エメリヒへの相談
夜会の翌日、フランツはエメリヒに相談をするために彼を呼び出そうとしたのだが、その前にエメリヒの方から話があると声を掛けてきた。
王都にあるカフェ、というよりかは喫茶店と呼んだ方が近い古風な店に二人はいた。
二人の前にはコーヒーが並んでいる。
「さ、昨日のことを洗いざらい話してもらうよ。お前、あの子といつからそんな関係だったの?聞いてないんだけど。」
腕を組んだエメリヒが凄みをきかせてきた。
が、フランツに動揺する気配は1ミリもない。優雅にコーヒーを啜っている。
「俺もお前に聞きたいこと…というか相談があるのだが…」
「は?惚気だったら聞かないからね。」
一瞬だけ視線を外し、なにやら悩む仕草をした後、フランツは言いにくそうに口を開いた。
「その…女性って、どうやって口説けば良いんだ?」
「は…??お、お前…あんなに素晴らしく可愛い婚約者がいながら他の子にも手を出そうと…なんという鬼畜…」
「違う、誤解だ。俺が口説きたいのは、その婚約者、クリスタだ。」
「は・・・・・・??」
エメリヒは、フランツの言葉に目を見張った。
「お前、ま、まさか…金で買ったの…?公爵家の権力を使って…?金だけでは心まで手に入れられなかったのか…」
「何でそうなるんだよ…」
明後日の方向に誤解しまくるエメリヒに、フランツは仕方なく、ワケあって自分たちの婚約は1年間限定の仮初であることを伝えた。
「だから俺は、1年以内に彼女のことを振り向かせて、本当の婚約者になりたいんだ。」
「ふーん・・・・・」
先ほどの追求姿勢はどこへやら、興味を無くしたエメリヒは頬杖を付き、面白くなさそうな顔をしている。
「何だよ…」
「それ、俺にとって何かメリットある?俺だって可愛い子と仲良くなりたいのに、なんでお前の手助けをしないといけないの?ねぇズルくない??」
「はぁ…分かったよ。協力してくれたら、うちで夜会を開いてやる。アルトナーの名なら、大抵の女子は喜んで来るだろうよ。」
フランツの言葉を聞いた途端、エメリヒの頭に、ピコンッと耳が立ったように見えた。退屈そうだった顔がパッと明るくなる。
「仕方ないね、親友の一大事だから、出来る限りのことをしてあげよう。このエメリヒ兄さんに任せなさい!」
「お前は…アルトナーの名に群がる女子で良いのかよ…」
エメリヒは、フランツのボヤキを無視して店員を呼び、ジュースとケーキを追加注文すると、嬉々として女性を口説き落とすためのアレコレを披露し始めた。
最初はうんうん、なるほどと頷きながら話を聞いていたフランツだったが、途中からしかめ面になり、最後の方は完全に引いていた。
調子に乗ったエメリヒがえげつない手の内まで話し出したからだ。
「お前は、いつもそんなことをしてるのか…」
「うーん…いつもってわけじゃないけれど、本気の子の時にはしちゃうよね。」
「…」
ふふふと照れ笑いをするエメリヒだったが、フランツは全く笑えなかった。
普通にモテるくせに、そんなことしてるから最後に逃げられるんじゃないのか…
フランツは言いたかった言葉を飲み込んだ。
そんな心の内など知らないエメリヒは、上機嫌でオレンジジュースを飲んでいた。




