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地獄の底で

 暴君とゴブリンらしい二匹の兄弟が死んだ。言ってしまえば半分の兄弟を失った訳だが当然、俺の心に悲しみなんてものはなくなんなら暴君を肉盾に冒険者一人を殺した気弱な兄弟に驚いている。

 大人しい奴がキレると何するか分からないとか聞くが、まさか気弱な兄弟が暴君の手元から落ちた錆びたナイフを拾って奴が持ち前の暴れっぷりで冒険者の顔面に張り付いてる時にわざわざ、暴君の背中越しから冒険者の喉をブッ刺すなんてするとは微塵も思わなかったな。


 そのまま狂った様に嗤いながら暴君と纏めて冒険者を何度も何度も突き刺してる絵面は正直、怖すぎて肝が冷えたわ。逸らした視線の先で骨弄りの兄弟が御者の遺体を痛ぶってたからすぐに視線を向けた事に後悔することになったけど。


(やっぱりゴブリンはゴブリンって訳だ)


 絶賛、目の前で繰り広げられている狩りの成果をたっぷりと味わう宴を遠巻きにいつもの様に眺める。俺が殺した馬は凄い雑に解体されて食材になっていて俺も美味しく食べさせて貰ったが、気絶させたシスターに何かをする気は全く起きなかった。


(腹は減るし目の前に食事が置かれれば逆らえないのに、性欲は無視出来るとかよくわかんねぇな)


 人間としての理性とゴブリンの本能どっちが勝るのか疑問はあるが取り敢えず、兄弟と親父達が盛り上がってる間に母体になる女性達のケアでもしますかね。

 この群れには現在、捕まえてきたシスターを含めて三人の女性がいるのだが漏れなくシスター以外は精神的に壊れてしまっており適度に見に行かないと……これだよ。


「アハッ、ハハハハハ」


「んー……上手く死ねないなぁ……もっとキツくしないとダメかなぁ?」


 ぶっちゃけ、これを見てる俺の精神もキッツイんだけどあの宴に混ざらないなら管理ぐらいしないとホブゴブリンに殺されそうだし、それに僅かでも罪悪感を軽く出来るから彼女らを死なせない様にしている。

 高笑いしてる彼女には、そうだな汲んできたばかりの冷えた水を飲ませて軽く背中を摩って落ち着かせ、拘束で使われている鎖で自分の首を絞めようとしてる彼女からは鎖を奪って短くしなおし、空いてる口に焼いた馬肉を齧らせる。


「んー!んー!」


(もしかして顎の力が弱まってて噛み切れないのか?)


 モゴモゴしてるしそうなのかこれ?仕方ないな……顎を掴んでちょっと無理やりにだけど咀嚼させて、これ千切れてるか?よく分かんないけどこのまま動かしてれば食えるだろ。


「んぐっ……」


 よし飲み込んだな。そうしたら、持ってきたバケツと汚いけど無いよりはマシの布で身体を拭ってやって、ほらバンザイしてバンザイ。っても伝わらないから、ジェスチャーで両腕を上げて……お、通じた通じた。

 脇の下は汚れが溜まりやすいし、胸もゴブリンの体液やらが付着くしたままになりやすいから拭ってと……よしよしこんな感じだな。


(うへー、一人拭くだけで綺麗な水が一瞬で濁る……どんだけ汚いんだ俺ら)


 とはいえ、汲み直しに行くとさすがに俺の身が危険だからこのまま高笑いをしていた彼女の身体を拭いてしまおうか。

 

「あー……」


(目の焦点が合わねぇ……こりゃ、そう遠くない時期に手入れしても無駄なほどに壊れるな)


 もしくは俺の母みたいに一周回って憎悪で正気を取り戻して、半狂乱になりながら逃げ出してホブゴブリンに殺されるか。どっちにしろ今の俺に出来る事は何もない。

 さっきと同じ様にジェスチャーをしても彼女はピクリとも動かないため、片手で腕を持ち上げて汚れを拭うがさっきの倍の時間をかけて拭き終わる。


(しんどい……まぁ、取り敢えずこれで多少は衛生的な死を迎えるのを阻止できるだろう)


 さてとバケツの水を巣の外に捨てに行きますかねっとうん?


「ギィギィ!」


「きゃあ!」


「ギィ?ギギギ?」


(あー、俺がここに居るのが不思議か?手入れだよ手入れ)


「ギィギギギ!!」


(物好きなのは自覚してるっての。良いからはよどっかいけしっしっ)


 どうやら思ってたより時間をかけてたみたいだな。兄弟と親父達の宴は一先ず終わって、嬲られてたシスターが牢屋に戻ってきた。

 連れてきたゴブリンに管理してる様子を笑われたけど、壊してばっかりのお前らよりマシだと思うぞ?


「ケホッ……オェ……苦い……神よ、どうか私にこの苦難に耐えるだけの力を……」


 信仰心ってのは凄いな。この状況で神に祈りを捧げるのか……もしも神が救いを齎らす存在なら初めからこんな状況にすらならないってのに。

 理解は出来ない……出来ないがそれでも真摯に祈りを捧げる彼女はゴブリンの体液に塗れてなお、この薄暗い洞窟の中で輝く金の髪が美しく見えた。


(この水じゃあ、彼女を綺麗には出来ないな。新しいのを汲んでこよう)


「……ん?あ、貴方は……皆さんを綺麗にしていたんですか?」


(うおっ!?さっきまで嬲られてたのにゴブリン相手に話しかけてくるとかどんな胆力してんだ!?)


 と、取り敢えず頷いておけば通じるか?どんなに頑張っても俺の口から出る声はギィとかギャァとかだからな。普通に言葉を発しても通じない。


「そうなのですね!ゴブリンにも慈悲の心を持つ方が居るとは……主はやはり偉大ですね」


(通じたけどなんかすっごい勘違いしてないか!?)


「手をワタワタさせてどうしたんですか?……あっ!もしかして貴方も神に祈りを捧げたいのですか?」


(違うよ!?勘違いしてる様だから訂正をって、駄目だこの子もう俺の手を掴んでる!)


「簡単ですよ。両手をこの様にして握り目を閉じ祈るです。さすれば、主の加護が貴方にも与えられるでしょう」


 あーもう、なんでもいいや!見様見真似で指を組み手を合わせ、彼女の様に片膝立ちになりながら祈りを捧げる。それっぽくするために目を閉じてみたけど、視覚が一旦閉じで他の五感が鋭くなったせいか横の彼女が喜んでいる気配がヒシヒシと伝わってくる……どうしてこうなった?


「そうです。本当は祈りの女神像があれば良かったのですが、私の首に掛けている物しかありませんので祈りを捧げる時は共にしましょう!」


(……どうしてこの子はこんなに笑顔でいられるんだろうか?)


「あ、お仕事があったのではないのですか?すみません呼び止めてしまって……」


 彼女の視線が俺の持っていたバケツに注がれて頭を下げられる。いやまぁ自主的にやってる事なのでお気にならさずと言えれば良かったのだが、言えないので適当に頭をペコペコと下げなら牢屋を退出してそのまま、巣の外にある水場まで新たな水を汲みに行くために俺は巣穴を出るのだった。


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