第25話:婚約者候補を辞退できない様です
貴族学院に入学して、6ヶ月が経とうとしていた。すっかり学院生活にも慣れ、毎日楽しい日々を送っている。推しのジャック様との仲も随分深まって来た。
お父様にも、クラウディオ殿下の婚約者候補を辞退したら、ジャック様を婿にしたいという話を、それとなくしている。
正式にクラウディオ殿下の婚約者候補を辞退した後、すぐにでもレクシティーオ公爵に話しをしてくれるとの事。お父様の話では、ジャック様は今のところ婚約者などもいないので、多分断られることはないだろうと言っていた。
とにかく、一刻も早くクラウディオ殿下の婚約者候補を辞退したくて、毎日毎日、指折り日にちを数えているのだ。
ただ、なぜかクラウディオ殿下は、私によく絡んでくる。先日我が家で行われた私の誕生日パーティーでは、強引にダンスに誘われ、さらに中庭にまで連れて行かれたのだ。
あの時のクラウディオ殿下の顔が、漫画でルイーダ様に見せた顔によく似ていて、背筋が凍り付いた。どうして私に、あの様な顔をするのか理解できない。
この頃には、既にルイーダ様とクラウディオ殿下は、もうお互い好き合っているはずなのだが…
ただ、私は入学式の2人の出会いの場面しか見ておらず、正直2人が今どれくらい仲を深めているのかわからない。
確か漫画でも2人は、人目を忍んで会っていたのよね。それをあざとくデイジーが見つけて、嫌がらせをしていたのだが…
ただ、デイジーが嫌がらせをしなくても、きっと殿下に好意を抱いている令嬢たちが、しっかり嫌がらせをしてくれているだろうから、問題はないだろう。
とにかく私は、さっさと殿下の婚約者候補を辞退して、推しのジャック様と幸せになろう。それに何より、私がクラウディオ殿下の婚約者候補を辞退する事で、きっと彼とのつながりも完全に切れるはず。
そうなれば、漫画にある私とお父様が極刑に処せられることもないはずだ。そう、実は私は、いくら私が漫画とは違う動きをしたとしても、強制力の様なものが働き、結局私とお父様は殺されるのではないかという心配をしているのだ。
とにかく後1週間足らずで、婚約者候補も辞退できるのだ。辞退できる様になったら、さっさと辞退しよう。きっと殿下も私が辞退したら、もう私に気を使う必要もないので、絡んでくることもないだろう。
そう私は思っているのだ。
「お嬢様、旦那様がお呼びです」
1人部屋で今後の事を考え、ニヤニヤしていると、メイドのジェシカが私を呼びに来た。
「お父様が私を?わかったわ、すぐに行くわね」
一体何の用かしら?そう言えば今日は、クラウディオ殿下に呼び出されて王宮に行くと言っていたわね。もしかして、少し早いけれど婚約者候補辞退の件を話してきてくれたのかしら?
もう思いながらお父様のところへ向かう。
「お待たせいたしました。今日はどうされましたか?」
「デイジー…」
私の顔を見るなり、悲しそうな顔をしているお父様。一体どうしたのかしら?
「お父様、何があったのですか?どうしてその様な悲しそうな顔を?」
「すまない…クラウディオ殿下の婚約者候補を辞退する話だが…その…できなくなってしまったのだ」
何ですって?辞退できない?
「どうしてですか?確か1年経てば、辞退は可能だったはずです。それなのに、どうして?」
「本当にすまない…全て私の責任だ。申し訳ない」
お父様が涙を流しながら頭を下げる。やめて!そんな姿、見たくないわ。
「お父様、そんな顔をしないで下さい。私は大丈夫ですわ。ですから、どうか心穏やかに」
「デイジーは本当に優しい子だね。まるで君の母親、シャリーを見ている様だ」
そう言うと、泣きながら私を抱きしめるお父様。シャリー…そう、私が小さいときに亡くなったお母様の名前。漫画で一瞬だけ登場したことがあった、デイジーとは似ても似つかない、心の優しい女性だった。
しばらく私を抱きしめた後、少し落ち着いたのかお父様が私から離れた。もしかしたら、殿下に何かを言われたのかしら?
とにかく一度頭を整理したい。
「お父様、私は一度部屋に戻りますね。それから、お父様は何も悪くありませんわ。ですから、どうかご自分を責めないで下さい」
「ありがとう、デイジー」
お父様に軽く頭を下げ、自室へと戻る。普通に考えると今日殿下から、婚約者候補の辞退は認めないと言われたのだろう。でも、婚約者候補の辞退は、いくら王族に引き留められようと、候補者の権利でもある。
そもそも、辞退しようとする令嬢に圧力をかける事は、法律で禁止されているはず。
それにお父様の性格上、百歩譲ってどんなに殿下に泣きつかれたとしても、絶対におれたりしない。それなのに、どうして…




