ガラガラガラ
ガラガラカラ。
「おねえさん、おはよー!」
あの男の子が、朝から突撃してきた。寝室の引戸の向こうにニコニコして立っている。戸は開けたが、部屋には入らないらしい。眠い目を擦り時計を見ると、なんと、時刻は9時。
「うわー! もう9時!?」
私はいったい何時間眠っていたのだろう? 確か昨日は、22時前に布団に入った気がする。驚愕の11時間睡眠!?
「おはよう。起こしてくれてありがとう」
「良い天気だよ。ピクニックに行こうよ」
「ピクニック? どこに?」
「すぐ近くに、良いところがあるんだ!」
近くなら、付き合ってみようかな。
「何を用意すれば良いの?」
「お弁当と飲み物かな?」
「出発は、1時間後で良い?」
「わかったー!」
急いでご飯を炊き、小型のおかかおにぎりをたくさん作った。急すぎて、他に家にある材料がなかったのだ。ご飯におかかと醤油を混ぜ込むタイプなので、残ったら焼いてから冷凍しよう。
そしてふと気づいた。
昨日の白猫も、今の男の子も、どうやって私の部屋に入ってきたんだろう?
お弁当が出来上がり、部屋を出ると、男の子が廊下に待っていた。
「お待たせ。ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど、どうやって出入りしているの?」
「猫扉からだよ!」
「え?」
私が分からないでいると、男の子は扉の開閉を教えてくれた。30~40cmくらいのペット用の開閉装置が、扉についていた。外側から見ると壁の模様で、扉だとは全く分からない。内側から見ても、知らなければ気がつかないデザインだ。
「えー! こんなところに小さな扉があったなんて、知らなかったわ!」
「そうなの? 説明してなくてごめんなさい」
「え、謝らなくて良いわよ。あなたの責任ではないし、私が不動産屋さんの話をしっかり聞いていなかったのね」
謎が解けたところで、出発した。
「ねえ、今さらなんだけど、名前を教えてくれる?」
「僕の名前? ノアールだよ」
「え、日本人じゃないの!?」
綺麗な顔立ちだとは思ったけど、流暢な日本語を話すので、てっきり日本人だと思っていた。
「日本人ではないね」
「そうなのね。ノアール君、よろしくね」
「うん! おねえさんも名前教えて?」
「あら、ごめんなさい。私は、向日 葵。友達からの呼び名は『葵』もしくは『向日葵』よ」
「素敵な名前だね」
「どうもありがとう」
話しながら歩いていたら、あっという間に到着した。
そこは、広い花畑と野菜畑があり、広大な芝生と大きな木があって小川が流れていて、絵本の中にでも入ったと錯覚するような素敵な場所だった。大きな木の木陰に、テーブルと椅子もある。
「アパートの側に、こんな素敵な場所があったなんて、凄いわね!」
「良いでしょ、ここ」
「おやすみごとに来たいわね!」
「いつでも来てよ」
畑の花を見学したり、畑に生っている野菜や果物を見学したり、川を覗いてみたり、芝生を走り回ってみたり、童心に返って楽しんだ。
「走り回ってお腹が空いたわね。おかかおにぎり食べる?」
「良いの? ありがとう!」
「お醤油味は薄めになっているから、塩っ気が足りなければ、海苔に醤油を塗って巻くと良いのよ」
薄味を気にして説明したが、ノアールは、このままで良いと言って、美味しそうに食べていた。
「にゃー」
「にゃー」
優しい声で鳴く猫が集まってきた。
「あら、お醤油味薄いから、猫ちゃんも食べられるかしら?」
「ほんの少しなら良いかな。キュウリと鶏笹身の方が良いけど」
「キュウリは持ってこなかったけど、鶏笹身の蒸して割いたのは持ってきたわよ!」
「なら、鶏笹身が良いよ」
ノアールは、自分を猫だと自己紹介しただけはあり、猫の事に詳しいらしい。
「そういえば、ノアール君は、何歳なの?」
「僕? 僕は110歳だよ!」
今、110歳と聞こえたような気がするけど、10歳の聞き間違いよね? 日本人ではないらしいし、発音的な聞き間違いかしらね。
「そうなのね。学校へは行かないの?」
「学校は卒業したよ。僕、成績優秀なんだよ」
なるほど、飛び級で卒業して、すること無くて、ふらふらしているのかな。
「学校では、どんな勉強をしたの?」
「色々な言葉とか、自分達以外が話す言葉とか勉強したよ」
外国語を勉強したのかしらね。凄いわね。
私が感心していると、いつのまにか回りは猫だらけだった。
「猫、物凄く多いわね」
「ここ、猫の森だからね」
私が回りの猫を認識すると、猫たちが寄ってきて、側に丸まって眠ったり、甘えたりし始めた。
このピクニックが楽しかったのか、以降、猫がたくさん部屋に来るようになった。




