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プロローグ




 一つの魂が果てなく続く暗い道を流れて往く。


 ただ永遠に流れて往く。


 どれだけの時間がたったのだろうか。

 たった一日かもしれないし一年かもしれないし百年かもしれない。


 魂はそのあまりに永い刻に耐えられなくなり、自身の存在を消そうとした。

 と、そのとき、突如として周りが眩しく光った。

 七つの光が現れる。

 その七つの光はまさに神聖と言うべきもので、まるで消えかけた魂を救済しにきたように感じられる。


 七つの光はゆっくりと消えかけた魂の回りを廻る。

 そしてある提案を持ちかけた。

 それは契約。

 魂の存在の消滅を防ぐための契約だ。

 だがこの契約を結べば必ず戦いへと駆り立てられる。

 しかし、そんなことは些細な問題だ。

 何よりも恐ろしかった自己の消滅を免れるのだから。


 魂はその契約を一も二もなく受け入れた。


 かくして魂は力が肥大した世界へと送り込まれる。




 ――相応しくなってみせよ



 ◇



 凍てつくような森の夜、闇夜に赤と白の月が浮かぶ。

 その月光が照らし出す先には灰色の瞳をした赤ん坊がいた。男の子だ。

 赤ん坊はなにも身に付けてはいなかった。

 にもかかわらず寒さに身を震わす様子も、孤独に泣くこともしない。


 ――ガサッ


 突然草むらが揺れた。

 三十代半ばの男が表れ、なにかを探すように辺りを見渡した。

 そして赤ん坊を見つけ、無言で佇む。


 「……」


 男は僅かな魔力の揺らぎを感じ、ここに来た。だが来てみればどうだろう。そこには幼い赤ん坊がいるだけで異変は感じられない。

 男の頭には疑問ばかりが浮かんだ。だがひとまずは行動をせねばなるまい。

 大きい布をとりだし赤ん坊を包む。

 そして瞳を見た。

 灰色の瞳に時折、無色とも七色とも判別のつかない影が揺らぐ。

 男はその色を知っていた。かつて回った戦いの中で圧倒的な破壊を生んだ色。人類最強の座に近い自分が全く届かぬと断じられてしまう力の色。

 ――終わりをもたらす破滅色(はめついろ)


「おまえは“なんだ”」


 思わずでたその一言に男は身をこわばらせ、やがてやれやれと首を振る。

 赤ん坊の瞳の色は灰色に戻っていた。いったい自分は赤ん坊相手になにをしているんだ……。


 することもないので腕を揺りかごのように揺らす。

 すると赤ん坊は安心したのか、しばらくするとすやすやと寝息を立て始めた。

 その寝顔はただただ可愛らしく、守ってやりたい思わさせれる和やかさだ。


 赤ん坊を見入る男。そうしている内に男に気配が近づいてくる。


「遅かったな」


「貴方が速すぎるんですよ。ところで、その子生きてます?」


 そう聞いたのは男と同じ三十を過ぎたぐらいの女だ。


「見ての通り元気だ。……瞳に破滅色が見えた。この子について調べてくれ」


「わかりました」


 そういい、女が子供の頭に手をのせ、目をつぶる。


「間違いないわね。この子は特異点です。……創世属性がありません」


「そんなものは聞いたことがない。それならこの子は生き物ではないのか?」


「いえ、違います。ちゃんとした人間ですよ。ですがこの子は余程特別な存在なのでしょう。……予知していた脅威がだいぶ遠ざかりました」


「なに……ならば……!」


 すぐさま男の言いたいことを理解した女は途中でその言葉を遮る。


「いいえ、遠ざかっただけです。避けることはできないでしょう。さらに……私はもう未来を感じることができなくなりました」


「そうか……ついに、か」


 わかっていたことだというように男は言った。

 重苦しい空気の中、男は口を開く。


「この子を賢者の元に連れていく」

「期間がありますよ。私たちは間に合いません」

「わかっている。だからシーナとフレイムを共に外に出す。ちょうどいい、どちらにせよあの子供たちは外に出す予定だった。三人で冒険、いいじゃないか」


 寂しそうに笑う男、黙って頷く女。

 二人は自らの運命の終着点知っていた。他ならぬ自分で選んだ未来だ。過去の罪の清算にはちょうどいい、と。


 一際冷たい風が吹く。

 庇うように男は赤ん坊から風を遮るために動く。

 何気ない動作。

 だがその時、男はあることを思い出した。

 賢者から伝えられていたある知識。


「この子は“器”か!」


「……まさか」


「辻褄があってしまうんだ。そして賢者の言う通りなら人族として、私たちは最も適任なのかもしれない。……つまり、この子は必ず争いに巻き込まれる。果てしなき闘争に」


「ですが希望はあります。この子は特異点なんですから、私達を超える力を手にするかもしれません」


「だが、それは確実に苦しみと悲しみがまっているということだ……私達がやろうとしていることは本当に正しいのか?」


 「……」


 少し間があく。


「生とは苦しみだけでは意味がないもの、私はそう考えます」


「ああ」


「ですが少し、ほんの少しでも幸せがあったなら意味がある……わたしはそうも考えます。この子供は間違いなく闘い、苦しみ、足掻き、悲しみ、恐怖を経験するでしょう。ならば、なればこそ、私達が、幸せな場を……作るのでしょ?」


 瞳に強い意思を込め女は微笑む。


「ああ、そうだな。生きる意味、か。それが私達ができることなんだな。覚悟を決めよう、やってやろう。その子のためになることなんだ。うじうじせずに前を向いてやる」


「強い意思を持って、私たちは歩きます。私と貴方は共にある」


 この会話を区切りに、二人は黙ってもと来た道を戻っていく。


 凍てつくような寒さのなか、二つの月がちょうど重なり、輝いていた。


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