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ほんとに殿下ですか!?

 「貴方は、アスタリオン・エーゼロッテを永遠に愛し、幸せにすることを誓いますか?」


 ゴーン、ゴーンと響くベルの音。雲一つない快晴のなか、今日とある二人が結ばれる。


 「はい、誓います。」


 新郎の名前は英雄、アスタリオン・エーゼロッテ第二王子、そして新婦はーー。


 神父様の合図とともに、花嫁のベールがあげられる。二人の顔が近づき、そしてーー。





 ゴーン、ゴーン……。

 「朝の、鐘……。」

 目を覚ますとそこは、いつもと何も変わらない自分の部屋であった。

 「なんていう、夢を……。これもあの手紙が原因ね……。」

 ため息を吐くシスティアの視線の先には一枚の封筒。それは先日王宮から届いたもので、最近のシスティアの悩みの種なのである。


 「はっ、いけないわ、ボーっとしてないで朝の清掃にむかわなければ。」


 バタバタと慌ただしく支度を終え、仕事へ向かう。手紙が届いてから早くも一週間。それ以降王宮からの連絡はなく、詳しい説明も聞けていない。協会では腫れ物に触るような扱いを受けている。それもそうだろう、公の場ではほとんど面識なんかない第二王子と聖女の結婚だ。私達にどんな関係があるかわからない以上、今までと同じ扱いをしていたら自分達が罰せられてしまうかもしれない。


 (せめて、アスタリオン殿下と話せればな……。)


 殿下は無事、魔獣達の増殖を抑え、英雄となって帰ってきた。英雄としての仕事が忙しいのだろう。帰ってきているということはわかっていても、未だに会うことはできていない。


 (きっと殿下から連絡があるはずよね、私はそれまで待っていましょう。)





* * * *


 コンコン、と何かが叩かれる音で目が覚める。眠い目をこすりながら、魔法で明かりをつける。


 「なんの、おと…?」


 またコンコンと音がする。どうやら窓の方からである。


 (怖いのは、苦手、なんだけどな……。)


 システィアは音の原因を確かめるため窓へと向かう。


 コンコン、コンコン。


 音は止まらない。夜遅いため、窓の外は暗くて見えない。開けて、確認するしかないだろう。


 (大丈夫、大丈夫、怖くない、怖くない。)


 システィアは勇気を出してそっと窓を明けた。するとそこには誰もいなかった。


 「だ、大丈夫よ!お化けとか、そういうのじゃなくて、きっと、そう!!風で何かが揺れて、それで音がでてたのよ!きっとそうだわ!!」


 「チュンチュン!」


 「ひっ!」


 いきなり聞こえてきた音に飛び上がるも、その声の主をみて安堵する。


 「なんだ…鳥だったのね……。びっくりしたぁ……。」


 「チュンチュン!」


 鳥はまるで怖くないよ!と慰めるように、システィアの肩にのると頭を擦り付けてきた。


 「ふふっ、ありがとう。ちょっと元気がでてきたわ。あなたも、大きな声でびっくりさせちゃってごめんなさいね。」


 「チュン!!」


 鳥は気にすんな!というように鳴くと、自分の足を出してアピールしている。よく見るとそこには丸められた紙がつけられていた。


 「あら、これ、どうしたのかしら?……もしかして、あなたはお手紙を届ける鳥さんなの?」


 「チュンッ!!」

 ビシッと翼をあげるその姿は肯定ということだろう。システィアが手紙を取ると、その鳥は飛び立ってしまった。


 「あっ、この手紙、私宛ってことよね。誰からかしら?」


 手紙を広げる。



 ー愛しの妻、システィへー

 連絡が遅くなってしまったこと、申し訳ない。本当は君のことを思うと夜も眠れないんだ。少しでも早く、君に会いたい。数日中に、仕事が片付きそうなんだ。そうしたら会いに行くからね。もう少し待っててほしい。

               ー君の夫、アスタリオンー



 何か、疲れているのかもしれない。寝起きで頭が回っていなかったのだろう。深呼吸をして、もう一度手紙に目を通す。



 ー愛しの妻、システィへー


 ー君の夫、アスタリオンー



 何だこれは。私はまた夢でも見ているのだろうか。


 (これ、ほんとに殿下の手紙!?キャラ変わりすぎでは!!?)


 頭の処理が追いつかないシスティア。


 (あぁ、もう、わけがわからない。とりあえず、二度寝しよう……。)


 彼女は考えることを放棄した。

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