第三話 嵐の前は特に和やか
二人の男の子がいたいけな女の子を叫びながら追いかけ回していた。
「パパだじょー」
「パパだじょー」
「キャーーー」
だが三人はとても楽しそうにみえる。
それを遠くからみている中年の男…この寺院の父役をつとめる男はため息をつきながら片手を顔にやっていた。
「…父の威厳が。…もう酒なんて二度と飲まないぞ」
その後ろには人のよさそうな青年が立ち、父の肩に手を置く。
「それ僕が子供の時にもいってたよ」
青年は微笑んでいる。しかしその微笑みは慰めるというより腹黒い顔だ。その理由は彼の頬にうっすらキスマークがあることに関係している。
「パパだじょーといいながらだれにでも抱きついてキスをするなんて…母さんがいなかったらどうなっていたことか。シーナに飛びかかる父さんは完全に犯罪者のそれだったよ」
「ぐ、頼むからもういわないでくれ」
いつもは堂々としている父の弱った姿をみた青年は満足して言葉をかける。
「まあ、強い酒を持ってきた僕もわるかったよ。元気だしてだして」
「……」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
魔法訓練を終え、フレイムを救出?した一同はナギルの帰還パーティーの準備をしていた。
だいたい学校の教室ぐらいの大きさの部屋の中央に大きな机がおかれており、上手な字でナギル帰還パーティーとかかれた垂れ幕や折り紙などで飾り付けされている。
「ほい、箸パスフレイム。あ、そこのお皿もお願い」
「任しとけ!……箸、……皿がある?これは皿回しをするしか……」
「昨日ので懲りなよ!」
悲鳴をあげるように突っ込むアイザードの反応にフレイムがニヤリと笑った。
準備がおわったあとはナギルが冒険で得た魔導具などを皆で見ていた。
ナギルが持ってきたものには様々な珍しいものも混じっており、アイザードとフレイムは剣、シーナはキラキラした宝石に夢中になっていた。
ナギルが持ってきたものを父にみせている。
「これがあの伝説の酒、シー・ドロップスだよ父さん」
自慢気にナギルは父にシー・ドロップスを見せる。
「俺は酒はなあ」
「ドワーフですらつくれなくて古代迷宮でしかとれない逸品だよ。飲まなきゃもったいないって」
「うーん、まあ少しぐらいならいいかなぁ?」
「そうだよ。パーティーの終わりに飲んで楽しくなろうよ」
「うーん、まあそうだな。せっかくナギルも帰ってきたわけだし、飲むか」
ナギルの押しに負けた父は酒を飲むことになった。
その近くでは母がアイザードたちが夢中になっている道具の説明をしていた。
「あなたたちナギルがもってきた道具で最高のものにいきなり気をとられるなんて。見る眼があるわねー」
「これそんなにすごいものなのー?」
とシーナ。
「そうよ。例えばシーナが持ってるのは古代迷宮の核ね。それはほかの魔力結晶を迷宮でつくるためのものなのよ。」
「これがあればおんなじのがいっぱい作れるの?」
と再びシーナは質問をする。
「ううん。それよりもすこし小さいのしかできないわ。基本的にそれは核よりも劣るものしか生み出せないから」
「ねえねえ、じゃあこの剣は?」
とアイザード。
「その剣はソウル・リンクして初めてつかえるものね」
「ソウル・リンク?」
アイザードは首をかしげて説明を求める。
「その名の通り魂に武器を結びつける契約をすることでつかえるようになる希少な武器よ。メリットとしては“腕のように扱える”ようになることといきなりパッとだせることね、ほら」
そういい母はアイザード達に手を向ける。一瞬輝いたと思ったらその手には先端にさっきの古代迷宮の核より一回りは大きい宝石がのっている杖が握られていた。
「えーどうやってやったのー?」
「うーん言葉にしにくいわね。あなたたちもこういう武器を手にしたらわかるわよ。人によって出し方は違うみたいだし」
「俺もやってみたいなー」
とフレイム。
「フフ、15歳になって外に出られるようになったら自分でとってきなさい。多分見つからないでしょうけど。その剣はナギルが使う予定だし、母さんのはもうすでに契約済みだから無理なの。」
「うー、わかったー」
「フレイムはえらいわねー」
母はフレイムの頭を優しく撫でた。
「次にデメリットなのだけど武器が壊れると心身に甚大なダメージを与えてしまうのよ。廃人になってしまう人もいるレベルの」
「(なあなあアイザード甚大ってどういう意味だ?)」
フレイムがヒソヒソ声で聞く。
「(凄く、みたいな意味だと思っておけばいいよ)」
「(サンキュー)」
母はその間にも説明を続けている。
「……でもあなたたちが使うことはないとおもうからいまはあまり気にしなくていいわ」
「はーい」
母の説明が終わりナギルと父がやって来た。
ナギルがいう。
「皆~、古代迷宮にいってきたときに近くの町でトランプっていうのを買ってきたんだ。遊ばない?」
その言葉を聞きアイザードは違和感を覚えた。頭の奥が痒いような感覚。…なんなんだ、これ?
「トランプってなに?」
とシーナ。
「うーん、僕もよくわからないからな。いまから説明書みるから少し待ってて」
ナギルはトランプの説明書を見ながらぶつぶつ呟いている。
「なるほどなるほどこういうことか、じゃあ神経衰弱っていうのは…母さんが強すぎるからダメだな。ババ抜き?これが良さそうだな。おーい母さん、予知を使うのはなしね」
「もうできないわよ」
母の予知能力はアイザードが寺院に拾われたときになくなっている。
「あ、そうだった、ごめん」
「大丈夫、気にしないでいいわ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
五分後、ナギルの説明を聞き、皆はババ抜きを始めていた。
「はい上がり」
「よしゃー勝った」
「ぐっ、フレイムにまけた」
「ドベじゃないからいいや」
トランプの結果はナギル、フレイム、アイザード、シーナの順番で勝ち上がっていた。
最後に残ったのは父と母だ。
父が引く番なのでやや父のほうが有利である。
緊張感が漂うなか父は右の札を選んだ。
「……こっちだ!」
父が母の札を引く。引いたのは7だった。
「悪いな妻よ。私の勝ちだ」
「あらら、負けちゃったわ。でも楽しいわね、もう一回もう一回」
その後、5回ババ抜きをしたがなんと、全て母が最下位だった。
「なんで母さんが毎回まけるんだろうね」
とアイザード。
「一番ババァだからじゃない?」
フレイムが呟いた何気ない一言にナギルと父は笑いそうになるが無表情の母の顔に青筋がたったのをみて歯を喰い縛って耐える。
このあと二回トランプをしたが母の様子をみてナギルはトランプを切り上げた。
そしてもう外が暗くなってきたので夕飯にしようということになった。悲劇はここから始まる。
◇◆◇◆
「うわー、この野菜美味しいねー」
「野菜が好きなんてエルフみたいだなシーナは」
「肉!肉!」
アイザードとシーナが平和な会話をしていた。
隣には肉をむさぼるオレンジな少年の姿もある。
とその時!
顔をほんのり赤くした父がフラフラとこちらに歩いてくる。
「いや~、私の子供のたちは元気がいいな~。」
そして酒臭い臭いを漂わせながら満面の笑みで言う。
「さあ、私の子供達よ。パパの胸に飛び込んでおいで」
よくわからないが緊急事態だ。
父の様子がおかしい。
チラッとアイザードが父の後ろをみるとナギルが屍のように転がっている。
どうやら助けは望めそうにない。
「ほらほらおいで、パパだじょー。ほらパパだじょー」
アイザードとフレイムはアイコンタクトをとる。せめてシーナは守ろうと。
「ほらほらパパだじょー。シーナ、おいでおいで」
「……」
フレイムが骨を剣のように構え無言のまま一歩進み出た。
いやさらに二歩、三歩と進んでいき、フレイムは父に抱き締められた。
「な、アイザード!?」
フレイムはアイザードに背中を押されていた。
「悪いなフレイム、シーナは俺が守るから。…安らかに眠れ」
「ふざけんなぁぁぁぁぁ」
「あわわわわ」
アイザードは悲しそうな顔をし、フレイムは叫び、シーナは慌てている。
「はい、うるさい」
…と、突然現れた母が父の後頭部を殴って気絶させた。
それをみてアイザードは呟く。
「父さんが眠ったや」
「わ、わぁぁぁぁぁ。母さんどこにいってたんだよぉぉぉぉぉ」
涙目なフレイム。
普段みたことのない父が怖かったらしい。
「ごめんねフレイム。母さんちょっと酔いを醒ましてたの。
…アイザード」
フレイムを抱き締めながら母はアイザードの方を向く。
「……はい」
「トイレ掃除3日間ね」
「……うん」
母の無言のプレッシャーを受けながらアイザードを頷く。
この日は父とナギルとパーティーの残骸を片付けたあと皆は寝た。
もちろんアイザードは一番頑張った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
三人の子供たちが走り回っている。その近くではまだ父うなだれている。
「えーと、父さんのすごい魔法を見して名誉挽回したら?あのすごい炎の竜巻のやつ」
「うまく……いくだろうか?」
「どんだけおちこんでんのさ、はい頑張って」
「あー、わかった」
手を引っ張って、父を立たせる。
父が三人を呼ぶ。
「アイザード、フレイム、シーナこっちにきなさーい。いまから魔法訓練を始めるぞ。」
三人がその声を聞いて近寄ってくる。
「パパだじょ?」
アイザードが悪ふざけで首をかしげる。
「アイザードそれは禁じられた呪文だ。やめなさい」
「えー」
アイザードが不満げな声をあげるのをナギルが宥める。
「まあまあアイザード。父も反省してるようだしそのへんにしといてあげて」
「む、はーい」
ナギルがアイザードを説得したのを見て父が説明を始めた。
「魔法は大まかに下級、中級、上級、超級、神級に分かれている。まあ、大体ってだけですべてにきっちりと当てはまっているわけではないがな
。とれあいず、いまからお前たちには魔法の奥義……神級魔法をみせてやろう。よく見ておけ」
そういい、詠唱を始める父。
ナギルが子供たちに言う。
「かなり時間がかかるから精霊とでも遊んでていいよ」
父が目を瞑り、ぶつぶつと唱え、その周りにはオレンジ色の小さな人影が舞い始める。精霊だ。
さらに周りが徐々にオレンジに染まっていき、精霊は赤くなっていく。
父の髪も赤く染まっていき大気が揺れ、森がざわつく。
その間子供達はひたすら火の精霊の舞いを眺めていた。
いや、フレイムだけはなにやら感じ取っているようだ。
精霊は色んな形になったり紋章を描いたりして子供達を飽きさせないようにしている。
父が口を開く。
「完成した。いくぞ。【ーーーーーー】」
父にしか理解できない魔力が籠った言葉が叫ばれ、神級魔法が発動した。
父の周りにはオレンジ色の大量の竜巻が渦巻き、火の粉がパチパチというおとをたてている。
純粋な炎で作られた竜巻は凄まじい速さでナギルやアイザード達の周りを自由に動き、天へと昇ってゆく。
それを子供たちはただ口を開けて眺めていた。
次はストーリーが動きます。




