第二十話 対黒騎士戦
今回は三人称です。
アシャスがやられたところから始まります。
その他主人公が黒くなってたんで他の人の動きが書けなかったのでそこを補完するように書いてます。
あとアイザードが意識を失ったあとの続きです。
――――朱を纏った男、アシャスが吹き飛ぶ。ゴロゴロと転がり、動かなくなる。
それをみて魔術師は魔法の詠唱を始めた。
次にマントを羽織った男が死神の如く大鎌で黒騎士の首を刈り取ろうとするが、超人的な反応で兜が欠けるだけで終わり、マントの男は吹き飛ばされた。
――チッ
マナが舌打ちをする。
アイザードが風の刃を放ち、マナもそれにあわせて魔法を放つ。
しかし、連繋の魔法も通用せず、マナが再度魔法を放つがそれすらも効かない。
やがて黒騎士は辺りを見渡し、狙いをシルフィーナにつける。
アイザードが青ざめる。
「な、なんで」
だかそんな意思などお構い無く、無情にも黒騎士は距離を詰めていく。
アイザードの目付きが変わる。
両手をつぎたし、集中を始める。
マナは精一杯黒騎士の進行速度が遅くなるように魔法を打ち続けるが本気を出さない。
アイザードが成長出来るかを見るためだ。
彼に才能がないなら置いていく。力がないものは闇世界では足手まといだ。
アイザードが結果をだせるかどうか見極めるまたとないチャンス。
リスクを負ってでも結末を見届けなければならない。
アイザードから黒い気が溢れる。
黒騎士と似ているが何処かが違っている黒い気。
瞳に怒りを灯し、言葉に魔力をのせながら、静かに、厳かに、祈るように唱える。
「【カース・フレイム】」
その両手から黒い炎が噴出された。
彼がどんな思いで黒魔法を発動させたのか、マナにはわからないし、興味もない。
ただ、アイザードが成功したことに喜んだ。
だが予想外のことがおこる。
炎が晴れた中にはほとんど無傷で黒騎士が立っていたのだ。
黒魔法は龍族や封魔一族、アンチマジック系統にも強い効果を発揮する。本来魔法に耐性があるものにその耐性が通常の魔法が効くように なるほどにまでになるのだ。
つまり、魔法による耐性をある程度無視できる。
完全にそうなるわけではなく、多少は軽減されるが通常の魔法を歯牙にも掛けなかったカルマがあれほどのダメージをおったことを見ればわかるだろう。
なのに黒騎士には通用しなかった。
緊急事態と感じ、マナ自分の奥底にある扉を開く。
全身に薄く蒼いオーラを纏い、元々禍々しいほどの蒼い瞳はその濃さをさらに強める。
この世界では何かしらを全身に纏うといえば闘気や黄色の身体能力強化や古代魔法たる属性装依のライトニングドライブやアースアーマーなどがあげられるが、マナの纏うものはそのどれにも該当しない異質な力。
頭の中で複数の魔法を組み立て、連続で放つ。
「【ライトニ ングボルト】
【アーススピア】
【エアロブレイド】
【連氷牙】
【クイックバーナー】」
五色の魔法が順番に黒騎士へと飛来する。
魔法を唱え、放つ間に更に魔法を構築して放つ。その全てが中級に属する魔法だ。
通常、複合魔法の発動は頭の中で膨大な演算処理が必要とされ、魔法教塔とよばれる最も魔法を極めた者たちが集まる場所のその中の高位にあたる者でさえ同時に演算し、更に発動を成功させるなら4つまでが限界だ。
それでさえ演算の処理が 与える脳への負担で鼻血が出たりそのあと卒倒をするなど、限界を越えた結果ようやく行える技である。
だがマナは同時に五つの演算を行う。
その顔には力へ浸る高揚感さえあれ、苦しみや反動が来ているようには見えない。
魔法を放ち、さらに放ち、その間に更に他の魔法を演算して組み立てる。
そうして魔力続く限り永遠と飛び交様々な魔法の嵐。
これだけの量なら流石に防ぎきれないはずだ。アイザードの資質もわかった。あとは黒騎士が消えてくれればいい。
しかし、黒騎士はその程度と言うべきか言わないべきか、魔法を一身に浴びながらも
止まらない。
ジリジリと進行する黒騎士に黒が混ざった炎が浴びせられ、少し進む速度が遅くなる。再びマナの魔法が炸裂し、さら に炎の波が叩きつけられる。
だが黒騎士は依然として進み続ける。
予想外の出来事に現状の打破のため、マナは手段を模索する。
考えても答えが出ない、今より強力な魔法を射とうとすればその時間でアイザードに剣は届く、黒魔法はなぜか利き目が薄い、扉はこれより先は開けない。
魔法の演算を行いながらもありとあらゆるルートを模索する。
しかし、出た結果はどれも解決こそすれどそれはアイザードが殺された後にしか実行できない未来しかなかった。
そこまで考え、ため息をつく。
マナは容易くアイザードを切り捨て、シルフィーナだけでも救うために時間のかかる魔法の詠唱を始めた。
黒騎士の足に力が入る。
次の一足で大きく距離を詰め、アイザードは殺されるだ ろう。
と、その時。
黒々とした炎が放たれる。
禍々しさは一層増し、今までとは違って炎本来の色である赤が殆ど見えないほどの黒い炎。
規模も、威力も、持続時間も違った。
それまで放っていた炎が嘘のように思えるほどの圧倒的火力。
それはおそらく、威力だけならマナの黒魔法よりも上だろう。
マナはおもわず舌を巻く。
黒騎士の盾が邪悪に光り、その体を薄くオーラが包む。
近距離で放たれた、範囲が広く、かわすことができない炎に受けてたち、炎に向かって盾を構えながら突進。
その行動には魔法に打ち勝つ自信が見えた。
マナの目には黒い炎に呑み込まれ、姿が見えなくなった光景が写る。
次の瞬間、黒騎士は炎の波によって大きく吹き飛ばされた。
ダメージこそみられないが、これでアイザードとの距離が空いた。
またもや起きた予想外の出来事、それをみて魔術師は笑う。
驚くほど短い時間でアイザードの黒魔法は完成形に近づいた。
これは大きな収穫だ
「フッ、よくやりましたねアイザード。
……三重魔方陣【ウル】」
体勢を建て直し、再びアイザードへと向かおうとする黒騎士の周りに蒼い魔方陣が浮かび上がる。
魔方陣が光り、バチバチと音を発しながら黒騎士を拘束。
黒騎士は這いつくばり、体が動かせない状態になった。
だが僅かに動く指を走らせ、地面に何かを描き始める。
のっぺりとした黒いなにかでかかれた紋章が意味を成し、周囲にあった魔方陣を破壊する。
だがその頃にはマナの魔法が完成していた。
「まさか古代魔法で無効化しますか。ですが、【レイジングブリザード】」
氷魔法はその術師によってその鋭さが変わる。極論をいえば粒子レベル、原子一個レベルまで先端の鋭さを調節し、何物です ら貫く氷の刃を作成することが可能なのだ。
あくまで極論であって、流石のマナでもそこまで出来ないし、闇世界光世界にすらそこまでできるものは存在しないが。
マナの作成したオリジナルの魔法。
大きさ自体は正に普通の槍とは大差ない。
だがひたすら貫通力と速度に特化した氷の槍。それが黒騎士へと飛来する。
いくら今までの魔法が通じなくても、今回のはただ一点を撃ち抜くための魔法だ。どんな硬さを誇ろうと、氷に強い火のドラゴンの龍鱗であろうと貫く一撃。
まさに冷たい、死のような冷気を纏った氷の槍は、魔方陣を解除したばかりの、身動きが取れなかった黒騎士の胸に刺さった。
黒騎士を吹き飛ばし、黒き鎧を砕き、深々と氷の槍が胸に埋まる。
だが、それでも……
「 ぐ、ぬ」
黒騎士は立ち上がる。
胸に刺さった氷の槍を引き抜き、捨てる。
黒い瘴気が胸に空いた穴へと渦を巻きながら集まり、塞いでいく。
三秒かからずに完全な体へと戻った。
唯一救いなのは鎧までは修復していないことだけである。
それをみてマナは焦るでもなく、おののく訳でもなく、ただ分析するように呟く。
「魔力肉体補填の応用?いや、違う。別の力か、やはりアレは人間ではないのか……」
「……」
そして薄く唇を釣り上げ、
「確かに、これなら本来危なかった。ですが時間は稼ぎました。貴方の負けですよ黒騎士さん。余裕ぶってられるのは終わりです」
周囲の空気が一変する。
黒騎士の力ではない。
脈打つ絶対なる力。
純粋な、敵を圧 倒する力。
朱の気が激しく立ち上ぼり、その発生源たる場所に気絶したはずの男が立っていた。
切り飛ばされたはずの腕は何故だか元に戻っている。
髪が逆立ち、元々朱かったそれは纏われているオーラの存在によってさらに濃くみえる。
その絶対なる力の持ち主が一歩を踏み出す。その挙動一つで大気が揺れるような感覚に襲われる。
黒騎士が標的を変える。
両者にらみ合い、戦闘態勢へと移行。
「マナ、手を出すなよ」
「無様に負けた分際で偉そうですね」
「……いってくれるな」
そうはいったもののマナは手を出すつもりはない。
顎でどうぞ、という意を示し、戦いを見届ける姿勢に入った。
魔術師は自分には関係のない領域で起こる
戦闘であろ うとも観察し、分析する。
近接攻撃を行わない魔術師であろうと強くなるため、情報を己のなかに吸収し、更なる高みを目指すために。
アシャスが動く。
常人には目で追うことすら出来ない瞬間的な加速。
だがそれをマナの眼はしっかりと捉えていた。
切り飛ばされた方の右腕が振るわれる。
それを堅実に黒騎士は盾で受け止め、お返しとばかりに斬り返す。
左から振るわれた剣を左手で薙ぎ払うようにし弾いて防ぐ。
それまで黒騎士の斬撃の速さについていききれなかったアシャスだが目覚めた彼は完全に対応、いや圧倒し始める。
「ハハッ、ハハハハハハ。感謝するぞ。おかげで開きかけていた二つ目の扉が完全に開いた!」
その笑いは狂気的、分類としては戦闘狂に部類に入るであろう自らの力を喜び、命を裸にさらすことを至上とする異常者のもの。
飛び上がり、勢いのある強烈かつ破壊的な蹴りを繰り出す。
しっかりと盾を構えて黒騎士はいままでやってきたように受け止めようとするが、その絶大な威力に盾は砕け、それを持っていた手が使用不可となる。
それと共に衝撃で僅かな距離ができる。
思いきり放たれた蹴りの後、着地際を狙い、鋭い必殺の一撃を黒騎士が放つ。
だが先ほどの蹴りの衝撃で開いた差により、アシャスの左手は間に合う。
アシャスの左手は剣を“掴む”。
その手にさらに濃い朱が纏われる。
朱が込められた力は剣を砕いた。
へし折るのではなく握力。
爪のついたアシャスのグローブは傷つくことなく刀身を破壊した。
黒騎士が後ろへと飛び、距離を開ける。
その手には砕けた剣と盾が握られたままだ。
いつもならここで距離を離させないアシャス。
だが彼はそうはせず、瞳を怒らせるだけだ。
「おい、おまえ……。もっと、もっと、本気を出せよ!!」
「……」
耳を塞ぎたくなるほどの怒声。
アシャスが構え、そのオーラをさらに増大させる。
それに呼応するように黒騎士の暗黒のオーラも燃え上がる。
そして壊れた武器に胸の穴を埋めたのと同じ瘴気が集まり、武具は元の姿を取り戻していく。
ちょうど完全な姿に戻った時、両者は打ち合わせたかのように同時に地を蹴り、激突する。
打ち合わされる盾と爪、激しくぶつかり合い、その衝撃で互いにのけぞる。
その瞬間にできる一拍の戦闘の空白。
二人はできてしまった空白を惜しむかのように激しく打ち合う。
黒騎士は今の濃く、暗いオーラを纏った結果、確実に強く、鋭く、速くなっていた。
だがそれでもアシャスには追い付けない。
先程のように圧倒されるわけではなく、アシャスの方が優位という状況なのだがやはり、このままでは黒騎士の敗北は必須だ。
アシャスは闘気の出力を上げ、全体的な能力が上がっているがそれだけが黒騎士に対して優位に立っている理由ではない。
彼の天性の才能、人間の反射神経はどんなに早くても0,1秒が最速だ。だがそれに対してアシャスは0,05で反応できる。
文字通り規格外。
人間という枠組みを越えた、闘うために生まれてきた超人。
だがこれだけでは黒騎士にダメージを与える手段としては紙一枚劣る。
もうひとつ理由があるのだ。
彼、アシャスは純粋な戦闘技術も去ることながら、意識の穴をつく、思考の外を突き刺すような攻撃、認識外からの防ぎようのない攻撃、とアイザードと同じ格上に勝つための技術が卓越していた。
そしてこの技術はなにも格上に限定して強いわけではない。
純粋な力や速さだけが強さではない。
本来力が足りないばかりに逃げとして生まれた人の武としての技。
あまりに習得が難しく、天武の才能と長い時間が必要とされるため誰も覚えようとしなかった武の極み。
つまりは人としての限界の位置に近づくための手段だ。
自分よりも格上の敵とはこれを用いてようやく勝つことが出来るようになるのだ。
意識の範囲外、捉えようとしても体が反応できない攻撃に手傷を増やし、後退する黒騎士。
それに更に追いすがり、追撃を仕掛けるアシャス。
黒騎士が盾をアシャスに向かって投げる。
――と同時に剣を前へと突きだし、突進。
アシャスは体を捻りながら宙へと跳び上がり、投げられた盾をすれすれでかわしながら回し蹴り。
黒い剣はアシャスに届かず、兜が盛大に砕けた。
揉んどりうって吹き飛ぶ黒騎士。
それに向かってアシャスは跳び上がり、その衝撃を利用しながらグローブについた爪を振り下ろす。
それを両手で握った剣がギリギリで一撃を受け止める。
暫しの拮抗、だが空中にいるアシャスの力はおちていく。
逆に地に足をつけた黒騎士は最初の一番強い衝撃さえ耐えきれればあとはなんとかなる。
力を込めてアシャスを撥ね飛ばす。
空中へと投げ出されたアシャスは宙で一回転して着地した。
両手で握りしめられた黒い剣から濃い邪悪なオーラが噴出する。
それの剣から湧き出る気は大蛇のように剣へと絡み付く。
大上段に構え、次で終わらせるという意思がひしひしと伝わってくる。
アシャスもそれに応え、右腕に膨大な量の朱い気を纏わせた。
手の形を獣がするような形に変え、一層力を込める。
互いの究極がぶつかる。
「――呪蛇の剣」
「――牙転掌」
――――ガ――ダァン。
黒と朱が弾け、混ざり合う。
互いの一瞬の威力の爆発を極めた技は、ぶつかり合った瞬間、二つの重なりあった衝撃を黒騎士とアシャスに返し、両者を遠くまで吹き飛ばした。
転がり、アシャスはスクッと、すぐに立ち上がる。
黒騎士は地に手をつけ、ヨロヨロと立ち上がろうとするが膝をついた。
アシャスが宣告する。
「――終わりだ」
瞬間的に加速。
黒騎士へと到達するその瞬間、
黒い影のような刃が飛来し、深々と大地を抉りとる。
アシャスは飛び退き、回避。
「終わり……まだ……です」
それを放ったと思われる黒い人影が黒騎士のそばに立っていた。
面をしており、シンプルな十字架が彫られている。身長は、百六十程度、やや小柄で性別のわからない中性的な声だ。
「新手か」
動じることく呟き、敵を殺すという意思をもって、ただ眼光を強める。
「騎士様……手を」
「すまないな」
そんなアシャスに構わず、面を被った者は黒騎士に肩を回させる。
そして片手をアシャスをに突きだし、唱える。
「……【ローラルミスト】」
黒い霧が広範囲に発生し、姿を眩ます。
「しゃら、くさい!」
アシャスが全身から気を噴き出して闇をはらう。
だがもう、人影はなかった。
気配は感じる。
だが逃げていった方に複数の気配だ。
辺りの惨状を見渡す。
この状態では無闇に追うわけには行かない。気配の存在はわかったがただ複数、三人以上はいるとわかっただけで四人いるのか、五人いるのかわからない。
下手に動くと手薄になった仲間たちが襲撃されるかもしれない。
あの黒騎士の強さを見るといくらマナがいるとはいえ、楽観視することはできなかった。
カルマはエレナにひきづられマナの近くへ、倒れたアイザードはシルフィーナの必死の看病を受けている。
そんな光景をみて、アシャスはやれやれ、と首を振り事態の収拾へ向かった。




