撃退
「そろそろ戻るか?」
「え、ああ、そうね。」
な、まさかの、入学してまだ1ヶ月なのに、狙っていた大物釣り上げたーーー!!!!
師匠、ありがとうーーー!!帰ったら早速お礼状を書こう。
こんなに早く念願叶うだなんて…さすが2回目の人生、めちゃくちゃスムーズじゃん!!!
ヨーク家の夜会の食事なんてもうどうでもいいわ!!!私はもう無敵よ!!ははははははははっ!!!!!
「まだ、ここにいたんだね。」
うっげ…この声は………
中々会場に戻って来ないクリスタのことを心配したヨークは、庭園に戻って来たのだ。
彼は、クリスタの側にいるフランツの存在にも気付いており、冷ややかな視線を送っている。
「あれ?どうしてここにアルトナーがいるのかな?」
ヨークは、ワザとらしく小首を傾げながら尋ねて来た。
彼の言葉の真意としては、『関係のないお前はさっさと失せろ』である。
「見ての通りだ。」
「はぁ?」
低く、ドスの効いた声だった。
ヨークの冷ややかな視線に、明らかな敵意が上乗せされた。射るような鋭い視線をフランツに向けた。
おいおいおいおいおいおいおい。
私が言えた口じゃないけれど、もうちょっと繕えよ、口説く相手の前で見せる顔じゃないだろ、それ。このハリボテ貴公子がっ!!!
「ちょっとだけ、ごめん。」
「え?」
クリスタが脳内ツッコミを繰り広げていると、彼女にしか聞こえないほどの小さな声で、フランツが謝って来た。
言い終えたフランツは、素肌に触れないよう細心の注意を払いながら彼女の肩をそっと抱き、かなり遠慮がちに自分の方に引き寄せた。
彼は、それを見せつけるように、勝ち誇ったような笑みを浮かべて、ヨークのことを真正面から見た。
「色良い返事を貰えたばかりなんだ。邪魔をしないでもらえるか?」
「なっ…そんなこと聞いて…」
「聞いてないって?どうしてお前に言う必要があるんだ?お前は、クリスタにとって何なんだよ。思い違いも大概にしろよ。」
最後の言葉は、氷のように冷たく、身の危険を感じるほどの圧が込められていた。
フランツの殺気に当てられたヨークは、無意識に身体が震えていた。
「ぼ、僕は忙しいんだ。失礼するよ。」
怯んだヨークは、よく分からない言い訳を残して、フランツから逃げるように去って行った。
「いきなり悪かった。」
ヨークが後ろを向いた瞬間、フランツは彼女の肩に回していた自分の腕をすぐにどかした。
「あーっ!スッキリしたあああああああ!!!フランツのおかげね!!!猫かぶったままだと思い切り言い返せなくて…だからめちゃくちゃスカッとしたーーーーー!!!」
クリスタは完全に素だった。
もうバレているフランツ相手に取り繕うことはやめたらしい。
だが、屈託のない無防備な笑顔はフランツには刺激が強過ぎたようで、その破滅的な可愛さに見事に固まった。
そして、よく見ると耳まで赤い。
「ん?どうかした?」
フランツの反応がないことを不思議に思ったクリスタは、彼の顔を覗き込んできた。
「ちょっ」
「ちょっ…??」
ちょっともう無理、一回向こう向いて、自分の方を見ないで、そっとしておいて、そう言いたかったフランツだったが、クリスタの可愛い復唱に、自分がなんて男らしくないことを口にしようとしているのかを認識し、既の所で言葉を止めた。
「ちょっと、さすがにそろそろ戻るか。」
無理やり言葉を繋げた。
「今日は俺の友人…腐れ縁みたいなヤツも来ていて、紹介しても良いか?」
会場に戻る道すがら、クリスタの顔色を伺いながら尋ねて来た。
「もちろん。私も友人が来てるし、騙すならまずは味方からよね。」
「あ、ああ…」
フランツは歯切れの悪い返事をした。
微妙な顔をしたまま会場までの僅かな道のりを二人で歩いて行った。
「あ、いた。あそこにいる髪が赤いヤツが俺の友人。おい、エメリヒ!」
この国に赤髪は少なく、フランツは容易に探し人を見つけることが出来た。
気付いたエメリヒが足早にこちらに向かって来たと思いきや、やや手前で立ち止まった。
フランツとクリスタを交互に見やり、表情が固まった。
「な、ななな、なんで、お前がその子と一緒に…?」
「お前に紹介しようと思って。俺の婚約者、クリスタ・ベルツ。」
「初めまして。ベルツ侯爵家のクリスタでございますわ。どうぞ宜しくお願いしますね。」
「・・・・・・・・」
事態が飲み込めない、ないしは、目の前の現実を受け入れたくないエメリヒは、固まった。数十秒もの間、微動だにしなかった。
あまりにも反応が返ってこないエメリヒに、もうひと声何か言うべきかとクリスタが迷い出した頃、
「ウソだろッーーーーーーーーー!!!!」
エメリヒの絶叫が会場内に響いた。
彼のおかげで、クリスタとフランツの婚約は瞬時に広がり、周知の事実となった。




