表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パワハラ女上司に殺された中年サラリーマンは異世界で国をつくる  作者: 越後⭐︎ドラゴン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/64

第60章 戦後

 ヴァルティア軍は、エリュシオンへ帰還した。


 勝利ではあった。

 だが、凱旋と呼ぶには、あまりに足取りが重い。


 街道を進む兵たちは声を上げず、旗も高く掲げられなかった。

 失った名が多すぎた。

 戻らぬ者の顔が、誰の脳裏にも浮かんでいた。


 キョウは、城に戻ると自室に籠もった。

 食事もろくに取らず、誰とも会わない日が続いた。


 守ったものはあった。

 だが、失ったものの方が、どう考えても多かった。


 セレナは、全身の傷を癒すため療養に入った。

 剣を振るえるようになるまでには時間がかかるだろう。


 エマとランバルタも、毒の後遺症から逃れられなかった。

 命は助かったが、身体は以前のようには動かない。


 メルティナもまた、限界を超えて力を振るった代償を負っていた。

 時折血を吐き、強い倦怠感に襲われる。

 魔力はほとんど戻らず、術の詠唱もままならなかった。


 動ける者は、アリアとガイアスしかいない。


 すぐに戦が起きることはない。

 だが、軍の疲弊は深刻だった。


 今は、休むべき時だった。



 一方、王国。


 女王ジェルミナは帰還した。

 ルシアは行方不明のまま、姿を現さない。


 戦争で荒廃した国土に、無理な徴兵の傷跡が残る。

 それにも関わらず、女王の悪政は以前よりも酷くなっていた。


 税は引き上げられ、徴収は苛烈を極める。

 一方で、王都では豪奢な宴が繰り返された。


 各地で反乱が起きた。


 シェリルは、それを鎮圧するために駆け回った。

 本来なら、女王を諌める立場であるはずだった。


 だが、彼女は逃げた。


 反乱の現場へ。

 血と泥の中へ。


 シェリルは寒村の出身だった。

 税を滞納した村は処罰され、彼女は奴隷として王家に売られた。


 幼いジェルミナに気に入られ、身分は解放された。

 それでも、奴隷出身という烙印は消えない。


 だから剣を磨いた。

 認めさせるために、戦い続けた。


 第1将軍にまで登り詰めたのは、その結果だった。


 ――それでも。


 女王の暴政を止める勇気は、持てなかった。



 修羅の国との戦いから、一ヶ月。


 アリアはガイアスを伴い、王都へ赴いた。

 援軍を出した謝礼を要求するためだ。


 女王は渋々承諾した。

 支払いの保証はないが、何も得られないよりは良い。


 王都で、アリアはサーシャと会った。


 しぶとく生き残った女商人。

 今や女王の片腕として、修羅の国の特産品を流通させ、巨万の富を築いていた。


 その一部が、女王の懐に入っている。


 アリアは、サーシャを許さなかった。


 いや、大陸の多くの人間が、彼女を許さないだろう。


 アリアは、ガイアスに短く耳打ちした。


 会談の翌日。

 王城の前に、裸の変死体が放置されていた。


 サーシャだった。


 女王は発狂し、下手人を探せと叫んだ。

 だが、犯人が見つかることはなかった。


 すでにアリアとガイアスは、エリュシオンへの帰途についていた。


 アリアは、それでよいと思った。



 セレナは復帰していた。


 だが、キョウはまだ自室から出てこない。

 それを聞き、彼女は深く息を吐いた。


 これで何度目だろう。


 セレナは、扉を開けるなり、キョウの頬を打った。


 乾いた音が響く。


 そして、何も言わず、彼を抱きしめた。


 キョウは抵抗しなかった。

 ただ、静かに肩を震わせた。



 ランバルタは、毒は抜けたが、足に後遺症が残った。


 軍人として生きる道を、彼女は自ら閉ざした。


 数多くの敵を殺し、数多くの仲間を失った。

 そのすべてを弔うため、修道女になる道を選んだ。


 エマもまた、剣を取る覚悟を失っていた。

 生死の境を越えたことで、戦場を思うだけで身体が震える。


 ランバルタの引退を聞き、エマも軍を離れた。

 文官となり、旧ヴァルティア城の長官に就いた。


 メルティナは回復した。

 だが、術は戻らない。


 魔力が枯渇したのか、精神的なものかは分からない。

 彼女は二度と戦場に立たないと悟り、政務に身を捧げた。




 キョウ、メルティナ、アリア。


 三人を中心に、ヴァルティアは共和制へと進んだ。


 そして一年後。


 エリュシオンでは、初めての議会選挙が行われた。


 民から、五十人の議員が選ばれる。


 それは、血と喪失の上に築かれた、新しい一歩だった。


 だが誰も、それを祝おうとはしなかった。


 この国は、

 あまりに多くを失って、ここまで来たのだから。


 ――それでも。


 歩みは、止まらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ