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パワハラ女上司に殺された中年サラリーマンは異世界で国をつくる  作者: 越後⭐︎ドラゴン


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第39章 無念

 ランバルタを迎え入れたことで、ヴァルティアの軍勢は十二万へと膨れ上がった。

 かつて帝国に翻弄されていた一地方国家とは、もはや別物である。


 だがキョウの胸中は、決して晴れてはいなかった。


 彼は知っている。

 自分が、いまだ過去を振り切れていないことを。


 帝国の使者として現れたゼルフィアに剣を突きつけ、和平を破断させたあの日。

 理性では止められなかった。

 九条玲――前世で自分を破滅に追い込んだ女と、あまりにも似た面影。


 もし再び、同じ感情に呑まれれば。

 今度こそ、取り返しのつかない事態になる。


 だからキョウは決めた。


 ゼルフィアと向き合うのは、今ではない。


 彼は軍を分ける。


 セレナに二万を預け、旧帝都周辺の治安維持と兵站の確保を任せた。

 行政と軍事を同時に支えられるのは、彼女しかいない。


 そしてルシア救援の主力には――

 主将ランバルタ、副将エマ。


 ランバルタの五万に、エマの一万を付ける。

 指揮権は明確にランバルタへ委ねた。

 エマは副将として、歩兵運用と現場の統率を担う。


 キョウ自身は、リディアとともに四万を率いて王都へ向かう。


 これは戦争であると同時に、

 自分自身との戦いでもあった。




 行軍の中、エマはランバルタに声をかけられた。


「……私を、恨んではいないのか」


 かつて、ランバルタの重騎兵突撃によって、

 エマは骨を砕かれ、死の淵を彷徨った。


 だがエマは即答した。


「いまは仲間です。それ以上でも以下でもありません」


 迷いのない声だった。


 ランバルタは、エマの横顔を見つめる。

 そこに、かつての副官――ティナの影を見た。


 不器用で、真っ直ぐで、前線に立つことを恐れない。


 それからランバルタは、行軍の合間、夜営の静かな時間に、

 エマへ自身の用兵を教えるようになった。


 騎兵の扱い、歩兵との連携、撤退線の作り方。

 それは教えであると同時に、

 彼女自身がまだ軍人として生きていることの証明でもあった。




 一方その頃、ルミナスは焦燥に駆られていた。


 迫る六万。

 しかも四万は王都へ向かっているという。


 城に籠るゼルフィアと挟撃されれば、勝ち目はない。


 ルミナスは判断する。

 先にキョウを叩くしかない。シェリルがキョウに負けるとは思えなかったが、相手は何をしてくるかわからない。シェリルと挟撃すればキョウを討てる可能性は高い。


 ルミナスは軽騎兵1万を率いて駆けた。


 三万は城が見える丘陵に布陣させ、

 副官に厳命する。


「私が戻るまで、決して仕掛けるな」




 王都へ続く渓谷。


 道は細く、左右は切り立った断崖。

 軍を通すには、これ以上ないほど危険な地形だ。


 ルミナスは鼻で笑った。


(ここに敵がいれば通過は困難……だが、来るはずがない)


 キョウの軍略も、その程度。

 そう思った、矢先だった。


 ――轟音。


 頭上から、岩が落ちてきた。


 悲鳴。

 潰れる兵。

 馬が暴れ、隊列が崩壊する。


「なっ……!?」


 ルミナスが顔色を変える。


 これは偶然ではない。


 キョウは事前に、リディアへ命じていた。

 隠密・カゲロウに、この地形を徹底的に調べさせていたのだ。


 どこに岩があるか。

 どこを崩せば、通路を塞げるか。


 時間をかけ、準備された罠だった。


 混乱の中、さらに追い打ちが来る。


 断崖を、騎兵が降りてきた。


 リディア率いる騎馬隊。


 北の異民族を主体とする彼女の兵は、

 崖を道として駆け下りてくる。


「……馬鹿な……!」


 ルミナスの前に、リディアが立つ。


 剣を振るう。

 だが次の瞬間、剣ごと真っ二つに砕かれた。


 大剣が、一直線に振り下ろされる。


(ここで……終わるのか……)


 王族として生まれ、

 王位を夢見て、

 ここまで来たはずだった。


 悔恨が、走馬灯のように脳裏を駆け巡り――


 視界が、暗転した。




 ルミナスを討ち優勢となった。


 だがキョウの胸に、安堵はなかった。

 まだ終わっていない。


 ゼルフィア。

 九条玲に似た女。


 再び向き合う時が来たなら、

 今度こそ理性で剣を握らねばならない。


 同じ過ちを繰り返せば、

 仲間も、国も、自分自身も失う。


 キョウは、そう心に刻んだ。


 次は――

 逃げない。

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