エメリヒとの約束
ひゃっほーーーーーーー!!!!!!あのムカつくクソ貴公子にやっと言えたーーーー!!めちゃくちゃスッキリしたわ。
嫌味で受け流すのもいいけど、やっぱり言いたいことをガツンと言えるとスカッとするー!!
あんな男の嫁にならなくて本当によかった…フランツがいなかったら私の人生詰んでたわ…
フランツ様…貴方様には感謝の気持ちでいっぱいです…一生掛けてこのご恩をお返し致します!!
なんだけどさ…
「ねぇ、フランツ近くない…?」
「ん?普通だと思うが?」
いつもの食堂でのランチタイムのはずが、クリスタは料理に集中出来なかった。もちろんその要因はフランツだ。
今日は敢えて個室は取らず、広々としたエル字のソファー席に座っている。向かい合う席よりも、話しやすい設計になっているのだが、そんなことフランツには関係なかった。
クリスタの隣にピッタリとくっ付いて座り、腰に腕まで回している。
皿に手を伸ばそうとする度に、フランツの柔らかい髪が頬をくすぐる。こんなの落ち着くわけがない。
「これクリスタの好きなやつ、食べさせてあげるから、ほら口を開けて?」
「…さすがにやり過ぎだって!」
クリスタは小声で抗議した。
元々周囲の視線を釘付けにしていた二人だったが、フランツの言葉に、一層注目を浴びていた。
皆気になって仕方ないものの、二人の甘過ぎる雰囲気に声を掛けてくる者まではいなかった。ただ一人例外を除いて。
「お二人さん、昼間っからイチャイチャしてると出禁にされちゃうよ?」
フラッと現れたエメリヒが二人のことを揶揄って来た。
結局まだ良い相手が見つかっていない彼は、こんなイチャラブは目に毒でしかなく、八つ当たりに近いものがあった。
「うっそ!!出禁は困る!まだ全メニュー制覇してないんだから!フランツ、一刻も早く私から離れて!」
「気にしなくて良いよ。アレはエメリヒの冗談だから。」
フランツは、ピッタリとクリスタにくっ付いたまま、ジロリとエメリヒのことを睨みつけた。相変わらず、人を射るような目付きをしている。
「はは、冗談だよ。やだなぁ、本気にしちゃってさ。」
フランツの視線に怯えたエメリヒは明後日の方向を向いて、弁明した。
「エメリヒ、約束を果たそう。」
「え?いきなり何の話?」
突然のフランツの言葉に、エメリヒの頭の中ははてなマークでいっぱいになった。
「アルトナー家で夜会を開くと約束したろう?来月開くことが決まった。誰にでも声を掛けていいぞ。沢山呼んでもらった方が都合が良い。」
「うそ!ほんとに!?お前んちって滅多に夜会開かないじゃん!すごい…僕のために、ありがとう。」
エメリヒは、瞳を輝かせて喜びを露わにし、人懐っこい笑顔を見せた。
「俺とクリスタの結婚パーティーだからな。盛大にやろう。」
「「はああああああっ!??」」
エメリヒとクリスタの驚愕の声が見事にシンクロした。二人とも信じられないといった顔をしている。
「なんだよ!結局お前が主役のパーティーかよ。それじゃあ、女の子口説けないじゃん!なんのための夜会だよ!!」
「ちよっと!聞いてないんだけど!!!そんなのやらなくていいから!!!変に目立ったらどうするの!!!!」
二人して、ピーチクパーチク文句を言い始めた。
フランツは、エメリヒのことは視線で黙らせ、クリスタにはいつもの甘い笑みを見せた。
「クリスタ、当日は宮廷料理人が来てくれる手筈になっていてね、王族しか食べられない珍しい料理を振る舞ってくれるとか。」
「………やりましょう。私達の結婚パーティー。節目だから、そういうのは大事だと思うんだよね。うんうん。」
「ちょっと待って…クリスタ嬢寝返るの早過ぎじゃない…??」
クリスタの思い切りの良過ぎる手のひら返しに、エメリヒは苦笑していた。
「結婚パーティー楽しみだなぁ!どんな料理が出るんだろう。甘いものもあるかな?」
「俺も。クリスタのことを俺の妻だと皆に自慢出来る日が待ち遠しい。」
「僕は時々君たちのことが心配でたまらなくなるよ…」
頭の中に違う色の花を咲かせている二人に対し、エメリヒは一人不安そうな顔をしていた。




