表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パワハラ女上司に殺された中年サラリーマンは異世界で国をつくる  作者: 越後⭐︎ドラゴン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/55

第36章 簒奪

 王都の外で、ルシアは勝ち続けていた。


 二千で始まった小さな軍は、一つ、また一つと軍閥を打ち破るたびに膨らみ、気づけば二万に届こうとしていた。

 勝因は、豪胆な正面突破ではない。無理な戦を避け、補給を断ち、退路を封じ、夜襲で削る。何より、兵を捨てなかった。


 ある夜、焚き火を囲む兵の一人が、恐る恐る口にした。


「……殿下は、王位を取り戻すおつもりなのですか」


 ルシアは少し困ったように笑って、首を横に振った。


「そんなこと、考えたこともないわ」


 焚き火の火が、小さく爆ぜる。


「怖かっただけ。追われるのが。

 それから……ここにいるみんなを、失うのが」


 兵は言葉を失い、ただうつむいた。


「私は王女でいなくていい。

 ただ、一緒に生きていたいだけ」


 その言葉は、派手さも威厳もなかった。

 だが、それ故に深く刺さった。


 “王女だから従う”のではない。

 “この人だから従う”――そう思える将へと、ルシアは変わっていた。


 その噂は、やがて王都へと届く。


 ⸻


 王宮。

 ヴェルミナは報告書を握り潰した。


「……ルシアの軍が、二万規模に達しました」


 返事はなかった。

 杯の縁が、わずかに震える。


(王位を欲しがらない女が、王になってしまう……)


 それが、何よりも恐ろしかった。


 野心をむき出しにする者なら、潰す口実はいくらでも作れる。

 だが、“何も求めていない者”に、人は希望を見る。


 母オルウェリアが生きている限り、

 そしてルシアが勝ち続けている限り、

 王位はいつ奪われてもおかしくない。


 その夜、ヴェルミナは毒を選んだ。


 数日後、女王オルウェリアは急死した。


 死因は「急性の発作」。

 医官の口から淡々とそう告げられ、遺体は速やかに処理された。


 同時に、“噂”が流れた。


 ――女王は、ルシアに毒殺された。


 あまりにも早く、あまりにも整いすぎた噂だった。


 ⸻


 葬儀から三日後。

 ヴェルミナは玉座に座った。


 悲嘆の色も、動揺もなかった。


「母は、毒によって殺されました」


 重苦しい沈黙。


「犯人は――第2王女ルシア」


 誰かが、息を呑んだ。


「王位を欲し、母を殺し、軍を集める反逆の王女です」


 証拠として示されたのは、王宮薬庫の持ち出し記録。

 そこには、ルシアの名があった。


 偽りであると、この場で否定できる者はいなかった。


「反逆王女ルシア、およびその一党を国家反逆罪と認定します」


 ヴェルミナは、まっすぐ前を見る。


「第2将軍ルミナス。前へ」


 鎧姿のルミナスが進み出て、膝をついた。


「命じます。反逆者ルシアを討ちなさい。

 その軍も、すべて――王国の敵です」


「……王命、承りました」


 ルミナスの声は、どこまでも静かだった。


 ⸻


 その夜、ルミナスは一人、灯の消えた執務室に立っていた。


 王族でありながら、

 王位継承の列に名を連ねることすら許されない“分流”。


 それでも彼女は将となり、血を流し、戦功を積み重ねてきた。


 かつて、王族の宴の席で言われた言葉が、今も耳に残っている。


「お前は“王族”ではあるが、“王家”ではない」


 その一言が、胸の奥に焼き付いている。


(ヴェルミナも、ルシアも……

 生まれただけで、玉座に近い)


(私は、剣を振るってここまで来たのに)


 王になることは、虚栄ではない。

 証明なのだ。


 “私は、王に立つに値する人間だ”と。


 ルミナスは静かに目を閉じた。


(ヴェルミナは邪魔だ。だが、今打てば必ずシェリルが立つ)


 シェリルは“正統王家の剣”。

 正面からぶつかれば、王国は二つに割れる。


 ならば、先に削るべきは――


(ルシア)


 ルシアを討ち、その軍を丸ごと吸収する。

 そうすれば正統は消え、兵も力も、自分のものになる。


 その上で、

 “母殺しの真犯人”としてヴェルミナを断罪すればいい。


 それは裏切りではない。

 王族が、王族として王位を取り戻すだけの話だ。


 ルミナスは、静かに剣に手をかけた。


 ⸻


 翌朝、王都の壁という壁に、布告が貼り出された。


【反逆王女ルシア、討伐開始】

【加担する者すべて、王国の敵とみなす】


 民は、言葉を失った。


 昨日まで“悲劇の王女”と囁かれていた存在が、

 一夜にして“王殺しの大罪人”へと塗り替えられた。


 真実を知る者は、もはや王宮の奥にしかいない。


 こうして王国は、完全に割れた。


 純粋なまま剣を振るうルシア。

 簒奪者として玉座に座るヴェルミナ。

 王族として玉座を奪いにいくルミナス。

 そして、ただ命令に忠実な剣――シェリル。


 王国はこの瞬間、

 静かに、だが確実に――

 引き返せない内戦へと踏み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ