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パワハラ女上司に殺された中年サラリーマンは異世界で国をつくる  作者: 越後⭐︎ドラゴン


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3章 転機

 キョウが寝室を飛び出していったあと、

 セレナはしばらくその場から動けなかった。


 乱れた寝具。

 散らばった書類。

 まだ揺れているカーテン。


 胸の奥が、妙な音を立てていた。


 ――どうして、私は殺されなかった?


 あの瞬間、本気で斬るつもりだった。

 光矢も、拘束の魔も、すべては侵入者を排除するためのものだ。

 キョウはそれら全てを払いのけ、最後は自分を壁に叩きつけるほどの力を見せた。


 それなのに。


 頬に触れたあの手は、なぜあんなにも優しかったのか。


 震える指先で、自分の頬に触れる。

 ほんのり熱が残っている。


 ――私は……何を感じている?


 羞恥か、怒りか、それとも恐怖か。

 それすら判然としない混乱が、胸を締めつけた。


 この世界で、男は道具だ。

 労働力であり、繁殖のための資源であり、首輪で管理する存在。

 女が男に“心”を寄せるなど、あってはならない。

 何百年も、そうして続いてきた。


 だからこそ、セレナは理解できない。


 ――どうして私は、あの男を思い出している?


 あの瞳。

 感情の深さを湛えた、異質な光。

 この世界の男たちが決して持たぬはずの“意思”の気配。


 胸の奥が、ぶるりと震えた。


 ◆


 翌朝、ヴァルティア城は騒然としていた。


「衛兵二名、未だ昏睡状態!」

「牢の鍵は力ずくで破られています!」

「長官の寝室に侵入者――長官はご無事なのか?」


 ざわめきが絶えず、廊下には足音が響き続ける。


 セレナは乱れを悟られぬよう冷徹に命じた。


「手配書を作成しろ。街中に貼り出すのだ。

 だが命を奪うな。捕縛だけでよい」


 しかし心の奥は、昨夜からずっとざわついていた。


 ――私は、捕えたいわけではない。

 ――ただ……あれが何者なのか知りたいだけ。


 この世界では男に“知性を問う”ことすら異常だった。

 だからセレナ自身、自分が何を求めているのか理解できなかった。


 ◆


 手配書が貼られ、城下町はすぐに緊張に包まれた。


 キョウはフードを深くかぶりながら裏路地を歩いた。

 奴隷の男たちが荷車を引き、女商人に叩かれ、首輪を鳴らしながら労働している。


「……見ろよ。あいつ……」

「手配書の似顔絵……」

「関わるな、女の衛兵に連れて行かれるぞ……」


 男たちのひそかな怯えと羨望が、肌に刺さるようだった。


 ――ここは俺がいた世界じゃない。


 キョウは城壁の外へ足を向けた。

 そこには先日の戦場で散らばった男たちが、まだ野営を続けていた。


 テントの合間を歩くと、徐々にざわめきが広がる。


「あれは……」

「術にかからなかった男……」

「敵将をねじ伏せた化け物か……」


 その中心に、エマの副官であるガルザが立っていた。


 ガルザは丸めた手配書を握りしめていた。

 懸賞金の額は男にとっては破格だった。


 ――こいつを捕まえれば、金が入る。

 ――だが……それで俺の首輪は外れるのか?


 答えは、否だ。


 いくら功績を挙げようと、男の立場は絶対に変わらない。

 金を得ても、ほんの一時の自由が買えるだけ。

 またすぐ女の支配の中に戻る。


 だが、戦場で見たキョウの姿は――違った。


 術に狂わず。

 冷静に斬り、読み、動き。

 そして敵将すら地に伏せた。


 ガルザの胸の奥が熱くなる。


 ――もし、この男が前に立つなら……

 ――俺たちは変われるかもしれない。


 懸賞金と解放。

 どちらが価値ある未来か、答えは明白だった。


 ガルザはゆっくりとキョウに近づく。

 そして、その場に膝をついた。


「……キョウ殿。

 どうか我らをお導きいただきたい」


 その声は震えていたが、迷いはなかった。


 背後の千の男たちが、一斉に地面へ膝をつく。

 風が地を這うような音が響いた。


 キョウは呆然とした。


「導く? 俺が……?」


 だが胸の奥で、昨夜触れたセレナの頬が思い浮かぶ。

 あの瞳。

 あの混乱と怒りと、説明できない寂しさ。


 ――逃げ続けた中年サラリーマンの人生は、もう終わったのだ。


 キョウは、ゆっくりと頷いた。


「……わかった。やってみるよ」


 ガルザは深く頭を垂れ、男たちは歓声をあげた。


 女が支配する世界に、

 小さく、しかし確かな“反逆”の炎が灯った瞬間だった。

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