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雪の奥で、二人きり  作者: 秋空 夕子


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7/7

第七話

「なあ、氷室さん」

「雪花と呼んでください」

「……雪花」

 名を呼ばれただけで、雪花は満足そうに目を細めた。

 二人は山奥へと進んでいく。

 手を固く握り合う姿は誰がどう見ても仲睦まじい恋人同士である。

「そんな簡単に、人間はやめられるものなのか?」

「大丈夫ですよ。意外と簡単なんです」

 一拍置いて、雪花は付け加える。

「……私がやるのは、初めてですけど」

「おいおい、不安だな」

 山の奥へ進むにつれ、空気がひどく澄んでいく。

 人の気配はとうに途切れ、聞こえるのは二人の雪を踏みしめる音だけだ。

「……本当に、俺は人間ではなくなるんだな」

 煉司が呟く。

 恐怖ではない。ただ、確認するような声音だった。

「怖かったら、今なら引き返せますよ」

 雪花は最後の確認を行う。

 それは決して優しさなどではなかった。

「俺を一人にする気か?」

 煉司が苦笑を浮かべると、雪花は笑みを返す。

「ふふ、冗談ですよ」

 その笑みには、雪女特有の仄暗さと、確かな歓喜が混ざっていた。

「ずっと、一緒です」

 冷たい指先が、煉司の胸に触れる。

 鼓動はまだ、確かに人間のものだった。

 けれど、それも――もうすぐ終わる。


■■■


 その山には、昔から化物が暮らしているという。

 男一人で足を踏み入れれば、その化物が襲って食べてしまうと、まことしやかに囁かれていた。

 しかし、そんな逸話も年月が流れと共に忘れ去られて、ただの怪談話となる。

 だから、その山で暮らそうとしていた物好きな男が姿を消した時も、吹雪に巻き込まれて死んだのだとしか思われず、ろくに捜索もされなかった。

 その山の奥で寄り添って生きる二つの影のことを、知る者は誰もいない。


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