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パワハラ女上司に殺された中年サラリーマンは異世界で国をつくる  作者: 越後⭐︎ドラゴン


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第57章 激闘

 メルティナは、もう限界を越えていた。


 喉の奥に鉄の味が広がり、咳とともに血が地面に落ちる。

 それでも詠唱を止めなかった。


 ――あの日。

 帝国の牢で、絶望の底にいた自分を引き上げたのはカゲロウだった。

 刃を自分に向けた手を、泣きながら止めてくれたのも、あの人だった。


「……許さない」


 声は震えていたが、術は揺るがない。

 光とも炎ともつかぬ力が、百人ほどの兵に流れ込む。


 筋肉が膨張し、目に理性の色が消える。

 強化された兵たちは獣のように吼え、スズナの軍の前衛へ雪崩れ込んだ。


 盾が砕け、槍がへし折られる。

 陣形という概念そのものが、力で押し潰されていく。


 その開いた穴へ、リシュアが踏み込んだ。


 彼女もまた、カゲロウに救われた一人だった。

 帝国残党に囲まれ、死を覚悟した夜。

 背後から飛んできた刃が、命を繋いだ。


「道を開く!」


 剣が閃き、崩れた前線をさらに押し広げる。

 スズナの軍は、明確に瓦解し始めていた。


 だが――


「……出過ぎたな」


 スズナは、冷静だった。


 強化兵に意識を奪われ、メルティナの軍は大きく前に伸びている。

 本陣の旗が、わずかに前へ出ているのが見えた。


 スズナは手勢をまとめ、鋭く突く。


 その動きに最初に気づいたのは、リシュアだった。


「――戻れ!」


 叫びながら、剣を返す。

 揺れる本陣の旗。

 間に合わなければ、すべてが終わる。


 リシュアは、メルティナの前に立ちはだかった。


「下がって! 軍を立て直して!」


 メルティナは一瞬、唇を噛みしめる。

 そして前線へ向き直り、分断された部隊をまとめに走った。


 その背を守るように、リシュアは剣を振るう。


 だが、気づけば周囲に味方の姿はない。

 倒れ、退き、切り裂かれていた。


 汗が額を伝う。


 スズナが、ゆっくりと前に出る。


「……お前だな」


 その目には、はっきりとした怒りが宿っていた。


「エリュシオンで、私の部下を殺した剣士」


 剣を抜く音が、乾いた戦場に響く。


「今度は、私が斬る」


 ⸻


 一方、別の戦線。


 キョウとセレナは、ナギサの本隊を押していた。


 だが、ナギサはわざと兵を左右に割り、隙を見せる。

 誘いだと分かっていても、キョウは踏み込んだ。


「今だ……!」


 剣を振るい、波動を放つ。


 だが前に出てきたのは、異様に分厚い盾を持つ兵たちだった。

 何重にも重ねられた盾が吹き飛び、兵は倒れる。


 ――しかし、ナギサには届かない。


 一気に体力が削られる。

 そこへ、左右から締め上げが来た。


「キョウ!」


 セレナが駆けつけ、光の矢を放つ。

 敵の進軍が止まる。


 だが、その瞬間だった。


 ナギサの放った縄が、空を切った。


 絡みつく。

 引き倒される。


 セレナは馬上から叩き落とされ、地面に何度も打ち付けられる。


「セレナッ!」


 キョウは怒りに任せて馬を駆り、縄を斬り払う。


 息はある。

 だが、全身は血に染まり、意識はない。


 キョウはセレナを抱え上げ、後退する。


 その隙を逃さず、ナギサが反撃に出た。

 ヴァルティア軍の陣に、綻びが走る。


 ――崩れる。


 そう思われた瞬間。


「踏みとどまれッ!!」


 怒号が戦場を裂いた。


 ランバルタだった。


 重傷を負い、退いていたはずだったが、いてもたってもいられず出てきた。

 馬には乗れない。剣を杖代わりに立っている。


 だが、その姿だけで、兵は息を吹き返した。


 ヴァルティア軍は持ち直し、ナギサの反撃を食い止める。


 


 その少し後方。


 シェリルは、歯を食いしばって戦場を見ていた。


 今なら、背後を突ける。

 それでナギサを討てば、この戦は終わるかもしれない。


 だが――


 女王の声が、脳裏をよぎる。


「もっと追い込まれた時の方が、価値は高いわ」


 シェリルは兵を出す。

 だが、それは本気の攻めではない。


 ヴァルティアと戦うふりをしながら、時を待つ。


 戦場は、まだ終わらない。


 それぞれの想いと計算が、さらに深く絡み合っていく。

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