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パワハラ女上司に殺された中年サラリーマンは異世界で国をつくる  作者: 越後⭐︎ドラゴン


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第49章 要塞

 二日目の朝も、陣形は変わらなかった。


 霧が晴れきらぬ平原に、両軍の旗が重くはためく。昨日と同じ布陣、同じ距離。だが空気だけが違っていた。

 互いに、相手の力を測り終えている。


 ヴァルティア軍は十万。中央にランバルタとエマ、左翼にリディア、右翼にセレナ。

 修羅の国と王国連合は十一万。中央にカガリ、右にシェリル、左にスズナ、そして後方にナギサ。


 キョウは馬上で戦場を見渡し、わずかに眉をひそめていた。

 敵の陣は整いすぎている。昨日の消耗を感じさせない。まるで、ここに至るまでの一手一手を最初から想定していたかのようだった。


 ——修羅の国は、一年かけて準備している。


 その事実が、戦場のあちこちに滲み出ていた。


 先に動いたのは右翼だった。


 セレナが杖を掲げ、短く号令を発する。

 術士隊が一斉に詠唱に入り、淡い光が陣を包んだ。幾重にも重なる光の膜——防御結界。


 ゼルフィアが射抜かれたという報告を、セレナは忘れていない。

 弓。無音。不可視。

 同じ轍は踏まない。


 対するスズナの軍も即座に反応した。

 弓騎兵が前進し、矢を放つ。風を切る音すらない。だが——


 光の障壁に触れた瞬間、矢は弾かれ、軌道を逸らした。


 セレナの術士隊が反撃に転じる。

 光の矢が放物線を描き、スズナ軍に降り注ぐ。


 盾が構えられ、衝突音が連なる。

 致命傷は出ない。だが確実に削り合っている。


 中央では、重い音が響き始めていた。


 ランバルタの重騎兵とエマの歩兵が、整然と前進する。

 盾が揃い、槍が突き出される。愚直なまでの正攻法。


 カガリはそれを正面から受け止めた。


 巨馬に跨る女が咆哮を上げ、鉄垂を振るう。

 一撃ごとに兵が吹き飛び、盾が砕ける。


 だが、昨日とは違った。


 巨馬隊は、もうほとんど残っていない。

 ぶつける切り札は減り、突破力は落ちている。


 それでもカガリの周囲だけは、修羅の国の名に恥じぬ地獄だった。


「どけぇぇぇぇ!!」


 鉄垂が振り下ろされ、数人まとめて潰れる。

 ランバルタは歯を食いしばり、前に出た。


 二人の距離が縮まる。


 頭上から落ちる鉄の塊。

 ランバルタは身を捻り、馬を滑らせ、紙一重で避け続ける。


 ——重い。


 腕に、脚に、疲労が溜まっていく。


 その時、左翼が動いた。


 リディアだった。


 シェリル軍の士気の低さを見抜き、一直線に突破する。

 軽騎兵が疾走し、陣を切り裂く。


 後方で見ていたナギサが舌打ちした。


 即座に伝令を走らせる。


 ——本気で戦え。でなければ女王は死ぬ。


 その言葉は、確実にシェリルを縛った。


 シェリルは剣を握り直し、前に出る。

 氷の剣が振るわれ、地面に氷柱が突き立つ。


 リディアは直感的に悟った。

 ——この女、勝つ気がない。


 そして次の瞬間、判断した。


 中央が危ない。


 リディアは進路を変え、ランバルタの元へ向かう。


 戦場は、自然と中央に収束していった。

 左右の兵が流れ込み、密度が増す。


 ランバルタとカガリの一騎打ちは続いていた。


 そこへ、リディアの大剣が振り下ろされる。


 カガリは鉄垂で受け止め、火花が散る。


 次の瞬間、ランバルタの突き。


 剣先が脇腹を掠め、血が飛んだ。


「……チッ」


 カガリは一瞬で悟った。


 二対一。

 そして周囲には、もうぶつける騎馬がない。


 将として、ここで死ぬ意味はない。


 反転。

 撤退。


 その判断と同時に、引き鐘が鳴った。


 二日目は、ヴァルティアの優勢で終わった。


 だが、夜。


 ナギサは迷わなかった。


 シェリルを呼びつけ、軍牌を投げつける。

 額が割れ、血が流れる。


「次はない」


 その言葉だけで十分だった。


 夜陰に紛れ、修羅の国は後退を開始する。


 キョウは翌朝、それに気づいた。


 慎重に、慎重に追う。


 二十キロほど進んだ先で、それは現れた。


 石と土で築かれた要塞。


 急造ではない。

 一年かけて準備されたものだ。


 街道から外れ、谷と谷に挟まれた盲点。

 ここを拠点に、いつでも引けるようにしていた。


 ——簡単に勝てないと分かった時は、ここに戻る。


 最初から決められていた撤退線。


 キョウは静かに息を吐いた。


 これは、即席の侵攻ではない。

 大陸を獲るための、計画された戦争だ。


 カゲロウは膝をつき、頭を下げた。


 だがキョウは首を振る。


「よくやってくれた」


 それでも、カゲロウは感じていた。


 ——シオンなら、もっと早く気づいたかもしれない、と。


 戦いは、まだ始まったばかりだった。

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