その後の二人④
「な、なによこれは…」
クリスタは、目の前に広がる光景に、思わず驚嘆の声を漏らした。
その衝撃のあまり、ワナワナと身体が小刻みに震えている。
彼女の目の前に広がるのは、この国では見かけたことのない異国の料理の数々だった。
前世で憧れていた、大きな丸どりの皮をこんがりと焼いてスライスしたものや、ふわふわのオムレツに餡がかかったもの、半透明の白い生地に包まれて蒸されたもの等の料理がずらりと並んでいる。
クリスタは我慢できず、どうしてこんなに豪華な料理が夕飯に並んでいるのかを聞かないまま食べ始めた。
どれを食べても新鮮な味わいで美味しく、ここ最近の変わり映えのしない料理に辟易としていた彼女は、涙を浮かべる勢いで喜んでいた。
いつもなら量を抑えて種類を取るクリスタだが、今は量も気にせず、気に入ったものは気にせず何度も口に運び、とても幸せそうに顔を綻ばせている。
「あー、美味しかったーーーー!!!美味しいものってほんと幸せ。味気のないものを食べていると人生まで味気なくなるからね。ほんと、最高の夕飯だったわ!」
食後、少々いやかなり食べ過ぎてしまったクリスタは、ベッドの上でゴロゴロしている。
そんな彼女に、ハンナが消化を促進するお茶を持ってきた。
「そんなに喜んで頂けて、フランツ様もさぞお喜びになるでしょうね。」
「ん?なんでフランツ???」
クリスタはうつ伏せ寝の状態から、むくっと上体だけを起こしてハンナの方を見た。本気で想像がついていなかったようで、ポカンとした表情をしている。
そんな彼女の反応に、ハンナは苦笑を漏らした。
「ベルツ家の経済状況を心配されて、クリスタ様のために食材をご用意されて、公爵家のシェフ達まで貸してくださったのですよ。」
「さすがフランツ!!私が欲しいものをちゃんと分かってる!!明日御礼言ってくる!」
翌朝の朝食も素晴らしく、見たことのないバターたっぷりのうずまきパンや中華粥のようなものまで並び、クリスタは最高に機嫌が良かった。
最高に機嫌が良過ぎて、フランツに御礼を伝えることを失念したまま学園に到着してしまった。
なにか忘れているような…なんだっけ…なにかフランツに言わないといけないことがあったような…いや、気のせいだったかな??うーん…なんか引っかかる…
「クリスタ様、今度我が家でお茶会を開くことになりましたの。良ければクリスタ様もおいでくださらない?」
クリスタがうーんと考え事をしていると、いつの間にか彼女の席の前にやってきたデリアがお茶会に誘ってきた。
「お茶会…」
クリスタの瞳がきらりと輝いた。
え、デリアのうちでお茶会…!?それって、私が待ちに待っていたあのお茶会!?アダルベルト家の牧場で取れた生クリームとかチーズとか食べられるの…??
え…嬉しすぎる。
「もちろん、参加させて頂きますわ!」
全開の笑顔で快諾したクリスタ。
今にもヨダレが出そうなのを必死に堪えている。
「良かったですわ。ではぜひ、フランツ様と一緒においでくださいまし。他の方々もお二人と会えるのをとても楽しみにしておりますの。」
「ええ、もちろんですわ。」
は………やられた……
デリアにはそんなつもりないんだろうけど、きっとこれ、彼女の周りの子達がけしかけたんだろうな…私のことをフランツに相応しくないとはこき下ろすつもりなんだろうね…
はっめんどくさい。
ま、やられたらやり返すだけだから、別に良いんだけどね!面倒だけど、産地直送の乳製品達のためにやってやるわ!!!
「大丈夫か?」
自席でため息をついたクリスタに、心配したフランツが慌てて駆け寄ってきた。悩んでいる姿も見ていたため、朝から心配していたのだ。
「あっ!!!フランツ、ありがとうっ!!」
一方のクリスタは、フランツの顔を見てようやく思い出した。
「ん?」
いきなりのクリスタの満開の笑顔に、動揺しつつもなんとか聞き返したフランツ。やはり耳が赤い。
「うちにシェフを送ってくれたでしょう?おかげでとーーーーーっても美味しいご飯にありつけたの!!ほんと幸せ。ここまで気を遣ってくれてありがとう!!!」
感謝の言葉を重ねるクリスタに、フランツの胸はいっぱいになった。この瞬間だけで、一生幸せに生きていける、毎度の如くそう考えていた。この時までは。
「うちでもすごく美味しいものを食べられているから、一緒に住む話、急がなくて良いからね。卒業に合わせてとかでも良いかも。急ぐ理由なんてないし。」
「え……」
「ん?どうかした??」
「…いや、何でもない。」
自分がしたことで間違いなくクリスタのことを幸せにしたはず、なのに、フランツは後悔の念で溢れていた。
余計なことをしてしまったかもしれない…あのまま満足な食事が出来なければもっと早くに俺のものに…
などと、不埒なことを考えてしまっていた。




