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「それではまず階位についてだ。これは今までのおさらいだね…じゃあ、ロク階位の説明をしてくれ」
「はい。魔法の威力・その魔法に必要な魔力量の二つから魔法は区分され、下から五級・四級・三級・二級・一級・特級・古代級と七つになります。これが魔法の階位です」
カイルの要求に席を立つと、つっかえることなくスラスラと答える。
その姿に満足そうに頷くと座る様に促す。
「うん、いいね。満点だ。それで今説明してもらった通り、階位とは魔法の段位と言ってもいいだろう。パリストン大陸にある国では上からイ・ロ・ハ・ニ…とか区分されているし、呼び方は様々だ。それでも全部で七つに区分するのはどこも変わらない…」
黒板を使い、分かりやすいように説明に補足をし、生徒達はそれを必死に書き写す。
「…おい、優等生…暇だ」
「…知らないよ。また、真面目に聞かないと怒られるぞ」
「へいへい」
小声で隣に座る相棒にちょっかいを出そうとするが、相手にされない。
と言うのもロクはカイル先生を尊敬しているし、特に今は『魔術』についてだ。どこから別れたのかは覚えてないが、いつの間にか剣術・前衛は俺、魔術・後衛はロクという形が出来上がっていた。
魔術に一切興味が無い訳ではないが、昨日やったとこのおさらいであるし、階位・札付についてはとっくにロクに講義をしてもらっている。そのロクはカイル先生から特別に個人講義を受けているのだ。そういう訳でロクは他の生徒よりも魔術に関しては知識が深い。そのロク先生から教わっている俺は……
「痛ってぇー!?」
ぼけーっと周りの生徒達を見渡していたら、突然自身が座っている椅子からビリビリと電流が走り、痛みに飛び上がる。
「え?は?あっ!」
飛び上がり、何が起きたかと疑問に思い椅子を見る―――カイル先生を含め生徒全員も講義を止め、此方を見ているが知ったものか。
何もないのを見て、椅子の裏側に眼をやるとそこに一枚の札が張られているのに気づく。
「どんな授業でも、真面目に聞かないとね」
札を剥ぎ取り、誰のいたずらだと周りを睨みつけようとした所でカイル先生の満面な笑みが飛び込んでくる。
逆に恐い。
「す、すみません」
「ラグの馬鹿」
「はぁー」
リンの暴言とロクの溜息が教室を包んだ。
「それでは、続きになるけど、次は札付についてだね。先程、ラグに使った様に魔法を札に封じ込めて、トリガーとなる様に自分の魔力を流し込めば発動するという技術だ。これのメリットとしては何と言ってもその自由度だね。札に魔力を込めとけば、自分の好きなタイミングで使えるし、対人戦においても一つのアドバンテージになるだろう。まぁ、魔力を込めたモノの魔力でなければトリガーとしては機能しないんだけどね。では、もう一つメリットがあるんだけど…、じゃあ、リンそれはなんだろう?」
「はい。普通の詠唱と違い、札に魔力を溜めこんでの使用になるので、自分の本来の魔力量以上の魔術が使えることです」
「正解。しかし、だからと言って札を使えば皆が一級や特級はたまた古代級の魔法が使える様になるかというとそうじゃないんだ。自分の魔力を水、それを流し込む元を水道として札をその水を溜める桶と捉えてみよう。上級の魔術を使う為に必要な魔力量を溜めるにはそれ相当の大きさの桶が必要だ。それに対し、水道から出る水の量というのは使用者の力量による。未熟な人間が水を溜めようとしたら、その速度は微々たるモノで、本来五級しか使えない人が一級以上の魔力量を溜めようとすれば、それは下手したら年単位の話になってしまうかもしれないんだ」
「それでも、それだけの期間を費やせば、僕等でも一級以上の魔法が使えるということですか?」
話の腰を折るロクの質問にも、カイル先生は不快な表情はせず、寧ろその質問を待っていたかの様な表情をする。
「良い質問だ。その答えは否だ。というのも、頑張って水を溜めたとしても、そんな未熟な使い手ではそれだけの量を溜めこんだ桶を持ち上げることができない―――即ち、発動しないんだ。ちゃんとした統計がある訳ではないが、基本は五級までしか使えないモノは札付にしても五級までしか使えないということだ。稀に才能ある人間が上の級の魔術を使える様になるがそれでも一段階上が限界だろう。それ以上になると魔術理論に頭が追いつかないんだ。魔術理論というのは…」
更に続く、カイル先生の話に頭が限界を迎える。元々、頭を使うのは苦手だ。昨日、ぶっつけ本番ではあったが四級の札付を使えたロクはやはり魔術の才能があるのだろう。俺自身は五級が何とか使える程度である。だからこそ、剣を使うことが型に嵌ったとも言えるのだが。
カイル先生の目につかない程度には講義に集中している振りをして、頭の中は今日の午後についてで一杯になってしまう。
昨日は不意打ちプラス、ロクの魔術支援があったからこそ、ワータイガーを仕留めることができたのだ。だからこそ、一人きりでアイツを倒すことができれば、俺はこの界隈で敵無しになれるな。などとつらつらと対ワータイガー戦を頭で思い描く。
―――よし、決めた!今日の午後はワータイガーと一人で対峙してやる。勝てなかったら、死ぬ気で逃げる!
「と、そんな所で今日の講義はお終い。明日は実際に札付を実践してみようか。それじゃあ、そこら辺の所を復習してくるように。いいね、ラグ」
「は、はい!」
妄想ではなんとか苦戦はしたが、ワータイガーに馬乗りになり、その喉元へ剣を突き刺そうする所まできていたが、突然のカイル先生の振りに慌てて飛び上がる。
丁度良く、そのタイミングで鐘が鳴り、昼休みを知らせたのだった。