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サンクチュアリ  作者: 葉山麻代


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チュンチュンチュン

 チュンチュンチュン。


 鳥の鳴き声が聞こえる。もう起きる時間かしら? 眠い目を擦りながらぐぐっと伸びをした。そして、壁掛け時計を確かめようと部屋の方を見た。


「ふぁぁ、今何時かしら…………誰!?」


 部屋の隅にある、昨日黒猫に貸したクッションの上に、誰かがいるのだ。そっと覗いてみれば、黒髪に整った容姿の、小学生くらいに見える少年のようだった。


 いったい何がどうなっているのだろうと、しばらく良く考えてみたが、何一つわからず、途方にくれるのだった。


 そうこうしているうちに、大分時間も過ぎてしまい、黒猫の寝床を奪ったと思われる少年の目が覚めた。あどけない表情でこちらを見ている。


「あ!お姉さん、おはよう」

「えっと、あなたはどなたで、なぜここにいるのかしら?」

「昨日、お姉さんが家に来て良いって言ったよ」

「え?」


 その後も良く話を聞いてみると、自分は昨日の黒猫だと言うのだ。そんな馬鹿な。そして夜には、黒猫になっていると説明したのだ。


「とりあえず、朝ご飯は出してあげます。私が帰ってくる前には、昨日の黒猫と、ちゃんと交代しておいてちょうだいね」

「はーい!」


 慌ただしい出勤前と言うこともあり、色々面倒になり、思考を放棄することにしたのだ。仮住まいのこの家には、盗むようなものもない。家電や家具は備え付けだし、私物は、衣類と生活小物くらいなのだ。トーストとベーコンエッグを作り、冷たい牛乳と共に提供した。


「美味しかったー。片付けはしておくねー」

「あらそう。それより、本当に、黒猫と交代してよ?」

「はーい!」


 バタバタと家を出て、慌ててバス停まで軽く走った。走らなくても間に合いそうだが、万が一乗り遅れでもしたら困るので、用心のためだ。


 まったくどこの家出少年なんだか。きっと私と黒猫の昨日の会話を聞いていたに違いないわ。そんなことを考えながらバス停につくと、そこには誰もいなかった。まさか、出発しちゃったの? 少し焦りながら時計と時刻表を確認していると、乗り合わせる人たちが、わらわらと集まってきた。


 まもなくバスが到着し、好きな席に座ることが出来た。これはとても幸運だ。この路線は、カーブした道が多く、立っているのは、割りときついのだ。かといって、朝の貴重な時間をバス待ちのためだけに割けるかというと、何か違うことに回したい。


 電車の駅に着き、バスを降りた。そこからは電車1本で、会社まで着く。何しろ駅の名前に、社名が使われているような大きな会社なのだ。


 先を歩く人混みに、同僚を見つけた。声をかけようとしたが、こちらを見たのに目が合わなかった。たまたま見えなかったのかしらね。そう考えあまり気にとめなかった。


 職場でみんなが挨拶しているので同じく、「おはようございます」と声をかけ、仕事を始めた。


「おーい、ってあれ? 今日は居ないのか?」

「そうみたいです」

「なら明日にするか」


 隣の課の課長が誰かを探しに来て、そのまま帰っていった。誰を探しているんだろう? 今日は、この課に休みのメンバーはいないのに。不思議なことをするものだなぁ。と、少しだけ気になった。


 暫く夢中で仕事をしていると、いつの間にか12時を過ぎていて、誰も残っていなかった。いつもなら、ランチに行く前に声をかけてくれるメンバーさえ誰も残っていない。


 しょうがない、社食で手早く済ませようかな。そう決めたら急いで社食に行き、Aランチを注文することにした。食券を購入し、窓口に出し、「ご飯軽めで!」といつも通り注文すると、物凄く驚いた顔で調理の女性が受け取っていた。


 なあに? 額に「肉」とでも書いてあるの? それともほっぺに渦巻き? 普段愛想の良い相手から驚かれたままでいられるのは、あまり居心地の良いものではない。無理に急かすことはしないが、急いで場を離れたかった。


 出来上がったランチを受け取り、手早く食べ終え、職場に戻った。自分のデスクでゆっくりコーヒーを飲んでいると、いつの間にか同僚たちは戻ってきていて、仕事を始めていた。


 いつもなら、他部署から質問が来たり、訂正の書類が回ってきたりで仕事が中断されるのだが、今日は誰にも中断されること無く、先の分まで仕事がさくさく片付いた。


 定時には少し早いので、みんなに声をかけてみることにした。


「何か手伝えることはありますか? 無ければ上がりますが」


 その呼び掛けに、誰一人声をたてずに、驚いた顔をしていた。

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