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「んあ?っ!いってー!」

 ポタリと大木から落ちた雫がラグナの頬に当たり、気絶していたラグナは目を開けるが、意識の覚醒とともに生じた顔面の痛みに呻き声を上げる。

「な…なにが…、あっ!」

 多少、記憶が飛んでしまったのか、一瞬状況を理解できなかったが、直ぐに思いだし、慌てて周りを見渡す。

「あれ…いない?」

『やっと起きたか…』

「へ?」

 この湖に辿り着いた時となんら変わりのない景色に目的の人物の姿が無く戸惑うが、同時に脳内に直接話しかけられたような声が聞こえる。何処から聞こえたのか、なんとなく理解でき、その主―――手に持っていた剣に眼を向ける。

そこにはいつもと変わらない剣があるだけだ。唯一つ、柄と刃の間の部分に紅く輝く魔核が付いていることだけが違いだった。

「ま、まさかね…」

『何が、まさかなんだ?』

「う、うあぁぁああぁ!!」

 溜息と共に自身の想像を否定するように呟いたが、もう一度脳内に声が響いたことで、慌てて持っていた剣を投げ捨てる。

『お、おい!あまり乱暴に扱うのでない!』

「なんなんだよ、これ!」

『ふぅ。まったく、その台詞はわらわのものじゃ。こんな人間にわらわがやられるとはの…』

「お、お前…さっきの魔人か?」

『そうじゃ。木の上から落ちてきた人間よ』

「俺が魔核を壊したんだよな?」

『そうじゃ。この剣の切っ先がわらわの心臓を捉えたのじゃ』

「それがなんで、こんなことになってんだ?魔核が壊れたということは…死んだんだよな?」

『……そうじゃ。確かにわらわは死んだのだろう』

「それじゃあ、なんでこの剣にお前の魔核っぽいものが付いていて、俺とお前はこうやって話をしているんだ?」

『わらわにもわからぬ…。しかし、これは…、いや…まさかな…』

「……」


 一問一答の如く、現状を知るための問答が繰り広げられる。

しかし、求める結論に達することはなく、ついには沈黙が二人?を包む。

「この剣、捨ててもいい?」

『殺すぞ』

「いやいや、可笑しいだろ!?俺の責任か?確かに、とどめを刺したのは俺だけど…。いやいや、それでも、こんな唯の剣で魔人の魔核が簡単に壊れるなよ!そもそも魔人ならあんなもん避けろよ!」

 消えかかる様に呟いたラグナの言葉に対し、辛辣というか、ばっさりとぶった切る答えにラグナは慌てた様に言葉を並べる。

『やったのは間違いなくお前だ。わらわだってこんな簡単に魔核が壊れるとは思わなんだ!前大戦の折には、特級の魔術を至近距離から被弾しても傷一つつかなかったのだぞ!それにこの湖に来るときに結界を張って、その範囲内の生物は皆、撤退させたと思い、油断したのだ!』

「それでも、壊れてんじゃん!人払いの結界?いやいや気持ち悪い感じはしたけど、俺は普通にいたからね?全然、効力成してないから!」

『それが、わらわにもわからぬと言っておるのだ!』

「結界も普通に失敗だったんじゃないのか?そもそも魔核だって、すぐに壊れる代物だったんじゃないのか!」

『貴様!愚弄するか!』

「愚弄もなにも事実だろうが!」

『このわらわをそん所そこらの魔人と一緒にするでない!』

「じゃあ、お前はどこの何様だよ!」

『わらわは―――ん?ヤツ等か…』

「なっ!?」


 本来、魔人というのはラグナ達――人間からしてみれば畏怖の対象であるのだが、あまりにも不可思議なことに二人の会話は次第にヒートアップしていき、最後のほうは唯の口喧嘩になる。

 そう彼女等、魔人は畏怖の対象なのだ。

「なんだ、お前は?」

「あれれれれ?ルーさんはいませんねー」

「…彼女の気配はここで途切れてる」

 その畏怖の対象である魔人が湖の畔に、突如三人も現れる。

「な…な…」

 一人は筋肉隆々という言葉が似合う偉丈夫で、黒く短い髪の毛はツンツンと逆立ち、左目を眼帯で塞いでいる。

一人は中肉中背。栗色の猫毛でその前髪は両目に軽くかかり、表情が読み取りづらいが、飄々とした声である。

一人は全身を覆うローブで特徴らしきものはわからないが、その背は低く、呟く様に発せられた声からわかるに女性だろう。

三者三様ではあるが、三人とも全身から発せられる威圧感は共通していた。

「なんで、魔人が…」

 その威圧感は間違いなく魔人であるとラグナの人間としての本能が教える。

本来、魔人がこのアルファルドにいることすら考えられないのに、それが剣の中にいるであろう彼女を入れれば合計四人。

その在り得ない事態にラグナの口はその機能を停止しかける。

『お主ら、久々じゃのー』

 能天気な声で自身の脳内を駆け巡る声にも反応することができないほど、新しく現れた魔人に釘付になる。

「んで、お前はなんだと聞いているんだ、人間」

「彼女の気配が絶たれた場所にいる人間…。何やら事件の香りがしますよー」

「…何か知ってるかも」

 そんなラグナを置いてきぼりにし、三人の会話は進む。

「貴様、銀髪の緑色の瞳をした女を見なかったか?」

「そんでもって、身体つきはボン・キュ・ボンのグラマラスボディー」

「…名はルーテシア」

「お、おれは…」


―――やばい。やっぱりこいつ等、彼女を探しにきたんだ。『俺がこの剣で倒しました』なんて、口が裂けても言える雰囲気じゃねーし。間違いなく、殺される。

『これは間違いなく、こいつ等にやられるの。まぁ、助かる術は無いとは言わんが』

『!!…あるのか?』

 最悪の想像を払拭する言葉が脳内に流れる。

藁にもすがる気持ちで、彼女――地面に置かれた剣へと視線を移す。

「…?おい、聞いているのか人間!魔人の中でも上位に位置する四天の王が一人、ガルフ・ド・グランガルドが問うているのだぞ!」

「駄目だって、ガルフ。人間には魔人の区別なんてつきませんよー。あぁ、ちなみに僕はヴァンキッシュ・ルードアーク。皆からはヴァンって呼ばれてるよー」

「…エルルゥ・ロックフェルド。…エルでいい」

「お前等!自己紹介しろって言ってんじゃねーぞ!」

 ガルフと言った偉丈夫の言葉に栗毛の男とローブの女が続く。これが平常時ならば三人漫才の様な微笑ましい一幕にも見えるだろうが、当事者であるラグナの脳内は限界を迎えようとしていた。


―――四天王!マジかよ!昔話の世界の奴等だぞ!

『ほう?貴様等人間にもわらわ達の事が知れ渡っているのか』

『わらわ達って、お前も四天王の一人かよ!知れ渡っているというか、過去の大戦の文献漁れば、嫌でもお前等のことは記述されてるよ!魔族以外で結成された世界最高峰の集団【二十四の時】と渡り合った魔人族最強の【四天の王】ってな!』

『ほうほう。奴等か…。確かに歯ごたえのある奴等じゃったわ』

『そのお前がなんで、俺なんかの一撃で倒されてんだよ!!文献が過剰に書かれたのか?それともお前は四天王最弱か?【二十四の時】の人達にあやまれ!』

『な!無礼な!わらわは…』

「答えろ、人間!」

 脳内でヒートアップする会話に意識を持っていかれていると、我慢の限界だという顔をして大男が叫ぶ。

「ルーテシアを何処へやった!答えによってはその命無いと思え!」

「いやいや、ガルフ。それじゃあ、唯の脅しじゃないですかー。ルーさんが人間風情にやられるわけがないでしょう?僕等の威圧に萎縮して言葉もでないんでしょうよ」

「…ルーは【四天の王】最強」


―――四天王最強発言きましたー!!!

『俺、死んだ…』

『だから、助かる方法は無い訳じゃないと言っておるだろう』

『ど、どうすればいい!?』

『先程、奴等が言った様にわらわは四天王最強だと自負できる。魔王に次ぐ、ナンバー2である。そのわらわが人間にやられたという事実はあってもらってはならないのだ。しかし、現にどうやってかは分からぬが、わらわはこうやって、この剣に閉じ込められておる』

『ふむふむ。それで?』

『結果は変わらん。ならば、過程を変えるのじゃ』

『…わからないんですけど』

『ふー。取り敢えず、わらわが言う言葉をそのまま目の前の奴等に喋れ』

『それなら簡単だ!任せろ!』

 見切り発車ではあるがこのままでは埒があかないのだ。方針が決まったところで、恐る恐る目の前の三人に眼を向ける。

「くそっ!奴の気配が無くなったから、飛んできたはいいが、これでは話にならん!人間!知っているか、知らないかくらい答えろ!」

 押し黙ったままのラグナに痺れを切らしたかのように頭を掻きむしりながら、ガルフは質問する。

「…知っている」

「なにっ!?奴はどこに居る!」

 その言葉に一瞬のスピードでラグナに接近すると、その胸倉を掴む。

「ぐっ!この剣に封印されている」

 息苦しさに顔をしかめるが脳内に響く声にしたがい、言葉を続ける。

「貴様!やはり…」

「違う!殺したんじゃない!契約をしたんだ!」

「なにっ?」

 ラグナの言葉に胸倉を掴んでない右手に異常なまでの魔力が集められたことに慌てるように言葉を続ける。


「契約?どういうことでしょうかー?」

「…それはルーの意志ということ?」

「そ、そうだ。俺はこの湖で彼女と会い、契約を持ちかけられた」

「その理由はなんだ!アイツが人間などにそんな契約を持ちかけるとは思えん!」

「次の大戦を見こうしての行動と言っていた!詳しくはわからない。それでも、俺の脳内にはルーテシアの言葉が流れてくるようになっている」

「貴様、憚っているのではないな?」

 より一層、胸倉への力が強まる。

「嘘じゃない!俺をこの剣とともにファラに会せれば…、奴なら理解すると言っている!うわっ!」

 叫ぶ様に言葉を絞り出すと、その内容に驚いたのか、ガルフは呆然とした表情になり、手の力を緩める。当然、掴まれていたラグナの体は落下し、そのまま地面にぶつかる。

「いててっ。いきなり何を…」

「お前、何故その名を…」

「ファラ様の名前を人間風情から聞くなんてねー。これは信憑性が出てきたんじゃないですかー?」

「…魔王を呼び捨てにするなんて、ルーくらい」

「へ?」

―――今こいつ等なんて言った?俺は唯、コイツが言った言葉をそのまま喋っただけなのに…ファラ?魔王?どういうこと?

『ファラは我らが主。魔族の頂点【魔王】ファラ・イクス・ヴァルグラン。わらわ、ルーテシア・エル・ヴァルグランの従妹でもある』

『はい…?』

 魔王。それは【四天の王】と共に過去の史実に名が残されている。魔族の唯一無二の頂点であり、その力は【二十四の時】が束になっても防戦になるしかなかったと言われているほどだ。大戦において、過去の王達と共に謎の死を遂げたとされるが、新たなこの時代の魔王がその人物なのであろう。

「ならば、どうする?コイツを魔王城へ連れ帰るか?」

―――いやいや、全力で遠慮します。

『うむ。ファラならこの事態をどうにかしてくれるかもしれん』

「そうですねー。その剣からは確かにルーさんの力を感じますし、何よりその魔核が何よりの証拠ですしねー」

―――いやいや、どうぞこの剣だけ持っていってください。

『流石、ヴァン!その通りだ』

「…何かしら、ルーの考えがあるならば、勝手な行動は危険」

―――いやいや、この状況にコイツの考えとか微塵もないからね。

『お主、煩いぞ。貴様はここで殺されることはない。わらわは魔王城に帰り、この状況を打開する策を模索する。解決されたのちは、お互い自由な身だ。どちらにもメリットのある提案だろうに』

 脳内で全力否定しつつも、状況は進んでいく。まるで坂道を転がり出したボールの様に。


「ならば、いたしかたない…」

「そうですねー…」

「…」

「な、なんでしょう?」

 薄らと目じりに涙が溜まりかけたところで、三人が同時にラグナの方を向く。

そして、口をそろえて喋るのであった。

「魔王城へ連れていく」

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