最終章 残照
三年後。
ヴァルティアでは、初めての大統領選挙が行われた。
キョウは立候補しなかった。
剣を振るい、国を興し、戦争を終わらせる――その役目は、もう果たしたと思っていた。
キョウが上に立つ時代は、確かに存在した。だが、それは永遠である必要はない。
選挙はアリアとメルティナの一騎打ちとなった。
両者ともに民の支持は厚かったが、メルティナは後遺症のため体調を崩しがちで、それが最後まで懸念された。
結果、初代大統領に選ばれたのはアリアだった。
かつて転生者が築いた国、シリウスの政治を知る者。
理想だけでなく、制度と現実を理解している。
その選択を、キョウは悪くないと思った。
キョウは副大統領に就き、アリアを支える立場に回った。
王国は、少しずつ安定を取り戻していった。
だが、遠くでは再び戦乱の噂も聞こえてくる。
修羅の国――三統領を失い、再び分裂したあの地へ、シェリルが向かったという。
平定は、時間の問題だろう。
そう語られるほど、世界はもう「戦争を終わらせる側」の論理で動いていた。
さらに四年が過ぎた。
アリアは再選し、二期目の政権が始まった。
その頃、キョウは政治の表舞台からも距離を置き、湖のほとりに小さな別荘を構えていた。
かつて、ゼルフィアと唇を重ねた場所。
だから選んだわけではない。
ただ、湖面に映る空が、静かで綺麗だったからだ。
風が吹き、湖がわずかに揺れる。
視線の先には、セレナと、二人の子どもたちがいる。
子どもたちは無邪気に走り回り、セレナはそれを見守りながら、ふとこちらを振り返った。
目が合う。
キョウは、何も言わず、ただ小さく微笑んだ。
戦いは終わった。
復讐も、憎しみも、すべてが消えたわけではない。
それでも世界は続き、人は生き、次の時代を選び取っていく。
湖面に、穏やかな光が差し込んでいた。
完




