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【本編完結】食に固執する腹黒令嬢は、愛されても気付かない  作者: いか人参
本編

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31/58

フランツの苦悩


「……ツ」


「…ランツ」


「おい、フランツ!」


「ああ?」

 

3回目の呼びかけでようやく反応したフランツだったが、返事に覇気が無い。表情もぽけーっとしている。

気の抜けた態度に、エメリヒは大きなため息を吐いた。



二人は、放課後の食堂にいた。

デートの結果を聞きたがったエメリヒがフランツのことを呼び出したのだ。


根掘り葉掘り聞いてやろうと意気込んできたエメリヒだったのだが、フランツの反応が悪くて会話にならない。



「一体どうしたんだよ…クリスタ嬢にこっぴどく振られでもしたか?」


「それはない。」


ここは即答であった。



「はぁ…一体何があったんたよ。どうせクリスタ嬢絡みの話なんだろう?」


「…仮初ではなく、正式な婚約者になったんだ。」


「なっ!!そんな大事なことをなんで開口一番に言わないんだよ!やったじゃん!!念願叶ったんだね。どうやって口説き落としたんだよ。助言した俺には聞く権利があるんだから。さぁ、早く洗いざらい話してよね。」


「いや、片思いのままだ…」


フランツは思い切り目を逸らしながら、決まり悪そうにしている。

エメリヒに助言をしてもらったにも関わらず、これまでと何の変哲も無い現在に若干申し訳ない気持ちになっていたのだ。



「はっ!?」


エメリヒは口に運ぼうとしていたコーヒーを、音を立ててソーサーの上に戻した。

ガシャンッという貴族社会では聞き慣れない不快な音に、離れた席にいた生徒数名がエメリヒの方を見た。



「ちょっと意味がわからないんだけど…どうして好き同士でもないのに、いきなり正式な婚約者同士になるんだよ…」


周囲の視線を気にしたエメリヒは、声の大きさを落とし、内緒話をするかのように口元に手を当てながら話した。



「…色々あったんだよ。」


フランツは、その色々を思い出し、思わず頭を抱えた。

比喩ではなく、テーブルの上に肘をつき、両手で頭を抱えるようにして支えている。



「まぁ、お前が良いならそれで良いけど…とりあえず、おめでとう…?」


フランツの反応に、これは喜ばしい事なのかそうでないのか、もうよく分からなくなってきたエメリヒは曖昧な言葉を返し、言及するのをやめた。代わりに、口角の上がりきっていない不恰好な笑顔を向けた。





「んーーー!!!おいひぃ…」


クリスタは口いっぱいに揚げたてのタコを頬張っていた。

これは本日の日替わりメニューで、塩とスパイスでタコに下味を付けて油で揚げたものにヨーグルトソースがたっぷりと掛かっている。


今日一番のお気に入りとなったこのメニュー、既に3回ほどおかわりをしていた。




「本当に幸せそうだ。」


フランツは、クリスタの隣に座り、幸せそうな彼女の横顔に見入っている。

彼が右手に持っているフォークは全く仕事をしておらず、ランチタイムは、クリスタ鑑賞タイムと成り代わっていた。



正式な婚約者となった日から、二人は個室で昼食を取るようになった。

何も気にせず、素のままで食事をした方がより美味しさを堪能出来るだろうとフランツが配慮してくれたのだ。


マナーも表情も言葉遣いも一切気にせず、食事だけに集中出来るこの環境は、クリスタにとってまさに理想の世界であった。

そして、彼女が食に夢中であるのを良いことに、フランツはしれっと隣に座り、彼女の顔を見つめ、彼にとっての至福の時を過ごしていた。




仮初の婚約でも十分幸せだと思っていたけど…正式な婚約者ってこんなにも幸せなんだね!!これはハンパないわ…本当に…婚約者最高…!!!

師匠が私のことを必要以上に焚き付けていた時の気持ちが今なら分かる気がする。


こりゃ頑張った甲斐があったってもんだわ。はぁ…何も気にせず味覚に集中出来るなんて…夢のような時間だ…

フランツと結婚したら、朝昼晩こんな感じなのかな…うわ、なにそれ…結婚生活って最高じゃん…!!



「はぁ…早く結婚したい…」


タコが刺さっていたフォークを口に咥えたまま、クリスタは悩ましげにため息をついた。



「……っ!!」


彼女から放たれた誘うような言葉に、溢れ出ている色気に、フランツは意識を失いかけていた。速くなる心臓の音が煩いほど大きく聞こえる。

彼は、口元を片手で隠し、必死に理性を保った。



まずいまずいまずい…こんなことになるなら個室なんてやめておけば良かった…ちょっとさすがにこれは…ああどうしよう…いやでも…ほんとにちょっと待って…こんなタイミングで俺のことを殺しに来るか…油断も隙もあったものではない…



クリスタに聞こえないよう、声には出さずに口の中だけで気持ちを吐露しまくった。

その甲斐あってか、お昼休みを終えるまで、なんとか冷静さを保つことが出来たのだった。







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