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【本編完結】食に固執する腹黒令嬢は、愛されても気付かない  作者: いか人参
本編

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市場デート


馬車から降りたフランツは、玄関前までやってきた。

外で待っていたクリスタの姿を見つけると、すぐに表情を柔らかくし、微笑みかけた。


黒髪の整った顔の少年が、透き通るような青い瞳を輝かせてクリスタのことを見つめる様子に、なぜか隣にいたセレナが胸を押さえ、息苦しそうにしている。



「初めまして。アルトナー公爵家のフランツと申します。本日は、クリスタ嬢との外出の機会を下さり誠にありがとうございます。安全には十分に配慮し、約束のお時間までにご自宅にお送りしますので、どうかご安心を。」


フランツは、保護者役だろうと思った、セレナとハンナに視線を向け、軽く頭を下げた。


丁寧な言葉遣い、彼の真心が伝わる真摯な声音、礼儀正しい姿勢、その全てに胸を打たれたセレナは、胸の前で手を組み、感心し切った瞳を向けた。



「まぁ。ご丁寧にありがとうございます。なんて素敵なお方ですの。本当にクリスタ様とお似合いですわ。ハンナさんもそう思いませんこと?」


「…チッ」


セレナからの振りに、後ろに控えていたハンナは表情こそ変えないものの、しっかりと舌打ちをしていた。

聞こえていたフランツは、俺なんかやったっけ…と焦った目でクリスタの方を向いたが、彼女は気にするなと言うように黙ったまま首を横に振った。



「さぁ、そろそろ行きますわよ!」

「ああ。では、行って参ります。」

「「行ってらっしゃいませ。」」


ハンナの視線から逃げるように、クリスタはフランツの腕を引っ張り、馬車の方へと向かって行った。





「市場ってどんなお店があるの?食べ歩き出来る?そこでしか食べられないものって何?一番人気のお店も知りたいな。なるべく多くの種類を食べたいから、全部半分こしよう。どのくらいお店ある?半日で周り切れる?」


馬車の中、向かい側に座るフランツではなく、窓の外を眺めながら矢継ぎ早に質問をするクリスタ。

頭の中は食べ物のことだけで、美しい少年と二人きりの状況に緊張している様子はまるでない。むしろ、二人きりなのを良いことに、令嬢の皮を脱ぎ捨て存分に寛いでいる。



「ふふふ」

「なに?」


堪えるような笑い声に、クリスタは初めてフランツの方を見た。

そこに恥じらいなどはなく、笑われたことに対して普通に怒っているような口調であった。



「本当に、食べることが好きなんだなって。微笑ましいなと思ってね。」


「食い意地が張った女だって呆れてるんでしょ。本当のことだから別に気にしないけど。」


他の人の目が無い今、ほとんど素のクリスタは吐き捨てるような言い方をした。学園では絶対に見せない顔だ。



「すごく可愛い。俺は、とても好ましいと思っているよ。」


甘い声、優しい瞳、蕩けるような笑顔、その全てがクリスタに向けられている。

普通の令嬢だったら、これは間違いなく愛の告白だと思うだろう。そう、「普通の」ご令嬢であれば。



「…物好きな人。」


クリスタの答えはひどく冷たかった。


これには、フランツも苦笑せざるを得なかった。バッキバキに折れた心をなんとか誤魔化し、クリスタからの質問に丁寧に回答していった。


自分の質問に、澱みなく答えていくフランツの話に、クリスタは真剣に耳を傾けていた。

フランツは、どんな話題であれ、自分の話に聞き入ってくれるクリスタの姿が嬉しくて堪らなかった。

彼女の関心を独り占めしている事実に、完全に舞い上がっていた。



フランツが至福の時を満喫していると、あっという間に市場に着いた。

市場入り口の停車場に止まると、御者がノックをしてドアを開けた。


最初にフランツが降り、クリスタにエスコートの手を差し出す。

彼女は彼の手を取り、地面へと降り立った。



「さぁ、行こうか。」

「ええ!」


繋いだ手はそのままに、二人は歩き出した。


市場と呼んでいるここは、平民も利用する、食べ物を扱う屋台の集合体のような場所だ。

この土地の名産品から隣国のスパイス類、採れたての海産物、日持ちのする菓子類など何でも取り扱っている。

王宮で扱うような高級食材を置いてある店まである。

休日に当たる今日はたくさんの人で賑わっていた。



「すごーーーーーい!!!なんだこの夢のような場所は!!!あちこちから良い匂いがする!早く全部口にしたい!」


今日は地味なワンピースを着てるとはいえ、クリスタの美しい見た目は人の目を惹きつける。大声を出す美女に、周囲の視線が集まりつつあった。


フランツは、クリスタの無警戒に若干呆れながらも、繋いだ手を軽く引き、自分の背中に隠すように庇った。



「フランツ!早く行くよ!あっちから良い匂いがする。あ、でも待って、向こうにも何か美味しそうなものが見える…ああどうしよう!迷うーーー!!」


自分がどれだけ目立っているか自覚のないクリスタは、繋いだ手をぶんぶん振り回しながら、思ったことを片っ端から言葉にしていた。



「店の配置は全て頭に入っているから、気になるところは全て行こう。だからそんなに慌てなくても大丈夫だよ。」


クリスタに向かってにっこりと微笑みかけた。

それぞれの屋台がかなり複雑な配置をしているこの市場。フランツは、この日のために、最新の配置を書き起こし、それを全て頭に入れて来たのだった。



「すごい!それは便利だ。じゃあまずは…」


クリスタへの想いが詰まったフランツの並々ならぬ努力は、「便利」の一言で片付けられてしまった。








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