第48章 初戦
ゼルフィアの死、そして軍の崩壊。
その報は、ルシアのもとにほとんど同時にもたらされた。
最初に届いたのは、前線が瓦解したという知らせだった。
修羅の国と旧王家の連合軍が現れ、王国軍は総崩れになったという。
次に届いた報が、すべてを決定づけた。
――ゼルフィア、戦死。
ルシアは言葉を失った。
王国を支えてきた剣、軍を束ねてきた意志、その象徴が消えた。
もはや抗う術はない。王都は持たない。
わずかな近習を連れ、ルシアは王都を捨てた。
夜のうちに城門を抜ける。背後で燃え上がる都を、振り返ることはなかった。
王国は、落ちた。
⸻
その頃、キョウは援軍要請を受け、すでに出陣の準備を整えていた。
だが、次に届いた使者の言葉は、想定をはるかに超えていた。
王都陥落。
ゼルフィア戦死。
ルシア、行方不明。
キョウはその場に立ち尽くした。
――あのゼルフィアが、死ぬ?
湖畔で交わした視線。
一瞬だけ触れた唇の感触。
敵であり、恐れであり、そして……忘れられない存在。
胸の奥がざわつく。だが、考える暇はなかった。
敵は修羅の国。
未知で、得体が知れず、しかも王国を一夜で叩き潰した勢力。
キョウはカゲロウに命じた。
探れ。徹底的にだ。
だが戻ってきた情報は乏しかった。
分かったのはただ一つ。
――全力でぶつからなければならない相手だ。
ランバルタ、エマ、リディア、セレナ。
全軍十万。
キョウは王都へ向かう。
⸻
街道には、逃げ惑う民と兵が溢れていた。
疲弊し、怯え、武器を失った者たち。
キョウは街道を押さえ、陣を広げる。
追撃を許さず、受け入れ、守る。
やがて、地平の彼方に軍影が現れた。
修羅の国七万。
シェリル四万。
布陣は明確だった。
こちらは中央にランバルタとエマ。
左翼にリディア、右翼にセレナ。
敵は中央にカガリ。
右翼にシェリル、左翼にスズナ。
後方にナギサ。
静寂。
次の瞬間、それは破られた。
⸻
キョウは初手で叩くと決めていた。
ランバルタの重騎兵が動く。
鎖で繋がれた馬群――一万の鉄の壁。
進軍の合図と同時に、地鳴りが走る。
鎧がぶつかり合い、鎖が引きずられる音が戦場を覆う。
迎え撃つのは、カガリの巨馬隊。
常馬の倍はあろうかという異様な体躯。
鉄と肉が正面から衝突した。
轟音。
骨が砕け、馬が悲鳴を上げる。
ほぼ相打ちだった。
互いに弾き飛ばされ、地面を転がる。
ランバルタは即座に第二波を繰り出す。
だがカガリは舌打ちし、前線を引かせた。
――いける。
そう思った瞬間だった。
地面が、割れた。
いや、割れていたのだ。
地中から現れたのは、大鋏を持つ兵たち。
鎖を狙い、的確に切断していく。
鎖が断たれる金属音。
馬群が一気にばらけ、隊列が崩れる。
微妙な傾斜。
浅い窪地。
そこに伏せていた兵の存在に、キョウもランバルタも気づけなかった。
――地形調査。
ナギサとスズナが、事前に施していた策だった。
鎖を失った鉄馬は、もはやただの重騎兵。
そこへ、反転したカガリの巨馬が襲いかかる。
蹂躙。
一方的な破壊。
ランバルタは歯を食いしばる。
これ以上続ければ壊滅だ。
引き鐘が鳴る。
澄んだ音が、戦場に響いた。
初戦は、鉄馬と巨馬の相打ち。
だが、主導権は確実に奪われていた。
キョウは拳を握りしめる。
――修羅の国、ただの蛮族じゃない。
戦場に吹き荒れる風の中、
キョウの脳裏に、ゼルフィアの姿がよぎった。
集中を切らせたら、負ける。
この戦いは、始まったばかりだった。




