第61章 反乱
王国各地で起きた反乱は、一年が過ぎても終わらなかった。
鎮圧しても、鎮圧しても、火は消えない。
灰の下で燻り続け、やがて別の場所で噴き上がる。
サーシャの死により、女王ジェルミナの資金源は断たれた。
それで豪奢な生活が終わるかと思われたが、現実は逆だった。
税はさらに引き上げられた。
五割を超え、やがて六割に達する。
臨時徴用の名の下に、家財は接収され、家畜は奪われた。
徴税官の背後には兵が立ち、抵抗すれば処罰が下る。
王都は静かだった。
静かすぎるほどに。
女王は、シェリルに会おうとしなかった。
呼び出されることもなく、意見を求められることもない。
シェリルは、何が正しいのかわからなくなっていた。
王家に恩義はある。
だが、今の女王を守ることが、果たして国を守ることなのか。
答えは出ないまま、
彼女は再び反乱鎮圧のため出兵した。
――だが、今回は違った。
報告を聞いた瞬間、シェリルは言葉を失った。
反乱軍、三万。
これまでの反乱は、数百、多くても千程度。
それが三万という規模で、街を制圧している。
しかも、戦っていない。
反乱軍が接近すると、多くの街は門を開いた。
守備軍も抵抗せず、官吏たちも逃げなかった。
無血開城。
それが連鎖するように続いているという。
「首魁は誰だ」
そう問い返しても、最初は名前が出てこなかった。
だが、進軍を続け、反乱軍の拠点とされる城に近づくにつれ、
噂は一つの名に収束していった。
――ルシア。
シェリルは、息を呑んだ。
行方不明となり、死んだとも言われていた王女。
修羅の国に敗れ、歴史から消えたはずの名。
ルシアは、山奥に潜伏していた。
敗北のあと、何もやる気が起きなかった。
ゼルフィアは死に、頼る者はいない。
生きている意味さえ、見失っていた。
ヴァルティアと修羅の国の戦争。
終戦。
ヴェルミナが女王に返り咲いたという知らせ。
それらを聞いても、心は動かなかった。
だが、一年の間に、状況は変わった。
ルシアのもとを訪れる者が、次第に増えていった。
最初は数人だった。
次に十人。
やがて、百を超えた。
「立ってほしい」
「あなたしかいない」
ルシアは、すべて追い返した。
もう争いは嫌だった。
だが、彼らの語る話は、次第に重さを増していく。
税が五割になった。
六割になった。
臨時徴用で家が空になった。
冬を越せない村が出ている。
その話を聞いたとき、
ルシアは、はじめて目を伏せた。
――逃げ続けることはできない。
この政治は、腐っている。
放置すれば、国は死ぬ。
ルシアは、立つと決めた。
彼女が動いた瞬間、流れは一気に変わった。
民だけではない。
街の守備軍、地方官吏、下級貴族までもが応じた。
「ルシアの名」があったからだ。
戦闘はほとんど起きなかった。
彼女の名を聞き、門を開く者が多かった。
こうして、反乱軍は三万に達した。
そして――
シェリルが来る。
王国第1将軍。
女王の剣。
ルシアは、その報を聞き、深く息を吐いた。
避けては通れない。
シェリルは、かつて王国を支えた剣。
敵に回す覚悟が、いる。
それでも。
ルシアは、意を決した。
「会おう」
剣ではなく、
言葉で。
この国の行く先を、
決めるために。




