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パワハラ女上司に殺された中年サラリーマンは異世界で国をつくる  作者: 越後⭐︎ドラゴン


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第47章 墜つ

 ゼルフィアは、刃を交えながらも周囲へと意識を飛ばしていた。


 風の流れ。

 土煙の向こうの兵の動き。

 戦場の「歪み」。


 ――いる。


 そう確信した瞬間、氷の刃が視界を裂いた。


「ここだ!」


 シェリルの踏み込みは、執拗だった。

 一合、二合、三合。

 交錯するたび、互いの鎧に傷が刻まれる。


 炎が走り、氷が砕ける。

 剣と剣がぶつかる衝撃で、馬が嘶いた。


(集中を切らすな)


 ゼルフィアは歯を食いしばる。

 ここで一瞬でも気を逸らせば、負ける。


 だが、戦場はそれを許さなかった。


 左右では、すでに戦ではなく殴り合いが始まっている。


 ローラとアイナ。

 陣形も、間合いも、もはや意味をなさない。


 槍は折れ、盾は砕け、

 互いの身体がぶつかり合い、押し合い、血に塗れて転がる。


 兵は密集し、動けなくなる。

 馬上の将でさえ、剣を振り払うことしかできない。


(……まずい)


 ゼルフィアも、シェリルも、身動きが取れなくなりつつあった。


 その光景を、遠くから眺めていた女がいる。


 ナギサは静かに指を上げ、合図を送った。


 次の瞬間――

 地鳴り。


 戦場の側面から、巨大な影が現れる。


 五千の騎兵。

 だが、乗っている馬が異様だった。


 通常の倍はあろうかという巨躯。

 鎧に覆われ、突進のたびに地面が揺れる。


 兵が、弾き飛ばされる。

 盾も、人も、まとめて潰される。


「……っ!」


 ゼルフィアの意識が、そちらに引き寄せられた。


(止めなければ……あれを通せば、陣が崩れる)


 その刹那。


 スズナは、すでに弓を引いていた。


 音は、ない。

 風切り音すら、存在しない。


 彼女の術は無音ではない。

 気配そのものを、消す。


 だが、それでも熟練の将なら、直感で避けることがある。


 だからこそ――

 意識を、完全に一点へ縛りつける必要があった。


 巨大騎兵。

 迫る圧力。

 崩れゆく陣。


 ゼルフィアの集中は、そこに吸い寄せられていた。


 矢は、静かに飛んだ。


 次の瞬間、

 ゼルフィアの胸甲を貫き、身体を貫通した。


「……あ……?」


 自分に何が起きたのか、理解する前に、

 力が抜ける。


 炎の剣が、消えた。


 馬から、ゆっくりと落ちていく身体。

 砂埃が舞う。


 戦場が、一瞬だけ静まり返った。


 シェリルは、剣を構えたまま動けなかった。

 敵であるはずの将の、あまりにも静かな最期に、視線を逸らす。


 次の瞬間、世界が動き出す。


「ゼルフィア様――!」


 ローラが駆け出そうとした、その前に。


 巨大な影が、覆い被さった。


 カガリだった。


 二三〇センチを超える巨体。

 振り上げられる鉄垂。


 回避の余地は、ない。


 轟音とともに、

 ローラの姿は、叩き潰された。


 将を失った王国軍は、瞬時に瓦解した。


 逃げる。

 投げ捨てる。

 叫びながら背を向ける。


「追撃せよ」


 命令は、容赦がなかった。


 シェリルは泣きながら、剣を振るった。

 降伏する兵も、カガリの軍勢は踏み潰す。


 慈悲は、なかった。


 戦が終わったとき、

 そこに残っていたのは――王国兵の屍の山だった。


 夜。


 焚き火に照らされた軍営に、シェリルは呼び出された。


 幕を上げると、

 そこに置かれていたのは、一つの箱。


 蓋が開かれる。


 中にあったのは――

 ゼルフィアの首だった。


 血は拭われている。

 だが、その顔は、戦場で見たままの静けさを保っていた。


 シェリルは、言葉を失った。


 修羅の国の三人は、何も言わない。


 ただ、

 次の戦を見据えていた。

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