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パワハラ女上司に殺された中年サラリーマンは異世界で国をつくる  作者: 越後⭐︎ドラゴン


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第55章 救出

 女王の監禁場所は、要塞から離れた山中にあった。


 修羅の国の要塞は戦場を見下ろす位置に築かれているが、

 女王が幽閉されているのは、そこから半日ほど離れた旧修道院跡。


 補給路からも外れ、

 軍議にも使われない、忘れ去られた場所。


 警備は厳重だが、静かだ。

 騒ぎが起きること自体、想定されていない。


 ナギサの意識は、常に前線と要塞にあった。

 この場所まで注意を向ける理由はなかった。



 夜。


 カゲロウは森の中に伏せていた。


 風向きを読み、

 月の位置を確かめ、

 巡回の間隔を測る。


 ――完璧だ。


 腰の小瓶を抜く。


 無色透明の霧が、地面を這うように広がる。


 最初に倒れたのは、見張りだった。


 喉を掻き、膝を折り、音もなく崩れる。


 次に、門番。


「……?」


 気づいた時には、もう遅い。


 霧は重く、肺に絡みつく。


 数息のうちに、警備兵は次々と倒れた。


 だが、ここで終わりではない。


 カゲロウは森の外れに火を放った。


 乾いた枝が爆ぜ、炎が立ち上る。


「火だ!」


「森が燃えてるぞ!」


 警備兵たちはそちらに引き寄せられる。


 女王の牢がある区画は、完全に手薄になった。


 


 鉄格子を外す。


 中にいた女王は、生きていた。


 だが、痩せ細り、目は虚ろ。


「……誰……」


「迎えに来ました」


 拘束を解き、肩を貸す。


 女王は、ようやく現実を理解したように、名を呼んだ。


「……シェリル……」


 脱出は、迅速だった。


 森に紛れ、街道を外れ、谷へ降りる。


 だが――


 そこまでだった。


 


 追撃は、想定より早かった。


 火災は囮だったが、

 それに気づいた者がいた。


 スズナの偵察隊。


 彼女たちは、森の異変そのものを警戒していた。


「いるぞ!」


 矢が飛ぶ。


 カゲロウは女王を庇い、刃で弾く。


「先へ!」


 部下が女王を引き受け、離脱する。


 カゲロウは、ひとり残った。


 ここからが、本当の戦いだった。


 


 暗闇の中で、刃が交錯する。


 鎖鎌。短剣。投げ針。


 カゲロウは地を蹴り、木を駆け、

 影から影へと飛ぶ。


 一人、斬る。

 二人、倒す。


 だが、疲労が限界だった。


 連日の潜行。

 睡眠不足。

 毒霧の残滓。


 腕が重い。


 呼吸が乱れる。


 それでも、道を切り開こうとする。


「……まだだ」


 背後から、衝撃。


 膝が折れる。


 立ち上がろうとした瞬間、数本の刃が突き立てられた。


 拘束。


 完全に囲まれた。


 


 スズナの前に引き出される。


「……何をしていた」


 答えない。


 その時、伝令が駆け込む。


「女王が……逃げました!」


 空気が変わる。


 スズナの顔が、歪む。


 警備は、自分の部下だった。


 怒りのままに、カゲロウを蹴り飛ばす。


 その衝撃で、懐から短刀が転がり落ちた。


 拾い上げる。


 目が、見開かれる。


「……それは……」


 シオンの短刀。


「どこで、手に入れた」


 


 思い出が、堰を切ったように溢れる。


 実の妹。

 売られた隠密。

 磔にされたという噂。


 里を滅ぼした日。

 商人を殺した夜。


 大陸への憎悪。


 それでも、晴れなかった。


 そこに現れた、シオンに繋がる人間。


 スズナの中で、理性が完全に壊れた。


 


 拷問は、夜通し続いた。


 問いは、ひとつだけ。


 シオンのこと。


 女王が逃げたことなど、

 もうどうでもよかった。


 ナギサにも、報告しなかった。


 スズナの世界には、

 もはやそれしか存在していなかった。

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