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一時撤退

 ちょっと待て!?

 ゴブリンに転生して地獄みたいな経験積んで、死んだと思っていた情緒が叩き起こされるぐらいには驚いてるぞ!?

 てっきり、中世のファンタジー世界だと思い込んでいたんだけど今、俺達を追いかけている奴の下半身何処からどう見てもキャタピラだよな?俺のいた世界でも使われた戦車とかのアレ。


「ギャギギァ!?」


「なんだアレ!?って言いたいのかな!アレは『ガードゴーレム』って言ってダンジョン街を徘徊してる奴!!」


 ダンジョンはこの目で見てはいないけど、街に残ってる建物を見た感じ確かにあんな奴が居ても不思議ではないがキャタピラに人間の上半身みたいなのを乗せた一つ目とか……ロボットアニメかよってなんか目元に光が集まって──


「マズっ!?左右、どっちでも良いから飛んで!!」


「ッッ!!」


 アイリに言われた通りに右へと飛び退いた瞬間、赤黒いビームみたいなのがガードゴーレムから放たれ地面と木々を抉り飛ばしながら、俺達がさっきまで居た場所を駆け抜けていった。

 ……抉られた地面から蒸気みたいなの上ってるんだがどんだけ火力あるんだアレ。


「ぼーっとしてないで立って愚者君!!」


「っと、すまん!!」


 どう考えても足を止めるのは愚策だった……ん?なんでアイリは俺の事を気にかけてくれるんだ?

 薄汚いゴブリンの一匹ぐらい死んだところで何もないだろうに。

 ……まぁなんでもいいか、このまま逃げられるのならそれに越した事はない。


「逃げる算段はあるのか?」


「アイツが居るって事は此処はダンジョン街の端っこだと思う」


 また、光線が飛んで来たので先ほどと同じ様に避けて再びアイリの横に並ぶ。


「中央にあるダンジョンに駆け込めばアイツは追ってこない。だから」


「ダンジョンまで行くって訳か……体力保つか?」


 横を走るアイリと自分の歩幅を見比べてみれば、その差は歴然でこうしている間も俺は全力で足を動かしているが彼女からすれば手加減している速度でしかない。

 それでも魔物になった影響で全力疾走を続けてもすぐには息が上がってはこないが……こんな事を考えている間も飛んでくる光線を飛び避けなきゃならないのが無駄に体力を使わせられる。


「まだボクの魔法は使えないし……」


「当然俺もないぞ」


「だよね!んーっと……」


 アイリが色々と考えてくれているようだな。

 とりあえず今の俺がパッと出来る事をしておくか。


「粉砕される未来しか見えないがっと!」


 一瞬だけ振り返って手作りの木製手斧をガードゴーレムのキャタピラ側面にぶち当たる様に、カーブさせ放り投げると俺の狙い通りの軌道を辿って手斧はキャタピラに当たり──予想通り、バキャッ!!っと破裂音を響かせ粉々に砕け散るが奴の速度は微塵も変わらない。


「良いコースだけど武器の耐久性が足りないね!」


「ゴブリンに贅沢言うな」


「まぁでも足を狙うのは良いと思うよ。だからボクが武器を貸したげる!」


「正気か?」


「正気も正気!君とは協力関係を取った方が良いってボクの直感が囁いてるから」


 直感って……確かに考えるよりは行動するタイプの人種にはありがちな判断基準だとは思うがそれで良いのか冒険者。

 ゴソゴソとポーチから何やら巻物を取り出したアイリを呆れながら見ていると、シュルリと器用に走りながら巻物を広げ始め瞬間、ポンっと煙が巻物を包みその手にはクナイがたくさん握られていた……何だそれ?


「収納の巻物ってやつでね、効果は名前通り指定した品を入れて置く事が出来るだ。詳しい原理はまぁ、今は良いよね。という訳ではい、これでよろしく!」


「一本ずつ渡してくれ。全部は持てない」


「了解了解」


 色々と聞くのは後にして、アイリからクナイを受け取る。

 思ったより重くないんだなコレなら、狙い通りに奴のキャタピラを狙う事も出来るか。


『───!!』


「っと!」


 さっきので俺が攻撃してくると学んだのか?学習機能もあるとか、ますます周囲の時代レベルと噛み合ってないなお前。

 まぁ、幸い身軽な俺達であればあの光線を避けるだけなら簡単なのが救いだな。


「先ずは一本!」


 飛び上がりながら放り投げたクナイは先ほどの手斧と同じ軌道を辿り、キャタピラにぶつかる。

 ギャリギャリ!!っと金属と金属が擦れ合う甲高い音を響かせ、激しく火花が散るが先にクナイの方が耐久限界を迎えてボキンっと折れる。


「アイリ!」


「はいよ!」


 だが、すぐに折れなかったのなら効果はある。

 再び受け取ったクナイを放り投げ、今度は当たるかどうかを見届けずにすかさず二本目を受け取り同じ様に放り投げ、同じ様に当たるかどうかを見ずに次のクナイをと言った感じに次々とクナイを放り投げていく。

 確実性よりも速度を優先した為に、何発かは外れてしまったがそれでも刺さったクナイはすぐには折れずキャタピラの正しい挙動を歪め、本来負荷がかからないであろう場所に負荷を圧をかけていく。


『───!!』


 合計で十本以上のクナイがキャタピラに刺さった瞬間、ついに負荷の限界を迎えた奴のキャタピラが派手にバーストしバランスを保てなくなったガードゴーレムはコントロールを失い、近くにあった建物に激突し動かなくなった。


「……おぉ、本当にガードゴーレムを止めちゃったよ」


「いや信じていなかったか」


「まさかこんなに上手くいくとは。うんうん、ボクの直感は間違ってなかったね!」


 楽しげに笑うアイリの姿に若干の頭痛を覚えつつも、ガードゴーレムが再起動するかもしれないし彼女を引き連れて少し先へと進み、大きな木の下で揃って座る。

 水と食料を取り出している彼女を見ながら俺は気になっている事を尋ねることにした。


「お前、俺に何を手伝わせるつもりだ?」


 尋ねた瞬間、ピタッとアイリの動きが止まる。

 やっぱりな……逃げてる途中で協力関係がとか言っていたし、そもそもゴブリンである俺を気遣うなんて何か目的があるのだろうと踏んでいた。


「あー、やっぱり気がついてた?」


「恩を売っておこうって感じがな。まぁ、助かったのは事実。実験動物になれとかじゃなきゃ、うける」


「そんなつもりはないよ。ボクが君に手伝って欲しいのはダンジョン探索なんだ。ほら、あの罠に引っ掛かって君と出会った訳だけど、ボクの今回の仕事はダンジョン探索だからさ」


「……なんで俺なんだ?」


 安全にいくなら戻って新しい仲間でも募れば良いだろうに。

 わざわざ、ゴブリンと手を組んでダンジョン探索をする必要性が俺には分からん。


「いやー、今戻っちゃうと依頼不達成で報酬貰えないしそれに仲間の冒険証とか拾ってないからさ……出来れば持って帰ってあげたいんだ」


 冒険証を持って帰るという口振り的にやっぱり、もう死んでいるのだろうな仲間は。

 視線を落とし、首からぶら下げている壊れた女神像を手に取り少しだけ握り締める……相手が生きていた証というのは大切な物だ。


「愚者くん?」


「……分かった。引き受けよう」


「ほんと!?ありがとうー!!あ、干し肉食べる?」


「もらう」


 久々に食べた雑な調理ではない肉は硬かったが美味かった。

 俺もこの味が作れるぐらいには手先が器用になれば良いんだがなぁ。

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