欲張り
「クリスタ様、ヨーク家からお手紙が届いております。」
「げ…ほんとに送ってきやがった…」
クリスタは嫌悪感に溢れた顔で手紙を受け取ると、嫌そうに封を切って中身を確認した。
それは、ヨークの言っていた通り、両家のサインが入った婚約宣誓書であった。
「クリスタ様…今度はヨーク家に何をなさいましたか…?」
「だからなんでいつも私が加害者の設定なの…勝手にこれが送られてきたんだよ。」
クリスタは、ヨークから送られてきた宣誓書をハンナに見せた。
「はっ…なんという…」
「おかしいでしょ?婚約してるっていうのに、普通こんな被せてこないよね?しかも新しい方が有効だなんて…両家が同意すれば婚約は出来るけど、本人の意思を無視するなんて鬼畜過ぎる…」
「なんということでしょう…!!クリスタ様、大変な人気でございますね。さすがでございます。努力の賜物ですね!」
「え…いや、そういう話じゃないんだけど…」
ヨークの悪様についてハンナに愚痴ろうと思っていたのだが、よく分からない方向に感激されてしまった。
「とにかく、私明日フランツと領地に行ってくるから。フランツと結婚するって父に直接言ってくるわ!」
「クリスタ様…け、、結婚…結婚なさるのですか!?あの不誠実坊ちゃんが結婚を決めたのですか!!??」
「色々あったんだけどね…利害の一致?みたいな感じで結婚することに決めたの。」
今回の結婚は、クリスタが、フランツの惚れた弱みに付け込んだだけだったが、追求されることを避けたいクリスタは、適当に誤魔化した。
「まぁまぁまぁ!なんということでございましょう!ハンナは嬉しゅうございます。ついに決めましたのね。この国の婚約制度は何度でも上書きされてしまいますから、坊ちゃんの気が変わらない内に婚姻を結んでしまった方が良いかもしれませんね。」
「たしかに…それもアリかも。明日フランツに話してみるわ!ありがとう、ハンナ。」
翌朝、いつも学園に行くよりも少し早いくらいの時間にフランツが迎えに来た。
ベルツ侯爵が滞在している領地までは、馬車で半日ほど掛かる。順当に行けば、向こうにはお昼頃到着する予定だ。
馬車の中、クリスタは黙って窓の外を眺めていた。流れゆく景色は一つも目に入っておらず、思考の奥底に沈んでいた。
ど、どうしよう……………
今更だけど、私子どもの頃カトリンにとんでもないことしなかった…??結構精神的に追い詰めていたような…今振り返ってみたら、とんでもないガキだわ。
やり過ぎな気もしてきた…いや、あの時は生きるためにああするしか無かったんだけど…………成長した今、とてつもなく、顔を合わせづらいわ……どんな顔されるかな…
「緊張してる?」
いつの間にかクリスタの隣に座っていたフランツは、彼女の手を優しく握った。
「緊張というか…」
「もしかして、ご両親と折り合いが悪いの?」
フランツは、心配そうな瞳でクリスタの顔を覗き込んできた。
「うーん、そんなかんじかな…あんまり顔を合わせたくないんだよね…」
「知らずにごめん…クリスタは何も話さなくて良いから。俺が侯爵と話を付けたらすぐ帰ろう。負担を掛けさせて本当にごめん。」
クリスタは、自分の問題なのに、ものすごく申し訳なさそうに謝るフランツの姿に少しだけ胸が痛んだ。
…自分でちゃんと決着つけよう。
「これはウチの問題だから気にしないで!あ、そうだ、帰りにフランツの家に寄って結婚の許可をもらいに行かない?」
「え…婚約じゃなくて…?」
「またこういうことが起きたら面倒だし、早く結婚したいなと思って…わっ!!」
フランツが横から思い切り抱きしめてきた。突然のことに、クリスタは思わず身をすくめた。
彼の腕の中で身を固くしていると、それに気付いたフランツは、腕の力を少しだけ緩めた。それに安心したのか、クリスタも身体の力を抜いた。
「…嬉しい。俺も今すぐにでも結婚したい。クリスタと一緒にいられるのなら、何を犠牲にしても構わない。何があっても君のことを幸せにすると誓うよ。」
「…ありがとう。」
なんでこんなに優しくしてれるんだろ…全部全部、私の勝手なのに。
私に愛なんていらないのに。そんなのもらっても返し方が分からないから。
こんなに貰うばかりで良いのかな…いや、やっぱ良くないわな。
でも、突然返してって言われても困る…だからと言って、突然見限られるのも困る…
なんか前よりも欲張りになった気がして、自分のことが嫌になるわ。




