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第3話 謎の本

 *



 雪音家に引き取られてからも、僕たちは陰陽術の鍛錬を続けた。鳴海家が陰陽師の家であったように、雪音家も陰陽師の家であり、雪音家のみんなはほぼ全員がそれぞれ陰陽術をマスターしていた。雪音家のみんなは無理しなくて大丈夫だと言ってくれたが、役立たずのままではいたくないと考えていた僕たちは、諦めずに鍛錬を続けた。

 そんな僕たちを、雪音家のみんなは一つ一つ丁寧に教えてくれた。鳴海家にいた頃とは違い、みんなとても優しかった。


「あぁ……また失敗だぁ」

「ダメだ……」

「焦ってはいけませんよ、御二方。全ての陰陽師は、常に冷静でいる事が求められます。そして、失敗と試行錯誤を繰り返しながら少しずつ術をマスターしていくのです」

「わ、わかりました……」

「はいっ! 沙月師匠っ!」

「瑞稀さん、あたしの事は師匠じゃ無くて先生と呼んで下さい」

「沙月先生と呼べばいいんですね、わかりました、沙月師匠っ!」

「直ってないですよ……」


 どんなに頑張っても相変わらず陰陽術は使えないままであったが、それでも鳴海家にいた頃とは全然違った。どれだけ待っても、怒鳴り声が聞こえて来る事も、拳が飛んで来る事も無かった。最初の方はその事に慣れずにいつも色々な人に謝ってばかりいて、逆に相手を困らせていたが、だんだんとこの環境にらも慣れ始めた。


「そういえばですが、以前御二方に出した課題の進捗はどうですか?」

「2人とも終わってます、先生」

「では教えて頂けますか? 何かわかるかもしれませんので……」


 術式の詠唱と刻印は完璧なはずなのに、僕たちはいくら頑張って陰陽術がまったく使えなかった。そこで沙月先生は、僕たちにまずはどうして陰陽術が使えないのか、原因を究明するという無期限の課題を出した。沙月先生や涼さんたちが、日本陰陽本部からの直接の依頼を受けていない間、僕たちは2人で研究を重ねた。そして、ある結論に至った。


「おそらくだけど、僕は陽の力を練る事はできるけど、陰の力を練る事ができなくて」

「私はお兄ちゃんと反対で、陰の力を練る事ができる代わりに陽の力を練る事ができないんです」

「なるほど……」


 陰陽師は普通、陰の力と陽の力を衝突させる事によってエネルギーを作り出し、陰陽術を発動している。でも僕は陰の力を、瑞稀は陽の力をそれぞれ扱う事ができない。つまり片方の力しか扱う事ができない僕と瑞稀は、術式にエネルギーを流す事ができず、陰陽術が発動しないという事を突き止めた。


 さらに言えば、陰陽術失敗の原因は僕達の努力が足りないのではなく、努力する方向が違ったのだ。術式にエネルギーを流して陰陽術を発動させる練習をするのではなく、僕は陰の力を、瑞稀は陽の力を扱えるようにすれば良い。しかし、物事はそう単純な話ではなかった。


「でも、その事に気が付いてから1週間ほど経つのに、まるで元々そんな機能備わっていないかのように、未だに全く力を感じ取れなくて……」

「なるほど」


 同時に僕は、僕たちの現状を説明した。お互いに、陰の力と陽の力を操る方法を説明してみたが、それでもそこからまったくと言っていいほど進歩が無かった。

 僕達の報告に対して、沙月は頭を働かせた。考えられる原因をいくつか頭の中で挙げてみるが、その全てがあまりしっくり来る内容ではなかった。そもそも、片方の力しか操る事ができない双子なんて聞いた事が……いや、ある。


「片方の力しか使えない双子、もしかして双翼の……いや、今は情報を集めるのが先でしょうか……」


 考えるような素振りを見せた沙月先生は、その場で何やら考え始めた。その後何処かへ行き、本を数冊抱えて戻って来ると、僕たちに対して結論を出す事を保留する事を伝えた。


「この事は、後でじっくりと検討したいと思いますので、今日の鍛錬はこれで終わりにしましょう。代わりに、御二方には図書室の整理をお願いしてもよろしいですか?」

「「はい、わかりました」」



 ✳︎



「ここ、かな?」

「多分……」


 整理する事をお願いされた図書室は、少し不気味な薄汚れたところであった。床には乱雑に本が散乱しており、本たちは埃を被っていた。おそらく先程、調べ事をするために沙月先生はここを訪れ、部屋が汚い事に気がついたのだろう。そして、その掃除を僕たちにお願いしたといったところだろう。


 思えば、沙月先生から何かをお願いされたのはこれが初めてであり、雪音家の一員として数えてもらえたという実感がわいた。やる気を出した僕たちは、早速図書室の整理を行った。マスクを付けながら本を棚へと戻し、持って来た掃除機で埃を吸う、という作業を繰り返す。

 幸い図書室はそれほど広く無く、作業は1時間もかからず終わりそうであった。

 本を後一山片付ければ終わりというタイミングで、僕はある不気味な本に気がついた。


「これだけ埃を被っていないな。沙月先生、忘れていたのかな」

「あとで持っていってあげよ」

「そうだな」


 本の山の一番上に、表紙の描かれていない不気味な本が一冊置いてあった。注意深くその本を手に取った直後、突然変な感覚が僕を襲った。


「あっ!」

「お兄ちゃんっ?! お兄ちゃんっ!」

「み、ずき……」


 そしてそのまま、僕は気を失ってしまった。

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