表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パワハラ女上司に殺された中年サラリーマンは異世界で国をつくる  作者: 越後⭐︎ドラゴン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/64

第50章 消耗

 要塞は、最初からそこに在ることを前提にした構えだった。


 平原の緩やかな起伏を取り込み、濠と逆茂木で動線を縛り、正面からの強襲を拒む。

 急造の防塁ではない。退くために、あらかじめ選ばれ、準備されていた場所だ。


 ヴァルティア軍は、その前で足を止めざるを得なかった。


「……引いたんじゃないな」


 ランバルタが低く言う。


「最初から、ここに入るつもりだった」


 キョウは地図から目を離さず、城壁の線をなぞった。

 一年。

 修羅の国は、その時間を丸ごと使っている。


 戦う前から、負けない準備を終えていた。




 要塞の中。

 ナギサは高台に設けられた天幕で、静かに情勢を整理していた。


「ここに入った時点で、主導権は半分こちら」


 声は落ち着いている。

 焦りも高揚もない。


「ヴァルティアは攻めにくい。

 でも、こちらも無理に出る必要はない」


 スズナが地図を覗き込む。


「時間を使う?」


「ええ。二つの策を、同時に」


 ナギサは指を二本立てた。


「一つ目。王国内の徴兵を続行」


 既に始まっている。

 村から、街から、人が引き剥がされるように集められていた。


「訓練は不要。

 武器を持たせて前に立たせるだけでいい」


「前線に?」


「前線に“立たせる”のよ」


 ナギサは淡々と続ける。


「逃げ場を塞いで、前に押し出す。

 ヴァルティアは、守るために戦う国。

 民兵を前に出されたら、刃を鈍らせる」


 死に兵。

 だが、意味のある死だ。


「数は力。

 士気が低くても、使えるものは使う」




「二つ目は?」


 スズナの問いに、ナギサは地図の後方を指した。


「エリュシオン」


 補給と行政の要。

 そこが揺らげば、前線は立ち行かない。


「メルティナとアリア。

 どちらか一人でも欠ければ混乱は起きる。

 両方なら、持久戦は終わる」


 スズナは頷いた。


「私の部下を出す」


「お願い。

 あなたはここを離れないで」


 スズナは自ら動かない。

 動くのは、影の中で鍛え上げた暗殺者たちだ。


 術を使う者。

 毒を操る者。

 一度狙われれば、生き残るのは難しい。




 要塞の外。

 日を追うごとに、シェリルの軍は膨れ上がっていった。


 昨日まで農具を握っていた手が、今日は槍を持つ。

 目は泳ぎ、足取りは重い。


 それでも、数だけは増える。


 十二万。


「……民兵だ」


 エマが歯を噛みしめる。


「前に立たせる気だな」


 キョウは答えない。

 答えがないからだ。


 攻めれば、修羅の国本軍が要塞から出てくる。

 放置すれば、民兵が前に押し出され、血の壁になる。


 ナギサは、選択肢そのものを削ってきている。




 エリュシオン。

 白い石畳の街は、まだ平穏を保っていた。


 だが、リシュアは気づいていた。


 巡回の中で、

 視線が一瞬だけ外れる瞬間。

 人の流れに混じる、不自然な“間”。


 ――隠密。


 しかも、複数。


「……狙いは」


 思考は早かった。


 メルティナ。

 そして、アリア。


 両方を同時に守ることはできない。


 リシュアは一瞬だけ迷い、そして決断する。


「ガイアス将軍」


 声をかけると、屈強な将軍が足を止めた。


「お願いがあります」


 命令ではない。

 依頼だ。


「メルティナ様の護衛を引き受けてください。

 あなたなら、安心して任せられる」


 ガイアスは一瞬、驚いたように眉を動かし、すぐに頷いた。


「承知した。

 こちらは必ず守る」


「ありがとうございます」


 アリアの方は、自分が行く。


 リシュアは剣の柄を握る。

 細身の刃が、夕光を弾いた。


 治安維持部隊長としての役目は、

 街を守ることではない。


 “守るべき者を、生かすこと”だ。




 要塞前線。

 ナギサは高所から戦場を見下ろしていた。


 民兵が前に押し出される。

 背後には督戦隊。


 逃げれば斬られる。

 進めば、ヴァルティア軍と向き合う。


 泣き声が混じる。

 叫びが上がる。


 ナギサは目を伏せない。


「行きなさい」


 それは命令ではなく、

 使い捨てる覚悟の言葉だった。




 キョウは拳を強く握りしめる。


 この戦争は、

 剣の強さだけでは終わらない。


 そして――

 敵はまだ、すべての牙を見せていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ