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パワハラ女上司に殺された中年サラリーマンは異世界で国をつくる  作者: 越後⭐︎ドラゴン


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第29章 転戦

 荒れた大平原に、二つの戦が同時に燃え上がっていた。


 片や――

 帝国四天王ランバルタと、王国第二将軍ルミナス。


 片や――

 副官ティナと、王国第三将軍リーノ。


 戦場は分かれていながら、

 勝敗が互いの運命を左右する、同時進行の激突だった。




 ランバルタの軍は重歩兵と重騎兵。

 数では劣るが、陣形は分厚く、動きは一切の乱れがない。


 対するルミナスは軽騎兵主体。

 速度、包囲、削り――

 正面衝突を避け、機動で翻弄する戦い方。


 ルミナスは馬上から笑った。


「やっぱりね。

 あんたは今日も正面から潰しに来る」


 ランバルタは返事をしない。

 ただ、盾の壁を前へ進めるだけだった。


 軽騎兵が左右から回り込み、

 矢を降らせ、突き、削る。


 だが重装歩兵は崩れない。

 盾と盾が打ち合わさり、

 鉄板のような陣が、ゆっくりと押し返していく。


「……っ、硬すぎる……!」


 ルミナスは舌打ちした。


 だが、ランバルタもまた決定打を持たない。

 ルミナスは速すぎて、どうしても捕らえきれなかった。


 撃っては離脱。

 寄せては散開。


 戦場は完全な膠着に沈んだ。




 数刻が過ぎ、

 ランバルタは、静かに策を打った。


 重騎兵を三手に分け、

 中央だけをわずかに“薄く”する。


 それを見たルミナスは疑いもしなかった。


「……ほら、やっぱり。

 あの女に策なんて無理よ」


 力押しの武将。

 そう決めつけていた。


「今よ!! 一気に食い破れ!!」


 軽騎兵が雪崩れ込む。


 ランバルタの中央軍は、あえて後退した。


 そのまま――

 浅い窪地へと、誘い込む。


 次の瞬間、

 地面に伏せていた伏兵が一斉に動いた。


 杭。


 馬殺しの杭だった。


 地面に叩き込まれた鋭利な木杭が、

 疾走する馬の脚を容赦なく砕く。


「――ッ!?」


 馬が崩れ、

 騎兵が宙を舞い、

 隊列が一瞬で乱れる。


 その瞬間を、ランバルタは逃さなかった。


 左右から現れた重騎兵が、

 鉄の奔流となって突入する。


 轟音。

 盾が砕け、

 人と馬がまとめて吹き飛ぶ。


「……ッ、クソがぁぁ!!」


 ルミナスは悪態を吐き、必死に軍を下げた。


 これは罠だった。

 完全に読み違えた。


 軽騎兵は散々に打ち破られ、

 ルミナスは後退せざるを得なくなる。


 そして――

 その流れのまま、ランバルタの重歩兵が前進を開始した。


「……正面が、持たない……」


 ルミナスは歯を噛みしめる。


「退くわ!

 リーノと合流する!!」


 彼女はそう叫び、軍を下げた。




 その頃――

 別の平原では、ティナとリーノが真っ向から激突していた。


 ティナの軍は、重装歩兵が中心。

 数はリーノ軍より少ない。


 対するリーノは、中装歩兵と騎兵の混成軍。

 正攻法のぶつかり合い。


 奇策も、誘いもない。


 ただ、力と技の正面衝突。


 盾と盾がぶつかり、

 槍と槍が噛み合い、

 兵の叫びと鉄の音が平原を満たす。


 ティナは最前線に立っていた。


「……踏みとどまれ!!

 ここを割られたら、終わる!!」


 その姿は若く、だが迷いは一切なかった。


 重装の鎧に守られながら、

 幾度も剣を振るい、敵を打ち倒す。


 リーノは舌を鳴らした。


「……数で押し潰せると思ったが……

 予想以上に硬いわね」


 数では王国が上。

 だが質では、帝国の重装歩兵が勝っていた。


 戦線は互角。


 一歩も譲らぬ、消耗戦が続いていく。




 やがて――

 ランバルタがルミナスを退けた直後、

 新たな軍勢が戦場に姿を現した。


 ゼルフィア率いる一万。


 帝国の黒旗が、再びはためく。


「ティナ。皇帝陛下の命だ」


 ゼルフィアは静かに告げる。


「この戦線は、私が引き継ぐ。

 ランバルタは帝都へ帰還した」


 ティナの胸が一瞬、強く締めつけられた。


 だが、彼女は一礼した。


「……戦線、維持します」


 ほどなくして――

 ルミナスとリーノも合流した。


 王国軍、七万。


 帝国軍、ゼルフィアとティナを合わせて四万。


 平原は、完全な不利の地形となった。


 ゼルフィアは、即座に命を下す。


「丘陵地へ移動。

 ここで数を競うつもりはない」


 帝国軍は整然と後退し、

 近くの丘陵へと布陣を移した。


 それを見たルミナスは顔を歪めた。


「……丘を取られると、面倒ね」


 高所を抑えられれば、

 軽騎兵の機動力は半減する。


「仕掛けるわ。今しかない!!」


 王国軍が一斉に動いた。


 だが――

 丘陵の入り口には、

 すでにゼルフィアの巧妙な陣が敷かれていた。


 重装歩兵が要所を封鎖し、

 側面には弓兵と投槍兵。


「……遅かったわ」


 ゼルフィアの声は、冷たく静かだった。


 王国軍は、丘陵の入口で完全に足を止められた。


 こうして――

 戦場の主導権は、帝国側が握り直した。


 だが、これは勝利ではない。


 ただの延命に過ぎなかった。

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