなんとかしてみせるに違いなかった。


 もちろん、クリスタとてもはや子供ではない。

 啓吾が絵物語の勇者とは別物であることなどとうに理解しているのだ。

 それでも、彼女にとって啓吾は“勇者”に違いなかった。


 今でも、クリスタは啓吾と初めて出会った時のことを鮮烈に覚えている。

 絵物語の勇者そっくりの風体で勿忘草に包まれるように眠る啓吾の端正な顔立ちも、綺麗なアッシュグレイの髪の毛も、幻想的としか言いようがないほどに綺麗だった。

 思えば、最初からクリスタは啓吾に淡い恋心のようなものを感じていたのかもしれない。


 啓吾が現れてから、クリスタの人生は全くの別物になった。

 それまでの人生も彼女にとって素晴らしいものであったことは確かだが、啓吾が自分の兄になってからは、まるで世界が違って見えるようになった。

 なんでもないことがとても楽しいことのように、当たり前の景色が鮮やかな情景に、そしてその中心にはいつも兄であり、放浪者である啓吾がいた。


 どれだけクリスタが甘えても応えてくれる兄のすぐ側は、まるでの当たる寝床のように温かくて、居心地が良くて。

 啓吾がいる場所であればそれがどこであろうと、クリスタの“一番のお気に入り”に変わりなかったのである。


 八年間、啓吾の側はいつだって騒がしくて、なのにどうしようもなく温かくて、自分が物語の中に迷い込んだような錯覚をしばしばクリスタは抱いたものである。

 だから、啓吾は“勇者”に違いないのだ。

 きっとどんな困難に直面しても、いつもの優しい微笑みを浮かべたままに乗り越えてしまうだろう。


 クリスタはそれを見届けたい。

 妹としてではなく、友として、仲間として、あるいは、もっと違う立場で。

 例え、それが叶わぬ願いであったとしても。


 いずれにせよ、泣いている少女がいるのなら啓吾が救い上げ涙を笑顔に変えるのが当然のこととクリスタは思っている。


 けれど、それでも、


「……っ!」


 譲れないものが、彼女にもあるのだ。


「そこはっ! 私の場所なんだからぁ!!」

「んなっ!?」

「ふぎゃ!?」


 ようやく動けるようになったクリスタは、飛びかかるようにして啓吾にぶつかった。



[次回予告]

 地龍の一件を通して力を手にした啓吾、一目惚れしたルツィエ、思いを揺さぶられたクリスタ。三人と周りを取り巻く環境が揺れ動く時、啓吾はある大きな決断を迫られる。

 次回、31&32話『帰還』、明日の夜をお楽しみに!

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