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プロローグ

 ゴブリンスレイヤーに強い影響を受けています。

「はーい、皆さん!今日は『ゴブリン』に関しての授業を始めますよ!」


 六~十二までの歳の子供達が三十余り集う木製の学舎にて軽装ではあるが皮の鎧に身を包む女性冒険者が、和かな笑顔を浮かべ教科書を広げながら黒板の前に立つ。

 彼女はこの国のいわゆる初等教育として行われる冒険学を教える教師として、冒険者ギルドから直々に派遣されておりその実力も上から数えて四番目であるクォーツ級の冒険者であり子供達の視線は憧れに満ちている。


「先ずはみんなの知識を確認しよっか。ゴブリンって言われてどんな存在か分かる人は手を挙げて」


 ハイっ!という元気溌剌な声と共に沢山の手が真っ直ぐと上に掲げられる。その中からパッと目が合った者を選び答えるように指示するとやや緊張した面持ちで立ち上がった男の子は答える。


「ゴブリンとは人間の六~八歳の平均身長と同じくらいの大きさをした緑色の体色と黄色の瞳が特徴的な魔物です!」


「はい正解です!ゴブリンはこの世界で最もありふれた魔物の一体で、スライムやコボルトと同じぐらい有名な存在ですね。ゴブリンは通常三十から四十ほどの群れを形成し、薄暗い洞窟の中に住んでいます。その為、明るい日中に姿を見る事はあまりありませんが夜になると活発的に動くので、村や町で見た事あるって子も多いんじゃないかな?」


 黒板に綺麗なゴブリンの絵を描きながら話す女性冒険者に同意する様に多くの子供達が見た事あると返し、中には棒切れで追い返したと自慢げに語る子もいた。


「ゴブリンは一体ではとても弱い魔物です。冒険者ではない者でも倒せたり、捕獲出来てしまうぐらいには弱い魔物ですが、では問題です。ゴブリンで最も注意をしなくてはならない事は?」


「ハイっ!群れを成しているゴブリンは強い!」


「ハイっ!奇襲や不意打ちが得意!」


 当てられる前に手を挙げながら元気に答える子供達に自分が答えたかったー!っと不満げな視線が向けられるが、女性冒険者が宥めるとすぐに授業へと意識を戻してくれる。


「ゴブリン一体は弱く子供でも倒せてしまえますが、群れとして動くゴブリンは一流の冒険者であろうとも決して油断していい存在ではありません。特にゴブリンは変異種と呼ばれる通常のゴブリンよりも強く進化した存在が多く確認されている為、冒険者として引き受けた依頼で遭遇した群れに変異種がいるなんて事は良くあるのです」


 女性冒険者は話しながら、先ほどのゴブリンの絵の隣に次々とゴブリンの絵を書き足していく。

 

 通常のゴブリンよりも大柄な体躯を誇る──ホブゴブリン。

 

 その辺に落ちている木の枝を改良して作った杖と動物の骨を頭に被る──ゴブリンシャーマン。


 冒険者の装備を身に付け扱う事が出来るほどの知性を獲得した──ゴブリンパラディン。


 全身の筋肉が肥大化し人間を優に超える体躯を誇る──ゴブリンチャンピオン。


 もはや人と遜色ないほどに武器も魔法も扱え、他種のゴブリンを従える力を持つ──ゴブリンロード。


「有名所としてはこれらがありますがどれも通常とゴブリンと同じだと舐めて掛かれば、容易く死に至るほどの強さを秘めています。そして此処には描ききれない程のゴブリンが確認されているのもまた事実です。皆んなが成長し、冒険者として活動するのならこれら以外のゴブリンも覚えておく様にしてくださいね」


 ゴブリンが最も多くの冒険者を殺していると言われているのだが、その理由が変異種の多さにある。事前に冒険者ギルドの調査員が依頼内容の調査をしているとはいえ、ゴブリンの進化速度は速く調査時には変異種が居なかったなどよく聞く話で、対策を怠った者や初見の変異種に殺されてしまう事例が後を断たずこうして早い内から教育が行われる様になった一端を担っている。


「そして……長い歴史の中でたった一体のみその姿が確認され、討伐された記録もない伝説上のゴブリンが居るのは知っていますか?」


 女性冒険者──名前をユリエ・ライネールという彼女は笑顔を止め、真剣な表情を浮かべる。彼女から発せられる空気は先ほどまで穏やかに授業を行なっていた者とは思えない迫力に満ちており、子供達の中には涙が目尻に浮かぶ者まで現れる。


「幾つもの武器を扱う知性の高さに加え、今では失われてしまった自らを治癒する回復魔法を扱い例え素手になろうとも冒険者の最高位であるダイヤモンド級と真正面から渡り合ってみせたゴブリン……名を『ゴブリンヒーロー』と呼ばれるゴブリンの規格外中の規格外の存在を」


 それまで最弱の魔物として人間には雑に扱われ、最低位の冒険者ランクであるタルクを試す存在とされていたゴブリンを専門の研究が行われるほどに格上げし、冒険者ギルドは必ず調査員を派遣しなければそのギルドが取り潰されるほどの脅威と認定させ、冒険者を志す者達に早期学習をさせるほどの危機感を煽った存在。


 それがゴブリンの中の英雄或いは勇者とされる『ゴブリンヒーロー』と呼ばれるたった一体だけ確認されたゴブリンの変異種である──そして、


「……あー、日本に帰りてぇ」


 神の悪戯によってゴブリンへと転生させられた元一般人である事はまだ誰も知らない。

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