【漫才】女子大生キョンシーの日帰り旅行の行き先と青春の大志
ボケ担当…台湾人女性のキョンシー。日本の大学に留学生としてやってきた。本名は王美竜。
ツッコミ担当…日本人の女子大生。本名は蒲生希望。キョンシーとはゼミ友。
ボケ「どうも!人間の女子大生とキョンシーのコンビでやらせて頂いてます!」
ツッコミ「私が人間で、この娘がキョンシー。だけど至って人畜無害なキョンシーですから、どうか怖がらないであげて下さいね。」
ボケ「どうも!留学生として台湾から来日致しました。日本と台湾、人間とキョンシー。そんな垣根は飛び越えていきたいと思います。こんな風にピョンピョンとね。」
ツッコミ「いやいや、両手突き出して飛び跳ねなくて良いから!」
ボケ「聞いてよ、蒲生さん。私、今度の休みに日帰り旅行をしようと思ってね。せっかく日本に留学しているんだし、行ってみたい所があるんだ。」
ツッコミ「おお、それは良いじゃない!日本での留学生活、満喫しているね。人生で一度しかない青春、存分に楽しまなくちゃ!」
ボケ「いやいや、蒲生さん。『人生で一度しかない青春』って言うけど、私はキョンシーだから一度死んでるんだよ。」
ツッコミ「ちょっと!人がせっかく良い事を言ってんのに、話の腰を折らないでよ。」
ボケ「それに私はキョンシーだから、これ以上は歳を取らないんだよね。差し詰め『永遠の青春』と言うのかな。」
ツッコミ「何それ…そんな言い方だとキョンシーが羨ましくなっちゃうなぁ。それはそうとして、貴女は何処に日帰り旅行をしようと考えているのよ?」
ボケ「日帰り旅行だからね。近場の京都で手を打ったんだ。」
ツッコミ「京都…それは良いじゃない!京都なら金閣寺とか伏見稲荷とか有名な寺社が沢山あるから、台湾から来た貴女には古き良き日本文化を満喫する良い機会になるはずだよ。」
ボケ「ああ、私はどちらかといえば神社よりお寺さんの方が好きなんだよね。」
ツッコミ「へえ、それはどうして?」
ボケ「だって、お寺さんなら近くに墓地もあるじゃない!」
ツッコミ「えっ、そんな理由?そりゃ確かに、キョンシーは生き返った死体だけど!」
ボケ「あの落ち着いた雰囲気に満ちた空間を静かに散歩していると、自然と心が癒されちゃうんだよね。きっとマイナスイオンを思いっきり吸収出来ているんだろうなぁ。」
ツッコミ「いや、それは多分マイナスイオンというより陰の気だと思うよ。」
ボケ「だけど、こないだは困っちゃったね。御墓に桃缶を供える人がいるんだから。ビックリして回れ右で帰っちゃったよ。」
ツッコミ「えっ、貴女ったら桃缶も駄目なの?確かに道教の道士は、邪気払いの力を持つ桃の木で作った剣をキョンシー退治の武器に使っていたけど…」
ボケ「これは私がまだ人間だった頃の話なんだけど、桃缶を開けようとしたら缶の縁で指を怪我しちゃってね。それ以来、ちょっと苦手なんだ…」
ツッコミ「えっ、そんな理由?キョンシーも道教も何も関係ないじゃない!」
ボケ「思ったより血が出ちゃって大変だったんだよ!だけど今にして思うと、傷口に滲む血が美味しそうだなって…」
ツッコミ「仕様がないなぁ、自分の血で食欲を刺激されているようじゃ…それで、貴女が近いうちに来訪を計画しているのは京都の何処なの?」
ボケ「良く聞いてくれました、蒲生さん。私が行きたいのは何を隠そう、国際会館駅なんだよ!」
ツッコミ「国際会館駅?それって確か、京都市営地下鉄烏丸線の?」
ボケ「そう、大正解!」
ツッコミ「また珍しい所へ行きたがるんだねぇ。南海本線の浜寺公園駅みたいに駅舎が文化財登録されているならまだしも、国際会館駅は至ってプレーンな地下鉄の駅だよ。その分だと国際会館駅その物じゃなくて、駅周辺の何かに用があるんじゃないかな?」
ボケ「うん、実はそうなんだ。」
ツッコミ「それならそうと早く言えば良いのに。あれでしょ、宝ヶ池公園で本物のマイナスイオンを思う存分に吸うとか?」
ボケ「夜の宝ヶ池の外周を飛び跳ねながら一周するのも、確かに悪くないね。でも、宝ヶ池公園じゃないんだよ。」
ツッコミ「ええ、両手を突き出してピョンピョンと跳ねながら一周するの?そういう薄気味悪い遊びは控えて欲しいなぁ。それじゃあ、岩倉地区の寺社巡りとか?」
ボケ「寺社巡りも良いけど、少し距離があるんじゃない?」
ツッコミ「そんなの、少し足をのばしたらすぐだって。」
ボケ「足ならずっとのばしてるよ、私。こうして死後硬直しちゃったら、解けるまでは関節が曲がらなくなるからね。」
ツッコミ「足をのばすってのはそういう事じゃないよ!じゃあ、同志社大学岩倉キャンパスの見学とか?」
ボケ「あっ、惜しいね!見学って点に関しては正解だよ。まあ、場所は見当違いだけどね。」
ツッコミ「う〜ん、降参!正解教えて。」
ボケ「正解は国立京都国際会館への見学だよ、蒲生さん。」
ツッコミ「成る程、京都国際会館その物を見学するんだ。確かにあの建物は色々な映画やドラマのロケ地に使われているから、聖地巡礼には最適かもね。」
ボケ「いや、私としては会議場の見学をしようと思ってね。あそこで将来的に会議を開くかも知れないし。」
ツッコミ「えっ、会議?そんな事考えてるの?ちなみに、その会議の名前を聞かせてくれない?」
ボケ「うん、全日本キョンシー総会の定例会議。まだ正式決定じゃないから、あくまで仮称だよ。」
ツッコミ「えっ…何なの、その団体?」
ボケ「島之内の姐さんに誘われて会員登録したんだ。『美竜ちゃんも籍置いといたら色々と捗るで』ってね。会費もタダだし、まあ良いかなって。」
ツッコミ「そうじゃなくて…一体どういう活動をしてるの、その全日本キョンシー総会とやらは。」
ボケ「日本各地に在住するキョンシーの地位向上と交流促進を目的とする相互扶助団体なんだ。目下の所は、旧暦の御盆にあたる毎年七月十五日をキョンシー記念日にするために署名運動をしてるんだよ。このキョンシー記念日の認定こそ、私の青春を捧げるに等しい事業かも知れないね!」
ツッコミ「へえ、意外とちゃんとした活動なんだね。それより私は、貴女達以外にもキョンシーが日本に住んでいるという事実に驚いたわ。」
ボケ「まあ、住んでいると言っても五百人位だけどね。南アフリカにおけるリカオンの生息数と同じ位だよ。」
ツッコミ「五百人…?多いわ!いや、国際会館で会議するには少ないけど…」
ボケ「多いと言ったり、少ないと言ったり。蒲生さんったら忙しないぞ!」
ツッコミ「あのね、国際会館のメインホールって約一八四〇席あるんだよ。」
ボケ「えっ!それじゃ私達が借りたらガラガラじゃん!」
ツッコミ「まあ、その人数なら近所の市民会館か貸会議室で事足りるんじゃない?」
ボケ「う〜む、それなら…お客様の中に、キョンシーになりたい方はいらっしゃいませんか?」
ツッコミ「ドクターコールか!それを言うなら『お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?』でしょ。そもそもキョンシーに勧誘するって何よ?」
二人「どうも、ありがとう御座いました!」