ハードなお話相手ですわね
夜、アスタリオンの寝室、その手に握られていた手錠。これはどういうことなのだろうか、昨日見逃してもらえたのは、万全の状態で捕まえるための嘘であったのか。だが魔法契約を交わしているはず。なら何故手錠を……?
様々な考えが頭をよぎるが、結局答えはわからない。
だからシスティアは見ないふりをした。
「……第二王子殿下にご挨拶申し上げます。」
漫画であればニコッという文字でも書かれていただろう。
「あぁ、立ち話もなんだ。そこに座れ。」
アスタリオンが示す方向には机と椅子、そしてボトルに入った飲み物とフルーツが置かれている。
「酒が飲めるかわからなかったからな、ノンアルコールのものを用意した。」
そういうと、アスタリオンは先に椅子に座ってしまった。
「ご配慮、痛み入ります。」
(この机、小さくないかしら?!しかも、殿下と向い合せで座るなんて気まずくて無理ですわ!!それに殿下は何故手錠に触れず普通に話しているのです??)
システィアが椅子に座ると、アスタリオンは自分のグラスとシスティアのグラスに飲み物を注いだ。
「そんな、殿下についでいただくなど恐れ多いです。私がいたしますわ。」
「いや、いい。女性の手を煩わせることはしない。それに、どこの誰とも知れぬやつが入れた飲み物なんて怖くて飲めないからな。」
「そ、それは……。」
システィアが気まずそうに視線をそらす。
「昨日見逃すといったのは俺だ。その言葉に嘘はない。だが、また何かしようとするなら話は別だ。お前が先程から気にしているこれで、お前を捉える。」
アスタリオンが持っていた手錠は、システィアがおかしな行動をした時に捉えるためであったらしい。
(あの手錠は私への牽制も含まれているってことなのですね……。危害を加える気などありませんけれど、アスタリオン殿下に変だと思われたらおしまい、というわけですか。気を引き締めないといけませんわね。)
「今日は契約の詳しい条件を伝えるだけだ。そう身構えなくていい。」
「はい……。」
「俺がお前に求める条件は四つだ。それさえ守れば問題ない。」
「四つ、ですか。」
「あぁ。一つ、嘘をつかない。二つ、俺の不利益につながることはしない。三つ、俺の味方になれ。最後、四つめは昨日も言ったが、毎晩俺の元へ来ること。まぁ最後の四つめは俺の予定もあるからな。俺が来なくて良いと言った日は除外だ。」
システィアは元々アスタリオンの助けになるために動いていたのだから、アスタリオンが出した条件に概ね不満はない。だが、システィアにはどうしてもわからないことがあった。
「あの、質問よろしいですか?」
「なんだ?」
「私は毎晩殿下の元へ来て、何をすればよろしいのでしょうか。」
そう、何故自分が毎晩殿下の元へ行くのかである。
「そうだな。俺に面白い話を聞かせろ。」
「面白い話、ですか?」
「あぁ、お前が見て、聞いて、体験した中で興味深いと思ったことを教えてくれたら良い。」
「そんなことでよろしいのですか。」
「そんなこと、が、大事なんだ。それでは、これからよろしくたのむよ。」
アスタリオンはそういうと、グラスを傾けシスティアのグラスに軽くあてた。
システィア(ノンアルコールとは言え、ワインなんて飲んだことないですわね。どんな味なのかしら……?…………っ!!美味しい!!すごい!!どれだけでも飲めるわね!!)ゴクゴクゴクゴク
アスタリオン(すごい飲むな。こいつには警戒心ってものがないのか?)




