その後の二人⑨
「クリスタ、おはよう。」
「フランツ、おはよう!」
いつものように朝クリスタの邸に迎えに来たフランツ。
クリスタを視界に入れるだけで途端に甘くなる彼の笑顔だが、今日は一段と甘く蕩けていた。
「ん?何か良いことでもあった?」
彼の豹変ぶりに慣れたクリスタでさえも気になる程、ふにゃふにゃにふやけていた。
「ああ、もうすぐクリスタと一緒に住めると思うと、堪らなく嬉しくって…」
フランツは盛大にニヤけた顔のまま、馬車に乗るためにクリスタに手を差し伸べた。
「え?もうすぐって…??」
クリスタはステップに片足を乗せた状態で止まった。隣でキラッキラの笑顔を向けてくるフランツの方を振り返った。
「ようやく邸の準備が整ったんだ。遅くなってすまなかった。週末には引越し出来ると思う。あ、俺たちの寝室はクリスタの意見も聞きたいからまだ手を付けてないんだ。今度意見を聞かせてもらえる?」
「は………俺たちのって…どういう意味…?」
片足をステップに掛けた状態では疲れるだろうと気遣ったフランツは、クリスタの腕を逆の手で支えて、もう片方で彼女の腰を支えた。
「ん?夫婦なのだから、寝室は同じに決まっているだろう?」
フランツは、首をこてんと傾けてクリスタの顔を覗き込んできた。
いきなりの接近に、クリスタは後ろに下がろうとしたが、がっちりと腰を支えられているため一歩も動くことが出来なかった。
「いや、夫婦って、私達契約結婚みたいなものでしょ!その、寝室を同じにするとか、そこまでしなくても良いんじゃない…?」
「クリスタは、俺のこと嫌い?」
一瞬にしてフランツの顔から表情が消え、この世の終わりかのような雰囲気を全面に出しながら俯いた。
「え…」
フランツのことを好きかどうか…いや、考えたこともなかったな。
そもそも好きってよく分からないし、美味しい物を食べて生きていければそれで私は幸せだし。自分が今結婚しているって事実もまだ信じられないくらいなんだけど…
うーん、でも、嫌いかって言われるとそうでもないような…だって、願い事叶えてくれるし、美味しいものたくさんくれるし、これからも与えてくれるって言うし、それでいて何一つ文句言わないし…
あれ?文句言わなくて、願い事叶えてくれて、美味しいものくれる人って…めちゃくちゃ最高なんじゃない??
好きかどうかはやっぱり分からないし、ちょっと困るけど、嫌いになる理由は見当たらないな。
「嫌いじゃないよ。」
「う、そ………」
クリスタの言葉に、フランツは目を見開いた。
予想してなかったクリスタの返答に、心が追いつかない。整理しきれない感情が涙となって瞼の裏に溜まり、視界がボヤけていく。
「…フランツ??」
「俺は…こんなに幸せであっていいのだろうか…いつか、本当は嘘だったんだって君が目の前から消えてしまいそうで怖い…ああどうしよう、でも物凄く嬉しい。俺は今怖いくらいに幸せだ。」
「もう、大袈裟よ!」
手を握られ、腰に腕を回され、赤くした瞳に見つめられ、耐えきれなくなったクリスタはぷいっとそっぽを向いた。
だが、フランツはそれを許してはくれなかった。彼女の顎を掴み、自分の方に向けさせると、ぐっと更に顔を近づけた。
「なっ…………!!!」
フランツはクリスタの瞼と頬にキスをした。
ふふっと幸せそうに笑みを溢すと、人差し指をクリスタの唇に当てた。
「ここは、まだとっておく。」
「……っ!!!!」
恥ずかしさでクリスタの顔は真っ赤になった。
フランツは甘い表情で愛おしそうに見つめると、ぎゅーっと力一杯抱きしめた。
「君の実家は無くなってしまったけど、その代わりに、俺が君の拠り所になるから。どんな願いも叶えてみせるから。いつだって俺が君の一番の味方になるから。だから、ずっとずっとずっと俺のそばにいてほしい。隣で笑っていてほしい。」
「そんな言い方、ずるいんだけど…」
「ズルくてもなんでも構わない。それで君が俺の隣にいてくれるのなら、本望だ。それ以外何も望まない。」
「…じゃあ、寝室は分けて。」
「それは…ちょっと難しい…」
「もうっ!!!」
フランツは自分の腕からクリスタを解放すると、不安げな顔で正面から彼女の目を見た。
「…怒った?」
「もういいって!……ひゃあっ!!」
フランツはクリスタのことをもう一度強く抱きしめた。
「ああもう可愛い、本当に大好き。クリスタ、愛してる。」
これにて、その後の二人のお話はおしまいとなります!
ここまで読んで下さった方、本当にありがとうございました!!
また気が向いたら番外編を書こうと思います(´∀`)




