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 夢は夢とわかる。

今見ている風景も“これは”夢だと実感することができた。

そう物思いに耽りながら、【魔王】ファラ・イクス・ヴァルグランは自分の膝に顔を埋める。

もう何度目になるのだろう。と考えたことで、この思考になるのも何度目だろうかと自嘲する。

その場に座り、膝を抱えた姿勢のままの彼女の瞳に映るのは二人の人物だ。

今はもう会うことができないであろう二人。

一人は癖っ気まじりの黒髪で、瞳の色も同様に深い黒の色をしている。表情はとても穏やかで優しげな笑みを浮かべている。着ている服はどこかの国の騎士団の鎧だろうか、その上にはたまた真っ黒なマントを着込んでいる。その笑みの先には長い綺麗な金色の髪、空の色よりも薄い蒼い瞳。十人が十人、彼女の事を絶世の美女と評するだろうと思えるほどの美しさである。その外見は膝を抱えている少女にとても良く似ていた。彼女が成長すればこうなるだろうと思えるほどに。

「私はいつまで貴方達の背中を見ていればいいの?」

 【魔王】と呼ばれる彼女にしてはそれはとても弱弱しい声であった。

「オルタ―…、ママ…、あれから五十年の時が過ぎたわ。憎しみも怒りも薄れていくばかり。それでも、貴方達を信じれなかった自分に自己嫌悪するばかり…、人間だってあなた以外は今も嫌悪の対象でしかない…。それでも貴方達は帰ってこない…。ねぇ?私はどうすればいいの?」

 彼女の悲痛な叫びは目の前にいる二人には届かない。

これは夢だから。

頭では理解しているのに心が理解してくれない。

【魔王】ファラ・イクス・ヴァルグランの他者には言えない独白は続くのであった。




―――こちら現場のラグです!やってきましたよ、魔王城!もうヤケクソです!

「おい、暴れるな。担ぎづらいだろうが」

「ガルフさんが力任せに担ぐからじゃないですかー?それか、初めての魔王城に興奮しているんですよー」

「…多分、違うと思う」

あの森にて、魔人の女を偶然にも倒してしまい、自分の剣に封印?してしまうわ、あろうことかそれが魔人の中でも上位の【四天の王】の一人という冗談じゃないかという事態。

残りの三人がいきなり現れて、命の危機に立たされた挙句、倒した女は四天王最強――つまりは魔王を抜かせば魔族最強。

この場で殺されない為に口裏合わせて、彼女の言葉を伝えていたら、【魔王】に会わせろなんて、逆立ちしても俺から出る言葉じゃない発言をさせられ、今俺を抱えている偉丈夫にむんずと掴まれたと思ったら、一瞬にして景色が変わり、目の前には古びたお城が待ち構えているという現実。

『流石のわらわも五十年見てないと、懐かしいという感情になるのう』

 背中に掛けてある鞘に戻した剣から、呑気な声が聞こえる。

『なんじゃ?さっきから辛気臭いツラをしおって。見よ!あれがわらわ達、魔族の象徴である魔王城じゃぞ』

『これが観光者気分でいられるかよ。はぁー、俺…生きて帰れるのか?ロクもリンもカイン先生も今頃心配してんだろうなぁ…』

 そんなラグナの溜息混じりの想いも届かずに魔王城の入口へと辿り着いてしまう。

それはとても巨大で重厚な門構えをしており、何人たりと此処を通さないと言っているかの様なオーラを出している。

「す、すげぇ…」

「あん?そうだろう。すげーだろ!中はもっとすげーんだぞ」

「なんたって、魔王城ですからねー。それ相当の雰囲気は大事でしょう」

「…こんなに大きくても実用性はないけど」

 その扉を視界に入れると、その迫力につい呆けてしまう。

しかし、魔人の三人はそんなラグナの姿を見て、どこか誇らしげに言葉を返す。

『うむ。わらわもこの城のスケールは大好きだな。ヴァンが言うっておった様に内部も中々じゃぞ。<常世の間>なぞ、人間のお前が見ればさぞ驚くことじゃろうて』

 その言葉に賛同するように脳内に声が響く。

『なんだよ。<常世の間>って。しかし、こんだけデカい門があるくらいだから、【魔王】ってのは巨人かなにかか?…はぁ、憂鬱だ』

『何を言っているのだ?…あぁ、それも見てからのお楽しみじゃ』

『あん?…おわっ!』

 どこか楽しげにぼかしたルーテシアの言葉に突っ込もうとした所で内側から門が開き、その振動によってガルフの肩から落ちそうになる。


「取り敢えず、どうするか?」

「んー、いきなりファラ様の所に行くのも問題ですし、どうしますか?」

「…あまりこの人を他の人達の目に晒すのも危険」

「お帰りなさいませ。ガルフ様、ヴァン様、エル様」

 ラグナの苦悩もどこ吹く風の様に三人はずんずんと門を越え、城内へと足を運び、大広間へと出る。

この後のラグナの処遇に対して、お気楽な雰囲気で考えを巡らしていると、大広間の真ん中に位置するところに一人の女性が丁寧な一礼で向かい入れる。

『おぉ!メイドだ!メイドだぞ!』

『何をそんなに興奮しておるのだ。唯のメイドじゃろ…』

 初めて見るメイド服を着た女性を目にして、テンションが上がるラグナにどこか冷たい声をかける。

「おぉ。丁度いい」

「ここは困った時のリーズさんに相談だねー」

「…ファラ様にこの人間を謁見させたいんだけど、どうすればいい?」

「畏まりました。ファラ様は今、寝室でお休みになっておりますので、御呼びしてきます。その間は…、私の部屋ならば人目につかず問題ないでしょう」

 三人の会話だけで事態を察すると、一瞬思考を巡らすと、直ぐに回答を出し、全員を自分の部屋へと案内しだす。

『すげー、仕事できる人だ』

『あやつはリーズ・ワース。この魔王城を裏で仕切るメイド長。わらわとは旧知の仲じゃし、この魔王城であやつに逆らえる奴なぞ、片手の数しかおらんじゃろ』

『メイド長とか本当に存在したんだ…』



その後、彼女の案内によって、全員を部屋へと入れると、彼女は【魔王】を呼びに行くと言い、直ぐに退出する。

残されたラグナ達というと……

(き、気まずい…)

 中へ入るやいなや、三人は三者三様にくつろぎ出し、部屋に入って直ぐにガルフが文字通り床に捨てられた形となったラグナは空気に耐えられなくなる。

『おい、気まずいんですけど…』

『ガルフのヤツ!わらわをぞんざいに扱いおって!人間!わらわを抜け!そして、この無礼者を断った切れ!』

『できるわけねーだろ!!』

 救いを求め、一緒に投げ捨てられた剣へと意識を向けるが、その本人は違うことに熱くなってしまって、話にならない。

「しかし、話の流れで連れてきちまったが、いいのか?人間なんかをファラ様の目に入れちまって」

「最近は落ち着いてきましたけど、また例の発作が起きるかわかりませんからねー」

「…それでもあの場で判断するのは早計だった」

『なんだ、発作って?魔王様は病気か何かか?』

『……』

『おい、唯でさえ気まずいのに無視すんなよ』

『その…だな…。病気とは違うのだが…、お前にも関係してくる話だろうし、ファラに会う前に言っておかなければならないことだろうが…』

『なんだよ。歯切れが悪いな』

 三人の会話に対して、疑問に感じ、剣へと質問するが、歯切れの悪い応えが返ってくる。

『少し長い話になる。ここで、貴様がわらわの話に耳を傾け、無言で居続けるのも無理があるじゃろう。その隣にも部屋がある。そこで話をしよう。ガルフにはわらわがそう言っておると伝えろ』

『わかった』

 彼女の言葉に従い、起き上がると丁度良く皆が此方を注目する。

「なんだ、人間?大人しくしてろ」

「そうですよー。勝手なことをすると後が怖いですよー」

「…何かあるの?」

 三者三様に言葉を掛けられ、足が竦むが、唾を呑みこみ口を開く。

「この剣が…ルーテシアが俺と話があると言っている。それで、隣の部屋へ行けと…」

 その言葉を聞くと、ガルフは一瞬目を丸くし、乱暴に頭を掻く。

「ちっ!その剣にはルーテシアが封印されてんだよな。まったく、調子が狂うぜ」

「本当にルーさんの意志なら、無下にしたらそれこそ後が怖いですしねー」

「…いいんじゃない?」

「あぁ、好きにしろ。但し、リーズが来たら直ぐに行くからな」

 何か想像したのか、顔を顰めながらガルフは手を掃う動作をし、投げやりに言葉を返す。

「わかった。ありがとう」

 そう返事をし、隣の部屋へと向かう。

三人に対し、背を向ける形になったために、ラグナは気づかなかったが、ラグナとしては普通に出た『ありがとう』という言葉だったが、それを聞いた三人の顔は酷く複雑な顔をしていた。


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