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パワハラ女上司に殺された中年サラリーマンは異世界で国をつくる  作者: 越後⭐︎ドラゴン


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第33章 落日

 ティナの軍は、すでに限界だった。

 補給路を断たれ、飢えと疲労に蝕まれながらも、彼女たちは最後の力を振り絞って丘陵を駆け降りていた。


 目指すのは、王国女王の本陣。

 そこさえ割れば、この戦は終わる。


 実際、突破は順調だった。

 敵陣は押し崩れ、視界の先に王国の旗が見える。


「……あと少し……!」


 その瞬間だった。


 背後から、

 新たな砂塵が吹き上がる。


 シェリルの軍だった。


 雷鳴のような蹄の音と共に、王国第一将軍の騎兵が背後から突き刺さる。

 さらにその動きを見て、リーノも前線から反転し、ティナに立ち塞がった。


 挟撃。


 ティナの軍は、瞬く間に崩れた。


 一人、また一人と倒れていく。

 疲弊した兵に、もはや立て直す力は残されていなかった。


 ティナ自身も、胸元に槍を受けた。

 重装備の鎧は砕け、血を噴き、ついに彼女は地に膝をつく。


 白い肌が赤く染まる。

 兜は吹き飛び、長い黒髪が風に乱れた。


 ランバルタが鋭く、端麗な将であるのと対照的に、

 ティナはどこまでも可憐だった。


 その戦う姿は、もはや敵ですら近づけぬほどに、

 美しく、そして哀れだった。


 兵たちは距離を取り、ただ見守るしかなかった。


 そこへ、リーノが一人、前に進み出る。


 名を告げる。

 剣を構える。


 ティナはすでに、腕を上げるのがやっとだった。

 それでも、最後の力で槍を水平に突き出す。


 リーノはそれを弾き飛ばし、

 一歩、踏み込んだ。


 剣が、ティナの胸深くに突き立てられる。


 その身体が、ゆっくりと崩れ落ちた。


 ⸻


 丘陵の上で、ゼルフィアはすべてを見ていた。


 ティナの軍が、

 崩壊していく様を。


 ルミナスの動きは、あまりに早かった。

 次の瞬間、ゼルフィア自身も包囲される。


 ルミナス一人なら、まだ打てる。

 だが、シェリルとリーノの両軍を前に、もはや突破は不可能だった。


 ゼルフィアは、静かに剣を落とした。


 ルミナスに、降伏する。


 ⸻


 その報は、すぐに帝都へ届いた。


 ゼルフィア敗退。

 ティナ戦死。


 皇帝は、蒼白になった。


 サーシャを呼べと叫ぶが、

 そこに彼女の姿はなかった。


 すでにサーシャは帝都を離れ、王国と通じていたのだ。

 帝国の補給路が容易く断たれたのも、

 すべて――彼女の裏からの操作だった。


 それを知らぬ皇帝は、

 ただ一つの命令を下す。


「ランバルタを、帝都へ戻せ」


 ⸻


 一方、ヴァルティア前線。


 ランバルタは、なおも城を囲んでいた。


 だが、思った以上に落ちない。

 虐殺から二週間が経っても、ヴァルティアは持ちこたえていた。


 兵力は半減した。

 だが同時に、兵糧の消費も半減している。


 逆に――

 攻める側のランバルタ軍こそ、兵糧が底を突きかけていた。


 そこへ、帝都からの使者が到着する。


 撤退命令。

 王国軍に敗北。

 そして――ティナ戦死。


 ランバルタは、その場に崩れ落ちた。


 優秀な部下。

 弟子。

 恋人。


 すべてを、一度に失った。


 ⸻


 ヴァルティアには、すでに別の報せが届いていた。


 王国の勝利。

 帝国の敗北。

 王国軍が帝都へ迫っているという噂。


 キョウは、カゲロウに命じてそれを喧伝させた。


 村が焼かれている。

 街が落ちている。

 家族が危ない。


 その噂は、包囲する帝国兵の心を確実に揺らした。


 徴兵された兵たちにとって、

 祖国より、家族のほうが大切だった。


 士気が、音を立てて落ちていく。


「今だ」


 キョウとリディアの騎馬隊が、一斉に打って出た。


 崩れる帝国軍。


 だが、ランバルタは、

 せめてキョウだけは討つと、最後の力を振り絞った。


 キョウが先頭を駆ける。

 ランバルタが正面から向かう。


 二人は、正面から交錯した。


「――!」


 斬られた。

 そう思った――その瞬間。


 どこも、斬られていなかった。


 ランバルタはそのまま馬を走らせ、戦場を離脱する。

 ランバルタ軍も、それに続いた。


 キョウは、本気で討つつもりだった。


 エマを瀕死に追い込み、

 歩兵たちを無慈悲に踏み潰した。


 許せない。

 そう思っていた。


 だが――

 交錯の刹那、目が合った。


 涙。


 そして、その奥に宿る深い後悔。


 あの女は、

 ただの虐殺者ではない。


 忠実な軍人で、

 人の心を失いきれなかった存在なのだと――

 その一瞬で、悟ってしまった。


 キョウの剣先は、

 わずかに鈍った。


 そして、

 ランバルタは、生きて去った。

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