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パワハラ女上司に殺された中年サラリーマンは異世界で国をつくる  作者: 越後⭐︎ドラゴン


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10章 奴隷解放

 マリーナの降伏の知らせがヴァルティア城に届いたとき、広間に集まっていた者たちは一瞬何が起きたのかわからず沈黙した。


 赤髪を乱し、鎧の下に絹のドレスを仕込んだ貴族女――マリーナ。

 あれほど傲慢で、セレナを見下すように命令していた女が、キョウに膝をつき、恥も外聞もなく命乞いしたのだ。


 城の一角で対峙したキョウを前に、マリーナは震えながら言った。


「ど、どうか……命だけは……。私は、あなたに仕えます。何でも」


 その赤髪が揺れ、スリットから覗く白い太ももが震えていた。

 普段の傲慢さとは真逆の、哀れな姿だった。


 セレナは食いしばった奥歯を鳴らす。


「……卑怯者」


 その声は低く、怒りと嫌悪に満ちていた。


 キョウはマリーナを見下ろす。

 視界が揺れた。胸の奥に、遠い記憶が刻まれたような痛みが走る。


 ――九条玲。


 自分を追い詰めた女。

 死の原因となった女。


 目の前のマリーナと、玲の姿が重なる。


 処刑してもいい。

 復讐の代償として、この女を消すことも簡単だった。


 だが、キョウは深く息をついた。


「……立て」


 マリーナは驚愕の顔で見上げた。


「あなたを――許す」


「キョウ!? 本気なの?」

 セレナが声を荒げる。


 キョウは軽く首を振る。


「マリーナには利用価値がある。

 この地方の貴族をまとめられるのは、現状こいつだけだ」


 論理だった言葉を口にしながらも、心の奥では別の感情が揺れていた。


 ――俺は、女に甘いのか。


 自嘲気味に思った。


 セレナはしばらく黙ったのち、深い息を吐き、しぶしぶ頷いた。


「……わかった。あなたがそこまで言うなら」


 その横で、マリーナはほっと安堵の息をこぼし、今度はセレナに媚びるような視線を向けたが、セレナは完全に無視した。



 リディアは城の医務室に寝かされていた。

 腹の傷は深く、彼女自身も“牢獄に放り込まれる”覚悟でいたのだが、与えられたのは看護と治療だった。


 包帯を巻き直されながら、リディアは天井を見つめる。


「……油断しただけよ。あの瞬間だけ。

 本気なら……私が負けるはずが……」


 震える拳を握りしめる。

 だが、胸の奥に奇妙な感覚があった。


 ――あの男の拳は、死を運ぶものではなかった。


 優しさでもない。

 迷いでもない。


 ただ“殺さない”と決めた強さ。


 それが、リディアを混乱させていた。



 キョウがリディアを討ち破った知らせは、瞬く間にヴァルティア全土に広がった。

 人々の目が変わった。


 恐怖ではなく、畏敬。

 そして興味。

 期待。


 そのとき、キョウは城の前で宣言した。


「――今日から、奴隷を解放する。

 すべての男の首輪を砕き、自由を与える」


 瞬間、広場は爆発するような歓声に包まれた。


 男たちは互いに抱き合い、涙を流し、地面にひれ伏した。

 数百年続いた男への支配が終わったのだ。


 だが。


 解放された者たちの歓喜は、やがて暴走へ姿を変えた。


 長年押しつぶされてきた怒りが噴き出し、

 女たちを追い立てる者、家を壊す者、略奪を始める者が現れた。


 街は一週間、地獄のような混乱に包まれた。


 セレナもエマも、キョウに進言した。


「彼らを止めないと、取り返しがつかなくなる!」

「罪を犯した者は処罰すべきです!」


 だが、キョウは動かなかった。


「……今止めれば、同じことが繰り返されるだけだ。

 奴隷と支配者が入れ替わるだけになる」


 セレナは拳を握りしめたが、言葉が続かなかった。



 一週間後、キョウは広場に立った。

 沸き立つ男たちの雄叫びが響く。


 キョウは静かに手を上げた。


 黒い光の粒が周囲に浮かび上がる。

 セレナが驚愕の声を漏らした。


「……古代術式の“映像投影”……?」


 空に巨大な映像が映し出される。


 男たちが暴れる姿。

 泣き叫ぶ女たち。

 破壊された家屋。

 略奪。暴行。涙。


 広場に、沈黙が落ちた。


 その沈黙に、ひとりの男が崩れ落ちて泣いた。

 続いて、別の男も。

 やがて広場全体が、静かな泣き声に包まれた。


 翌日。


 男たちは自ら街を修復し始めた。

 瓦礫を運び、女たちに頭を下げ、被害を償い始める。


 女たちもまた、男たちがどれほど苦しみ、屈辱を受けてきたかを再認識し、徐々に歩み寄っていった。


 壊れた街がゆっくりと形を取り戻すたび、

 この地に“新しい形”が芽生えつつあるのを、誰もが感じていた。



 貴族の多くは奴隷解放の宣言に激怒し離れていった。

 だが、マリーナがキョウの側についたことで、去ったのは半数以下にとどまった。


 マリーナ自身は薄く微笑む。


「ふふ……新体制での発言力。

 私が一番、得をする立ち位置ってわけね」


 政治的計算に長けた女――

 だがその計算の中心に、いつのまにか「キョウ」が据えられていることを、本人はまだ気づいていなかった。

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