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パワハラ女上司に殺された中年サラリーマンは異世界で国をつくる  作者: 越後⭐︎ドラゴン


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第27章 使者

八万の軍勢が、ついにヴァルティア城へ襲いかかった。


角笛が鳴り響き、

無数の梯子が城壁に掛けられ、

投石と矢の嵐が空を覆う。


もはや、防衛戦の体を成してはいなかった。


城壁の上に立っていた兵は、

恐怖に駆られて逃げ惑い、

ある者は城内へ、ある者は跳ね橋へと殺到し、

統制は完全に失われていた。


メルティナは、指揮を執らなかった。


執れなかった。


「……今さら、キョウ様と戦えるはずがない……」


彼女はただ、城内の喧騒を遠くに聞きながら、

静かに剣を握り締めていた。


降伏する資格もない。

逃げる資格もない。

そして、戦う資格もない。


貴族たちは散り散りになった。


帝都へ向けて我先にと逃げる者、

門に殺到して互いを突き飛ばし合う者、

逃げ遅れて反乱軍に討たれる者。


もはやヴァルティア城は、

逃亡者と敗者の巣と化していた。


メルティナは、静かに剣を構えた。


「……せめて、これで終わらせよう……」


自分の命で、すべてを償うつもりだった。


その瞬間――


「……やめろ」


背後から、低く押さえた声がした。


振り返るより早く、

メルティナの手から剣がはじき飛ばされる。


「……カゲロウ……?」


現れたのは、かつてシオンと共に帝都から彼女を救い出した隠密、カゲロウだった。


「シオンが命を張って救った命だ。

 それを、こんなところで無駄にするつもりか」


メルティナの瞳が揺れる。


「……私は……何も守れなかった……。

 キョウ様も……信じきれなかった……」


「それでも、生きろ」


カゲロウの言葉は短かったが、

鋼のように重かった。


やがて――

城門が破られ、

黒竜の旗がヴァルティア城の内側に翻った。


キョウが入城したのだった。


血と煙の中で、

二人は向かい合った。


メルティナは、何も言えなかった。


言い訳も、弁明も、謝罪も、

すべて喉につかえ、声にならなかった。


ただ、膝から崩れ落ち、

堰を切ったように涙が溢れた。


「……申し訳……ありません……

 私……私は……」


キョウは、何も言わずに歩み寄り、

そっとメルティナを抱き留めた。


震える肩を、

拒むことなく受け止めた。


「もういい。

 生きてくれてて、それでいい」


メルティナは、声を上げて泣いた。


こうして――

ヴァルティア城は、ついに陥落した。


 


一方その頃、

ゼルフィアは川に船を出していた。


ヴァルティアから逃げ延びてくる貴族たちの軍を、

片っ端から回収するためだ。


川の両岸に船団を浮かべ、

混乱の中を泳ぎ着いた敗残兵を拾い上げていく。


そこへ、背後からリディアの一万が襲いかかった。


だが――

川岸には、すでにゼルフィア直下の二万が布陣していた。


「……深追いは無理ね」


リディアは、歯噛みしながら退いた。


ゼルフィアが回収できた兵は、

元の四万のうち、わずか二万。


帝都では、もはやなりふり構わぬ徴兵が始まっていた。


老人も、若者も、

元兵士も、平民も、

とにかく武器を持たされ、前線へ送られていく。


帝国は、明らかに追い込まれていた。


 


そこで――

ゼルフィアは、ある決断を下す。


「……キョウに、和平を提案します」


その言葉に、皇帝は激昂した。


「ふざけるなッ!!

 誰に向かって言っている!!」


だがゼルフィアは一歩も引かない。


「この状況を招いたのは、王国が停戦を破ったからです。和解金を待てず、侵攻してきた」


「もとより、あの女王は気に食わぬ……」


皇帝は吐き捨てるように言い、

しばし沈黙ののち、苛立ちを飲み込んだ。


「……よい。

 和平の使者に行け。

 お前自身がな」


ゼルフィアは静かに頭を下げた。


 


数日後――

「ゼルフィア、来たる」の報せがヴァルティアに届く。


それを聞いた瞬間、

キョウの心臓は強く跳ねた。


(……来るのか……あの女が……

 九条玲に、あまりにも似た女が……)


手のひらに、嫌な汗が滲む。


セレナは、キョウの異変にすぐ気づいた。


「……あなたは、出なくていい」


キョウが驚き、セレナを見る。


「私が代わりに会う。

 あなたは……心を乱す必要はない」


その瞳には、

長官としての理性と、女としての覚悟が宿っていた。


こうして――

ヴァルティア城の迎賓の間で、

ゼルフィアとセレナの会談が行われた。


 


ゼルフィアは、率直に和平を切り出した。


だがセレナは、静かに首を振る。


「和平の条件として、

 サーシャの身柄を引き渡しなさい」


ゼルフィアは一瞬、言葉に詰まった。


「……サーシャは、すでに逃亡。行方は不明だわ」


「不明では信用できない」


セレナの声は冷たかった。


「代わりに、和解金を支払う」


「王国にすら支払われていない金を、

 どうして履行されると信じられるのですか」


セレナの言葉に、

ゼルフィアは何も言い返せなかった。


こうして、一回目の会談は決裂した。


ゼルフィアはヴァルティア城内の迎賓館に案内され、

客人として、しかし半ば人質のような立場で過ごすことになる。


和平は、遠かった。


しかし——

戦争もまた、終わってはいなかった。

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