ゴロンゴロンゴロン
ゴロンゴロンゴロン。
床に転がり遊んでいたノアールが、突然こちらを見た。
「おねえさん、このままここで暮らさない?」
「うーん、楽しかったけれど、私は私の居場所に戻るわ」
ノアールが、このままこのアパートに住み続けないかと誘ってきたが、私はそれを断った。
「そう。おねえさん、元気でね」
「あなたも、早くおうちに帰るのよ?」
「僕の家はここだよ」
他には誰も住んでいないと思っていたが、もしかすると、このアパートの別の部屋に住んでいる子供だったのかと、思い始めた。
約束された期限になり、会社の方に不動産屋から手紙が来ていたのだ。なぜここの住所ではなく、会社に寄越したのかは謎だったが、きちんと届いたので良しとしよう。
天井や壁や本棚の修繕が終わり、本も揃ったらしい。本は、賠償金から自分で揃えるつもりだったので、少し驚いた。
改装した部屋の写真が添えられており、以前と変わらぬ壁紙に、良く似た本棚、本の配置が少し違うけれど、確かに種類は揃っているように見える。
「おねえさん、それが引っ越す部屋?」
「そうよ。何年も住んでいたのだけど、水没してね。その改装期間に、ここに住むことになったのよ」
「へえー。綺麗な部屋だね」
「両親が残してくれたマンションなのよ」
「大事な場所なんだね」
「そうなの」
荷物を片付ける私の邪魔にならないように、端によって写真を見ているようだった。
「遊びに行っても良い?」
「構わないけど、オートロックだから、部屋番号から呼び鈴を鳴らさないと入れないのよ?」
「めんどくさーい」
「ふふふ。部屋番号は教えるから、頑張ってみてね」
「気が向いたらねー」
遊びに行っても良い?と聞かれたはずなのに、なぜか私から頼んだような流れになっていた。
旅行用のスーツケース3つに、衣類や生活用品を詰め込み、出発の準備が整った。約3週間の避暑のような生活だったが、思いの外楽しかった。
たくさんの猫と戯れたり、ノアールとも友達になった。
「明日の朝に出るから、今日は、泊まって行っても良いわよ」
「ありがとう。何か持って来るー」
ノアールは部屋を出ていき、少しすると、スイカとメロンを持って戻ってきた。
「一緒に食べよー」
わらわらと猫たちも集まってきて、小さく切ったスイカやメロンを食べていた。
猫って、スイカやメロンを食べるのねぇ。と感心した。猫の事に詳しいノアールがすすめているので、安心して見ていた。
大勢の猫と共に泊まり込み、朝ごはんを食べてから、皆と別れた。残っている荷物は、宅配便が取りに来たときに渡してくれると言っていた。




