みゃーみゃーみゃー
「みゃーみゃーみゃー」
あら? 何処かで仔猫が鳴いている声が聞こえるわ?
キョロキョロしてみたが、姿は見えなかった。
「何キョロキョロしてんの?」
「仔猫が鳴いている声が聞こえるじゃない」
「そうか? そんなの聞こえなかったぞ?」
「私の気のせい?」
その後、全く聞こえなくなったので、気のせいだったのかもしれないと思い直した。
半月前まで住んでいたセキュリティーのしっかりしたオートロックのマンションと違い、必要最低限のものだけを持ち込んで急遽越してきたこのアパートは、とても年代物の建物だ。予定は1ヶ月弱とはいえ、壁も薄く、外見は今にも崩れ落ちそうな建屋だ。中は広くて綺麗だけど。
「なあ、泊まりに行っても良いだろ?」
「嫌よ。アパートなのよ? 無理だわ」
「そんなこと言うなよ」
「無理なものは無理」
このやり取り、いったい何度目だろう。
「そうかよ! もう、お前とは終わりだな」
「はいはい。終わりで結構ですよ」
「後悔してからじゃ遅いからな!」
捨て台詞を残し、彼氏だった男性は去っていった。
日頃からの自分勝手な行動に限界を感じていたので、もう、どうでも良かった。他人に関わること事態が煩わしく感じる。
高校を卒業後、進学せず働いているが、進学して自由時間の多い彼氏とは、色々合わなくなっていた。
男性がいなくなると、再び仔猫の鳴き声が聞こえてくる。
やっぱり、何処かに仔猫がいるんだわ。
その辺を探し回ると、暗闇の中から黒猫が現れた。鳴き声から想像したよりは、大きな仔だった。その場にしゃがみ、猫の相手をする。
「どうしたの? 迷っちゃったの?」
金色の瞳がじっとこちらを見つめてきた。
「誰かを待っているの?」
「みゃー!」
何か与えられるものは持っていなかったかと、鞄を探しながら聞いてみる。
「お腹は空いている?」
首を傾げるようにして、まばたきした。
「お腹は空いていないと言うことかしら?」
「みゃー!」
「あら、あなた、私が言っていることがわかるのね。お利口さんね」
少し黒猫を構ったあと、家に帰ろうと思った。
「私は家に帰るわ。あなたも待ち人に会えると良いわね」
「みゃー」
力なく鳴いていた。
「会える予定がないの?」
「みゃー」
「オートロックのマンションは、ペット禁止なのよ。って、今のあのアパートは平気かもだけど、来月にはマンションに戻るのよ」
「みゃー、みゃー、みゃー」
可愛らしく、お願いするかのように、こちらを見ながら鳴いている。
「今月だけで良いなら、うちに来ても良いわよ。でも、私は猫を飼ったことはないから、何もないのよ?」
「みゃー!」
頷くように頭を動かしながら、嬉しそうに一声鳴いていた。
抱き抱えようとしたが、自分で歩きたいらしく、スルリと逃げてしまった。
今まで習得した雑学を総動員して、猫の飼い方を考えてみたが、牛乳をそのまま与えてはいけない。くらいしか思い付かなかった。
家に帰りつき、冷蔵庫を開けるも、刺身などは当然無く、どうしようかと考えているときに思い出した。
魚を良く食べるのは日本の猫くらいで、大陸の猫は、鶏肉などの肉食である。
よし!冷凍庫にある鶏の笹身を茹でて、猫用ミルクは買って来るまでは、お水を出しましょう。これで夕飯と明日の朝ご飯は決まりね!
猫を飼っている知り合いの家で見かけたような形状の皿を探し、そこに水を入れ、茹でてほぐした笹身を皿にのせ、一緒に黒猫のそばにおいた。
「みゃー!」
ありがとうと言われているようで、嬉しかった。
少し柔らかめの大きなクッションと、膝掛けを黒猫に見せると、とても喜んで、部屋の隅を指定してくれた。
部屋の隅にクッションを置き、上に膝掛けをかけておいた。これで、寒ければ中に潜り、暑ければ上に寝ることだろう。




