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パワハラ女上司に殺された中年サラリーマンは異世界で国をつくる  作者: 越後⭐︎ドラゴン


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第45章 準備

 サーシャが修羅の国へ渡ったとき、

 三人の統領――カガリ、ナギサ、スズナは、揃って露骨な嫌悪を示した。


 この女は信用ならない。

 目が金を数え、舌が嘘を転がす類いの人間だと、一目で分かったからだ。


 だが同時に、

「渡りに船」であることも、三人は理解していた。


 修羅の国は統一を果たしたとはいえ、

 大陸進出という悲願を実現するには、情報も資金も決定的に足りていなかった。


 サーシャは、そのすべてを“持っている側”だった。


「すぐに出る」


 会談の席で、真っ先に口を開いたのはカガリだった。

 二百三十を超える巨躯が揺れ、鉄垂を握る腕に力がこもる。


「今すぐ船を出せばいい。

 大陸の連中など、踏み潰して終わりだ」


 だが、その言葉をナギサが片手で制した。


「焦りすぎよ、火山女。

 海の向こうは、私たちが潰してきた小国とは違う」


 小麦色の肌に、獣のような笑みを浮かべながら、

 ナギサは冷ややかにサーシャを見る。


「この女が“簡単に勝てる”なんて話をする時ほど、

 裏があると思ったほうがいい」


「同感」


 短くそう言ったのはスズナだった。

 色白の顔に浮かぶ瞳は、静かすぎるほど冷たい。


「戦う前に、知る。

 それが足りていない」


 結論はすぐに出た。


 ――出兵は、まだしない。


 代わりにスズナは、隠密部隊を先行させた。

 修羅の国が誇る、闇の里の生き残りたち。

 彼女の手足として動く影が、海を渡り、大陸へと散っていく。


 調べ上げるのは、

 地形、街道、補給路、港湾。

 想定される戦場、敵となる王国の兵力配置、将軍の癖。


 “戦う前に、すべてを把握する”。


 それは、スズナのやり方だった。


 同時に、ナギサはサーシャを呼び止めた。


「資金は、あなたが出しなさい」


 港の整備。

 船団の建造。

 上陸後の進軍を想定した街道の拡張。


 どれもが莫大な金を食う計画だった。


 サーシャは一瞬、顔を歪めたが、すぐに笑った。


「投資と思えば安いものよ」


 修羅の国で産出される宝玉、絹織物、海産物。

 それらを大陸に流し、裏からでも表からでも売り捌く。


 費やした金は、必ず回収できる。

 ――いや、回収してみせる。


 それが、サーシャという女だった。


 最初の使者が修羅の国を発ってから、

 すでに一年が経過していた。


 王国の女王ヴェルミナは、

 いまか、いまかとその報を待ち続けていた。


「まだか」


「まだなの?」


 催促するように視線を向けられるたび、

 将軍シェリルは胸の内で舌打ちする。


 修羅の国は、確実に準備を進めている。

 間諜からの断片的な情報でも、それは明らかだった。


 にもかかわらず、

 ヴェルミナは“動かない”ことを、動いていないと勘違いしている。


「焦らされているのです」


 そう進言しても、女王は聞く耳を持たなかった。


「待たせるほど、向こうが必死だということでしょう?」


 その思考の浅さに、

 シェリルは言葉を失った。


 一方、王国の内側でも、異変は起きていた。


 旧王家の動きが、急に鈍っていたのだ。


 散発的な小競り合いは続いているが、

 これまでのような執拗さがない。


 ゼルフィアは、その違和感を見逃さなかった。


「何かを隠している」


 東側の地域へ間諜を送り込んだが、

 戻ってきた者はいなかった。


 情報が遮断されている。

 それ自体が、危険信号だった。


 ゼルフィアは判断する。


 この動きは、王国だけの問題ではない。


 彼女は、ヴァルティアへと使者を送った。


 ――東で、不審な動きがある。

 ――もし事が起きれば、援軍を求めたい。


 報せを受け取ったキョウは、即答だった。


「承知した」


 修羅の国。

 王国。

 旧王家。


 それぞれが、水面下で牙を研いでいる。


 まだ戦火は上がっていない。

 だが、大陸全体に、確実に濁流の兆しが広がり始めていた。


 キョウは静かに備えを命じる。


 ――嵐は、もう遠くない。


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